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すし検定

目次 第27章 お金の流れ ― 原価・歩留まり・値決め
    1. 序章本書の使い方 ― 二級と一級の範囲
  1. 第I部 食の安全

    1. 第1章世界に広がる寿司と衛生の現実
    2. 第2章微生物と腐敗のしくみ
    3. 第3章寿司屋で起きる食中毒
    4. 第4章洗浄・消毒・異物混入を防ぐ
    5. 第5章温度管理と在庫管理
    6. 第6章なぜ素手で握れるのか
  2. 第II部 シャリ

    1. 第7章米を知る ― 米と炊飯
    2. 第8章合わせ酢と調味
    3. 第9章シャリ切りと温度
  3. 第III部 魚を知る

    1. 第10章魚の死後に起きること ― 死後硬直・熟成・腐敗
    2. 第11章目利きと仕入れ
    3. 第12章冷凍と解凍
    4. 第13章下処理 ― 塩・酢・昆布・皮・骨
  4. 第IV部 ネタ

    1. 第14章マグロ
    2. 第15章白身魚
    3. 第16章光り物
    4. 第17章海老・蟹・イカ・タコ
    5. 第18章貝類
    6. 第19章煮物・玉子・ウニ・イクラ
  5. 第V部 調味料と薬味

    1. 第20章醤油・煮切り・ツメ・出汁と旨味
    2. 第21章わさび・海苔・ガリ・茶
  6. 第VI部 技術と道具

    1. 第22章包丁と砥石
    2. 第23章おろし方と切り付け
    3. 第24章握りと巻き
  7. 第VII部 歴史と職人の心得

    1. 第25章寿司の歴史 ― 屋台から世界へ
    2. 第26章カウンターに立つ ― 接客・おもてなしと職人の責任
  8. 第VIII部 経営

    1. 第27章お金の流れ ― 原価・歩留まり・値決め一級
      1. 27.1 売上はどうできているか
      2. 27.2 原価と原価率
      3. 27.3 歩留まり ― 仕入れ値は本当の原価ではない
      4. 27.4 値段の決め方
      5. 27.5 店のお金の全体図 ― 損益計算書を読む
      6. 27.6 損益分岐点 ― 月に何人来れば赤字にならないか
      7. 27.7 お金が足りなくなるとき ― 資金繰り
    2. 第28章仕入れ・在庫・ロス一級
    3. 第29章開業の準備一級
    4. 第30章お客を集め、常連を育てる一級
    5. 第31章人と店の仕組み一級
  9. 付録 資料編

    1. 付録A覚えておきたい数字と温度・時間の早見表
    2. 付録B食中毒一覧表
    3. 付録C寿司ことばと用語集
    4. 付録D旬のカレンダー
    5. 付録E出題範囲と出題の目安

第VIII部

経営

店を開き、続けるために(一級)

朗読は本文・コラム・まとめを読みます。表・図・確認問題は読みません。再生中は段落を押すと、そこから聴けます。

第VIII部 経営

第27章

お金の流れ ― 原価・歩留まり・値決め

おいしい寿司を握れても、店のお金が回らなければ、店は続きません。この章では、売上がどうできているか、原価とは何か、値段をどう決めるかを、小さな寿司店の計算例で一歩ずつ学びます。むずかしい式は使いません。足し算と割り算だけで、店のお金の流れが見えるようになります。

この章で学ぶこと

  • 売上を「客数」と「客単価」に分けて考えられる
  • 原価率の意味と、寿司店の原価率が高くなりやすい理由を説明できる
  • 歩留まりを入れて、1貫あたりの本当の原価を計算できる
  • 損益計算書の項目を読み、損益分岐点となる売上と客数を計算できる
  • 利益が出ていても現金が足りなくなる理由と、その備えを説明できる

この章では、ひとつの例の店を使って計算します。名前は「すし店A」とします。すし店Aは説明のための架空の店です。席はカウンター10席で、昼と夜に営業し、月に25日開けています。出てくる金額や人数はすべて例です。値段や家賃は、国や地域、店の格によって大きく違います。自分の店の数字に置き換えて読んでください。

27.1 売上はどうできているか

店の売上は、二つの数でできています。一つは客数(きゃくすう)、つまり来てくれたお客様の人数です。もう一つは客単価(きゃくたんか)、つまりお客様一人が払う金額の平均です。売上は、客数に客単価を掛けたものです。

この見方が大事なのは、売上が下がったときに原因を分けられるからです。お客様が減ったのか、一人あたりの注文が減ったのか。原因によって、打つ手はまったく違います。お客様が減ったなら、見つけてもらう工夫が要ります(第30章)。一人あたりが減ったなら、献立や勧め方を見直します。

席数と回転

客数の上限は、席の数で決まります。一つの席に一晩で何組座ったかを回転(かいてん)と言います。10席の店に一晩で12人来れば、回転は1.2回です。おまかせを2時間かけて出す店は、回転を上げにくい店です。そのかわり、客単価が高くなります。立ち食いや回転寿司は、一人の滞在が短く、回転で売上を作ります。どちらが正しいということはありません。自分の店がどちらの形なのかを知っておくことが大事です。

昼と夜は別の店と考える

昼と夜では、お客様も、値段も、出すものも違います。だから数字は分けて見ます。すし店Aの一日を計算してみます。

  1. 昼の売上 昼は1人2,000円の握りのセットを、15人に出します。2,000円に15人を掛けて、昼の売上は3万円です。
  2. 夜の売上 夜は1人1万円のおまかせを、12人に出します。1万円に12人を掛けて、夜の売上は12万円です。
  3. 一日の売上 昼の3万円と夜の12万円を足して、一日15万円です。
  4. 月の売上 月に25日営業するので、15万円に25を掛けて375万円です。

この375万円が、この章の計算の出発点です。昼は月に75万円、夜は月に300万円です。昼は人数が多いのに、売上の8割は夜が作っています。こうして分けると、どちらに力を入れるべきかが見えてきます。

27.2 原価と原価率

原価(げんか)とは、料理を作るために使った材料の代金です。寿司店なら、魚、米、酢、海苔、わさび、ガリ、醤油、お茶などです。酒や飲み物の仕入れ代も原価に入れます。

原価率(げんかりつ)とは、売上のうち、材料の代金がどれだけを占めるかの割合です。原価率は、原価を売上で割って求めます。すし店Aの月の原価が150万円なら、150万円を375万円で割って0.4、つまり原価率は40%です。1万円の売上のうち、4,000円が材料に消えている、という意味です。

寿司店の原価率は高くなりやすい

一般に、飲食店の原価率の目安は3割前後と言われます。寿司店はこれより高くなりやすく、4割前後になる店も珍しくないと言われます。理由は三つあります。

  • 主役の材料が高い。マグロやウニのように、仕入れ値そのものが高いネタを使います。
  • 手を加えて値打ちを足しにくい。煮込みや揚げ物と違い、寿司は生の魚をそのまま出す部分が大きく、材料の値段がそのまま料理の値段に響きます。
  • 傷みやすい。生の魚は日持ちしないので、売れ残りは捨てるしかないことがあります。捨てた分も原価です(第28章)。

原価率が高いことは、悪いことではありません。お客様にとっては、払ったお金の多くが良い材料に回っているということです。ただし、そのぶん他の経費に使えるお金が少なくなります。だから寿司店は、原価をきちんと数えることがとくに大事です。

ネタごとに原価率は違う

店全体の原価率は一つの数字でも、ネタごとに見るとばらばらです。すし店Aの例で、1貫の値段を決めて単品で売ったとします。

表27-1 ネタごとの原価率(すし店Aの例。金額は架空)
ネタ1貫の原価1貫の値段原価率
中トロ400円600円約67%
白身(マダイ)80円250円32%
コハダ60円200円30%
玉子焼き30円150円20%

この表では、中トロは原価率が約7割と高く、玉子焼きは2割と低くなっています。中トロばかり売れると、店全体の原価率は上がります。玉子や光り物、巻物がよく出ると、下がります。店全体の原価率は、どのネタがどれだけ売れたかの組み合わせで決まるのです。

27.3 歩留まり ― 仕入れ値は本当の原価ではない

歩留まり(ぶどまり)とは、仕入れたもののうち、実際に商品として使える部分の割合です。丸の魚を買っても、頭、骨、皮、内臓、血合いは握りのネタになりません。一般に、丸の魚から寿司ネタとして使える身は、マダイで元の重さの3〜4割、アジやサバなどの青魚で4〜5割程度と言われます(第11章)。おろし方や、どこまでネタに使うかで変わります。

歩留まりを入れずに原価を計算すると、原価を大きく見誤ります。すし店Aがマダイを1尾仕入れた例で、順に計算します。

  1. 仕入れ値 2キロのマダイを、1キロ2,000円で買いました。払ったのは4,000円です。
  2. 使える身の重さ 歩留まりを35%とします。2キロの35%は700グラムです。残りの1.3キロは、頭や骨や皮です。
  3. 取れる貫数 1貫のネタを14グラムとします。700グラムを14グラムで割ると、50貫取れます。
  4. 1貫の原価 払った4,000円を50貫で割ると、1貫あたり80円です。

ここでよくある間違いがあります。「1キロ2,000円なら1グラム2円。14グラムで28円」と計算してしまうことです。これは丸ごと全部をネタにできる場合の値段です。本当は頭や骨にもお金を払っているので、1貫の原価は80円です。28円と思い込んで値段を決めると、売るほど損をする店になります。

覚え方は一つです。使える身の値段は、仕入れ値を歩留まりで割ったものです。1キロ2,000円の魚を歩留まり35%で使うなら、2,000円を0.35で割って、使える身は1キロ約5,700円になります。

端身とアラを生かして歩留まりを上げる

握りに使えない部分も、すべてが捨てるものではありません。サクを取ったあとの端の身は、細かくたたいて巻物や軍艦に使えます。頭や中骨は、潮汁や味噌汁の出汁になります。カマは焼いてつまみに出せます。こうして使える部分が増えれば、同じ4,000円で売れるものが増えます。これが歩留まりを上げるということです。

包丁の腕も歩留まりに表れます。中骨に身を厚く残すおろし方では、数十グラムずつ身を捨てていることになります(第23章)。1尾では小さな差でも、毎日、毎月積み重なると、大きな金額になります。

27.4 値段の決め方

値段の決め方には、大きく二つの考え方があります。原価から決める方法と、お客様や相場から決める方法です。実際には、両方を突き合わせて決めます。

原価から決める

目標の原価率を決めて、そこから値段を逆算する方法です。値段は、1貫の原価を目標の原価率で割って求めます。マダイ1貫の原価が80円で、原価率を4割にしたいなら、80円を0.4で割って200円です。この方法は計算がはっきりしていて、損をしにくいのが長所です。ただし、お客様がその値段を高いと感じるか安いと感じるかは、考えに入っていません。

お客様と相場から決める

もう一つは、どんなお客様が、いくらなら払うかから決める方法です。近くの寿司店の値段、店の場所、内装、職人の格によって、お客様が納得する値段は変わります。同じマダイの握りでも、駅前の気軽な店と、予約でしか入れない店では、値段が何倍も違って当然です。お客様は材料だけでなく、技術や、時間や、店の居心地にもお金を払っているからです。

二つの方法で出した値段が大きく違うときは、どちらかを見直します。相場では200円でしか売れないのに原価から計算すると400円になるネタは、仕入れ先や使い方を変えるか、献立から外すかを考えます。

おまかせは原価を平均して組み立てる

おまかせは、一つひとつのネタでなく、コース全体で原価を合わせます。すし店Aの夜のおまかせ1万円で、目標の原価率を4割とすると、使える原価は1人4,000円です。中トロやウニのように原価率の高いネタを入れても、白身、光り物、貝、玉子、巻物、汁と組み合わせれば、全体で4,000円に収まります。高いネタだけを並べると原価が合わず、安いネタだけではお客様が満足しません。高いものと手頃なものを、味の流れに合わせて並べるのが、おまかせの腕です。

時価という値段

品書きに時価(じか)と書くのは、その日の仕入れ値で値段を決めるという意味です。相場の上下が激しいネタで使われます。ただし、値段が分からないまま食べて、会計で驚くお客様もいます。時価のネタは、注文を受ける前に、その日の値段をはっきり伝えます。値段を聞かれて言葉をにごす店は、信用を失います(第26章)。

27.5 店のお金の全体図 ― 損益計算書を読む

売上から、どんなお金が出ていき、最後にいくら残るのか。それを一枚にまとめた表を損益計算書(そんえきけいさんしょ)と言います。英語の頭文字から P/L とも呼ばれます。税理士や会計ソフトが作ってくれますが、読むのは店主の仕事です。すし店Aのひと月を、上から順に見ていきます。

表27-2 すし店Aのひと月の損益(架空の例)
項目金額売上に対する割合
売上375万円100%
原価(材料費)150万円40%
粗利(売上から原価を引いたもの)225万円60%
人件費75万円20%
家賃30万円8%
水道光熱費15万円4%
その他の経費45万円12%
利益60万円16%

言葉で追うと、こうなります。売上375万円から材料の150万円を引くと、粗利(あらり)が225万円残ります。粗利は、材料費を払ったあとに、店を動かすために使えるお金です。そこから人件費75万円、家賃30万円、水道光熱費15万円、その他の経費45万円を払います。その他の経費とは、包材や洗剤などの消耗品、カード決済の手数料、通信費、修理代、広告費、借入金の利息などです。すべて払って残るのが、利益の60万円です。

売上を100としたときの使い道(すし店Aの例) 原価 40 人件費 20 家賃 8 水道光熱費 4 その他の経費 12 利益 16
図27-1 すし店Aの売上の使い道。売上を100とすると、原価40、人件費20、家賃8、水道光熱費4、その他の経費12、利益16です(架空の例)

利益はまだ店主のお金ではない

60万円が残ったからといって、全部を使えるわけではありません。店主が一人で営む個人の店では、人件費の75万円に店主自身の給料は入っていないのが普通です。店主の生活費は、この60万円から出します。さらに、ここから税金を払い、借りたお金の元本を返し、古くなった冷蔵庫を買い替えるための蓄えも作ります。利益が出ていても、手元に残るお金は思ったより少ない。これを知っておくことが、27.7の資金繰りにつながります。

FL比率 ― 材料と人の割合を合わせて見る

飲食店の経費で大きいのは、材料費と人件費です。材料を英語で Food、人件費を Labor と言うので、二つを足して売上で割ったものをFL比率(エフエルひりつ)と呼びます。すし店Aでは、原価150万円と人件費75万円を足して225万円です。これを375万円で割ると60%になります。

一般に、FL比率は売上の6割以内が目安と言われます。これを超えると、家賃やその他の経費を払ったあとに利益が残りにくくなります。寿司店は原価率が高いぶん、人の使い方や仕込みの段取りで人件費を抑え、FL比率で釣り合いを取る、という考え方をします。原価率だけ、人件費だけを見て一喜一憂しないことが大事です。なお、家賃は一般に売上の1割以内が目安と言われます(第29章)。

27.6 損益分岐点 ― 月に何人来れば赤字にならないか

「月にいくら売れば、赤字にならないのか」。これを知っている店主は、意外に多くありません。売上と経費がちょうど同じになり、利益がゼロになる売上を損益分岐点(そんえきぶんきてん)と言います。これを超えれば黒字、届かなければ赤字です。

固定費と変動費

計算の前に、経費を二つに分けます。固定費(こていひ)は、お客様が一人も来なくても出ていくお金です。家賃、従業員の給料、リース料などです。変動費(へんどうひ)は、お客様が増えると増えるお金です。代表は材料費です。お客様が来なければ魚を使わないので、変動費は減ります。

すし店Aでは、話を分かりやすくするために、材料費だけを変動費とし、ほかの経費はすべて固定費とします。人件費75万円、家賃30万円、水道光熱費15万円、その他45万円で、固定費は月165万円です。

計算してみる

  1. 1万円売るごとに残るお金 原価率は40%です。1万円売ると、4,000円が材料に消え、6,000円が残ります。売上のうち6割が、固定費を払うために使えるお金です。
  2. 固定費を払いきる売上 固定費165万円を、6割で払いきるには、165万円を0.6で割ります。答えは275万円です。これがすし店Aの損益分岐点です。
  3. 夜に必要な売上 昼の売上が今と同じ月75万円だとすると、夜に必要なのは、275万円から75万円を引いた200万円です。
  4. 夜に必要な人数 夜の客単価は1万円です。200万円を1万円で割ると、月に200人です。
  5. 一晩に必要な人数 月25日営業なので、200人を25日で割ると、一晩8人です。

つまり、すし店Aは、昼が今のまま入っていれば、夜に一晩8人来れば赤字になりません。今は一晩12人来ているので、4人分の余裕があります。この「一晩何人」という数字を知っていると、毎晩の営業の見え方が変わります。予約が5人しか入っていない日は、早めに手を打てます。

損益分岐点を下げる方法は三つしかありません。固定費を減らすこと、原価率を下げて一人あたりの残るお金を増やすこと、客単価を上げることです。どれも簡単ではありません。だからこそ、店を開く前に、この計算をしておくことが大切です(第29章)。

27.7 お金が足りなくなるとき ― 資金繰り

帳簿の上では利益が出ているのに、支払いの日にお金が足りない。飲食店では、こうしたことが実際に起こります。お金の出入りを日にちで管理することを資金繰り(しきんぐり)と言います。店がつぶれるのは赤字のときだけではありません。現金が尽きたときです。

利益と現金は違う

利益と現金がずれる理由は、主に四つあります。

  • 入るのが遅い カードや電子決済で払われた代金は、その場では入りません。決済の会社から、手数料を引かれて、数日後から翌月に入金されます。
  • 出るのが早い 魚は毎日仕入れます。市場や仲卸への支払いは、現金払いや月末締めの翌月払いなど、取引先によって決まっています。売れる前に、材料のお金が出ていきます。
  • 経費にならない支払いがある 借りたお金の元本の返済は、経費になりません。利益の中から返します。逆に、内装や設備の代金は、何年かに分けて少しずつ経費にします。これを減価償却(げんかしょうきゃく)と言います。払った年と経費になる年がずれるのです。
  • 税金はあとからまとめて来る 日本の場合、売上と一緒にお客様から預かった消費税は、あとで国にまとめて納めます。所得にかかる税金も、一年分をあとから払います。預かった消費税は店のお金ではありません。使ってしまうと、納める時期に困ります。税の制度は国や時期で変わるので、必ず税理士や税務署に確かめます。

年末は売上も支払いも膨らむ

寿司店の繁忙期の年末は、とくに注意が要ります。年末は魚の相場が上がり、仕入れの量も増えます(第28章)。12月の仕入れの支払いは早く出ていきますが、カードで払われた12月の売上の入金は、年が明けてからになることがあります。売上が一番多い月に、手元の現金が一番少なくなる、ということが起こりうるのです。

手元にいくら置くか

売上が落ちる月や、冷蔵庫が急に壊れる日に備えて、手元に現金を置いておきます。どれだけ置くかは店によりますが、一般に、少なくとも固定費の3か月分を目安にすると言われます。すし店Aなら、固定費は月165万円なので、3か月分で約500万円です。開業したばかりの店では、ここまで貯めるのは大変です。だから開業の資金には、内装や設備の代金だけでなく、しばらく赤字でも店を回せる運転資金を入れておきます(第29章)。

この章のまとめ

  • 売上は、客数に客単価を掛けたものです。昼と夜は分けて数え、席数と回転から客数の上限を考えます。
  • 原価率は、原価を売上で割ったものです。一般に飲食店は3割前後が目安と言われ、寿司店は高くなりやすいと言われます。ネタごとの原価率は大きく違い、何が売れたかで店全体の原価率が決まります。
  • 使える身の値段は、仕入れ値を歩留まりで割ったものです。歩留まりを入れないと、1貫の原価を大きく安く見誤ります。端身やアラを生かすと歩留まりが上がります。
  • 値段は、原価から逆算する方法と、お客様と相場から考える方法を突き合わせて決めます。おまかせはコース全体で原価を平均し、時価のネタは注文の前に値段を伝えます。
  • 損益計算書は、売上から原価を引いて粗利を出し、経費を引いて利益を出す表です。FL比率は一般に6割以内が目安と言われます。
  • 損益分岐点の売上は、固定費を「売上のうち原価を引いて残る割合」で割って求めます。客単価で割れば、必要な客数になります。
  • 利益と現金は違います。入金の遅れ、仕入れの先払い、借入の返済、税金に備え、手元に現金を置きます。

確認問題

問1 2キロのマダイを1キロ2,000円で仕入れ、歩留まりは35%、1貫のネタを14グラムとする。1貫あたりの原価として正しいものはどれか。
a 約14円
b 28円
c 約57円
d 80円
e 140円

答え:d

払ったのは4,000円です。使える身は2キロの35%で700グラム、14グラムずつなら50貫取れます。4,000円を50貫で割って、1貫80円です。bの28円は、魚を丸ごと全部ネタにできるとした計算で、歩留まりを入れ忘れた誤りです。

問2 固定費が月165万円、原価率が40%の店の損益分岐点の売上として正しいものはどれか。原価以外の経費はすべて固定費とする。
a 66万円
b 165万円
c 231万円
d 275万円
e 412万5千円

答え:d

原価率が40%なので、売上のうち6割が固定費を払うために残ります。固定費165万円を0.6で割ると275万円です。eは原価率の40%で割った誤りです。

問3 「利益が出ているのに現金が足りなくなる」理由の説明として、誤っているものはどれか。
a カード決済の代金は、手数料を引かれて後日入金されるから
b 魚の仕入れ代は、売れる前に支払うことが多いから
c 借入金の元本の返済は経費にならず、利益の中から返すから
d お客様から預かった消費税は店の利益なので、納める必要がないから
e 年末は仕入れが増える一方、売上の入金が年明けにずれることがあるから

答え:d

日本の場合、預かった消費税は店のお金ではなく、あとで国に納めるものです。使ってしまうと、納める時期に現金が足りなくなります。ほかの四つは、利益と現金がずれる正しい理由です。