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すし検定

目次 第18章 貝類
    1. 序章本書の使い方 ― 二級と一級の範囲
  1. 第I部 食の安全

    1. 第1章世界に広がる寿司と衛生の現実
    2. 第2章微生物と腐敗のしくみ
    3. 第3章寿司屋で起きる食中毒
    4. 第4章洗浄・消毒・異物混入を防ぐ
    5. 第5章温度管理と在庫管理
    6. 第6章なぜ素手で握れるのか
  2. 第II部 シャリ

    1. 第7章米を知る ― 米と炊飯
    2. 第8章合わせ酢と調味
    3. 第9章シャリ切りと温度
  3. 第III部 魚を知る

    1. 第10章魚の死後に起きること ― 死後硬直・熟成・腐敗
    2. 第11章目利きと仕入れ
    3. 第12章冷凍と解凍
    4. 第13章下処理 ― 塩・酢・昆布・皮・骨
  4. 第IV部 ネタ

    1. 第14章マグロ
    2. 第15章白身魚
    3. 第16章光り物
    4. 第17章海老・蟹・イカ・タコ
    5. 第18章貝類
      1. 18.1 貝の衛生 ― 「新鮮なら安全」が通用しない
      2. 18.2 赤貝 ― 握る直前に叩く
      3. 18.3 ホタテ ― 横に切る
      4. 18.4 アワビ ― 熱の入れ方で決まる
      5. 18.5 その他の貝とツブの毒
      6. 18.6 貝の扱い ― 目利き・むき方・切り付け
    6. 第19章煮物・玉子・ウニ・イクラ
  5. 第V部 調味料と薬味

    1. 第20章醤油・煮切り・ツメ・出汁と旨味
    2. 第21章わさび・海苔・ガリ・茶
  6. 第VI部 技術と道具

    1. 第22章包丁と砥石
    2. 第23章おろし方と切り付け
    3. 第24章握りと巻き
  7. 第VII部 歴史と職人の心得

    1. 第25章寿司の歴史 ― 屋台から世界へ
    2. 第26章カウンターに立つ ― 接客・おもてなしと職人の責任
  8. 第VIII部 経営

    1. 第27章お金の流れ ― 原価・歩留まり・値決め一級
    2. 第28章仕入れ・在庫・ロス一級
    3. 第29章開業の準備一級
    4. 第30章お客を集め、常連を育てる一級
    5. 第31章人と店の仕組み一級
  9. 付録 資料編

    1. 付録A覚えておきたい数字と温度・時間の早見表
    2. 付録B食中毒一覧表
    3. 付録C寿司ことばと用語集
    4. 付録D旬のカレンダー
    5. 付録E出題範囲と出題の目安

朗読は本文・コラム・まとめを読みます。表・図・確認問題は読みません。再生中は段落を押すと、そこから聴けます。

第IV部 ネタ

第18章

貝類

貝は、寿司ネタの中でいちばん食中毒と結びつきやすい食材です。貝には「新鮮なら安全」が通用しません。一方で、赤貝を叩く、ホタテを横に切る、アワビを低い温度で煮るといった貝ならではの仕事は、身のつくりを知ると理由が分かります。この章では、貝の衛生とおいしさの仕事をいっしょに学びます。

この章で学ぶこと

  • 二枚貝が「新鮮でも安全とは限らない」理由と、「生食用」「加熱用」の表示の意味を説明できる
  • ノロウイルス・貝毒・テトラミン・腸炎ビブリオのうち、加熱で防げるものと防げないものを区別できる
  • 赤貝を握る直前に叩く理由、ホタテを横に切る理由、アワビを 70〜80℃で長く煮る理由を説明できる
  • 生食用カキの基準と貝毒の規制値、海外の貝の管理の仕組みを説明できる(一級)
  • 貝ごとの目利き・保管・むき方・切り付けを判断できる(一級)

18.1 貝の衛生 ― 「新鮮なら安全」が通用しない

アサリ、ハマグリ、カキ、ホタテなどの二枚貝は、濾過摂食(ろかせっしょく)をして生きています。海水を吸い込み、えらで小さな餌をこし取る食べ方です。カキ 1 個が 1 日にこす海水は、100 L を超えることもあります。

海水にウイルスや毒を持つプランクトンがいれば、貝はそれを体の中にためこみます。とくにためこむのが中腸腺(ちゅうちょうせん)です。消化を受け持つ内臓で、貝の「ウロ」「ワタ」と呼ばれる部分です。だから貝は、魚と違って「新鮮だから安全」とは言えません。どこの海で採れたかが、安全を左右します。

ノロウイルス

ノロウイルスは、人の腸の中でだけ増えるウイルスです。感染した人の便から下水を通って海に出たウイルスを、二枚貝がためこみます。ごく少ない量、10〜100 個程度とされる量でも発症します。流行は冬で、11 月から 2 月頃が中心です。冷凍しても死なず、消毒用のアルコールは効きにくいウイルスです。

  • 貝を加熱して出すなら、中心が 85〜90℃で 90 秒以上になるまで火を通します。
  • 器具やまな板の消毒には、次亜塩素酸ナトリウム(200 ppm)を使います(第4章参照)。
  • 貝を扱った後は、石鹸で 2 度洗いをします(第4章・第6章参照)。

忘れてはいけないことがもう一つあります。ノロウイルスの食中毒の多くは、貝ではなく調理する人の手から広がっています。ノロウイルスにかかった職人は、症状が治まっても、検便でウイルスがないと確認できるまで食品に直接触れません(第3章参照)。

「生食用」と「加熱用」の表示の意味

カキには「生食用」と「加熱用」の表示があります。鮮度の差と誤解されやすいのですが、違いは採れた海域と処理の違いです。

生食用は、水質の基準を満たす指定海域で採れたカキです。または、清浄な海水で浄化したカキです。浄化とは、きれいな海水を吸わせて、体内の菌を吐き出させる処理です。加熱用は、それ以外の海域で採れたものです。加熱用のほうが栄養の多い海で育ち、身が大きいことも多くあります。

表18-1 カキの「生食用」と「加熱用」
項目生食用加熱用
何で決まるか指定海域で採れたもの、または浄化したものそれ以外の海域で採れたもの
鮮度との関係関係ない
守る基準細菌の数などの基準と、10℃以下での保存生で食べるための基準はない
生で出せるか出せる。ただしノロウイルスがいない保証ではないどれほど新鮮でも生で出さない

表の要点を言葉で言うと、生食用でも安心しきらず、加熱用は決して生で出さない、ということです。ホタテの貝柱など、ほかの貝のむき身にも「生食用」「加熱用」の表示があります。どの貝でも、生食用の表示がない二枚貝は、必ず加熱して出します。

腸炎ビブリオと貝の保管

夏の海水には腸炎ビブリオがいます。海にすむ食中毒菌で、とても速く増えますが、真水に弱い菌です。殻付きの貝は、流水で殻をよく洗います。むき身は真水でさっとすすいでから冷やします。

生きた貝は、海水の温度に近い 5〜10℃ほどで、殻付きのまま保管します。魚のように 0℃近くまで冷やすと、弱って死にます。次のような貝は死んでいます。口が開いたまま、触っても閉じない。持つと軽い。硫黄やアンモニアの匂いがする。死んだ貝は急速に腐るので、加熱用にも回さず捨てます。

生食用カキの基準

生食用のカキには、国が決めた成分規格があります。細菌の数は 1 g あたり 5 万以下です。大腸菌(E. coli)は、100 g あたりの最確数で 230 以下です。最確数とは、統計の方法で推定した菌の数のことです。腸炎ビブリオは、1 g あたりの最確数で 100 以下です。これに加えて、10℃以下で保存するという保存基準があります。

大事なのは、この成分規格が細菌だけの基準だということです。ノロウイルスは対象に入っていません。だから、生食用でもノロウイルスの危険はなくなりません。冬に生ガキを出す店は、このことをお客様に説明できるようにしておきます。

貝毒のしくみと規制

貝毒は、渦鞭毛藻(うずべんもうそう)などの有毒プランクトンを餌にした二枚貝にたまります。主なものは二つです。

  • 麻痺性貝毒 サキシトキシンなどの毒です。唇や手足のしびれから始まり、重いと呼吸が止まって亡くなります。
  • 下痢性貝毒 オカダ酸などの毒です。激しい下痢と嘔吐を起こします。

どちらも加熱では壊れません。日本では、都道府県が海域ごとに貝の毒の量を調べています。規制値は、麻痺性が 1 g あたり 4 MU(マウスユニット)、下痢性が 1 kg あたりオカダ酸に換算して 0.16 mg です。これを超えると出荷が止まります。市場に出る貝が安全なのは、この監視があるからです。

ホタテは、毒が中腸腺に集まり、貝柱にはたまりにくい貝です。そのため規制中でも、認められた加工場で中腸腺を除いた貝柱などの製品に限って、出荷が認められます。ホタテのウロを食べないのは、この貝毒と、同じ場所にたまるカドミウムを避けるためです。

腸炎ビブリオの性質と、貝ごとの保管

腸炎ビブリオは、水温が 20℃を超える夏に海で増えます。条件がよいと約 10 分で数が倍になります。10℃以下では、増え方が大きく鈍ります。魚の身は 3% の立て塩で洗いますが(第13章・第16章参照)、貝のむき身は真水ですすぎます。腸炎ビブリオが真水に弱いことを優先するからです。ただし水っぽくならないよう、すすぐのは短い時間だけにします。

表18-2 活きた貝の保管の目安
貝温度方法注意
アサリ・ハマグリ10℃前後濡れた新聞で包んで暗い所に。砂抜きは 3% の塩水で 2〜3 時間真水と冷やしすぎで死ぬ
赤貝・ホッキ・トリガイ5〜10℃濡れた新聞で包み、重ねすぎない殻を乾かさない。トリガイは擦れに弱い
ホタテ5℃前後平らな殻を上にして並べる逆さにすると体液が流れて弱る
アワビ・サザエ10℃前後濡れ布巾をかけ、海水か 3% の塩水で湿らせる乾燥と真水に弱い
カキ(生食用)10℃以下殻付きは平らな殻を上に。むき身は保存基準どおり加熱用と混ぜない

表の中身をまとめると、多くの貝は 5〜10℃、ホタテはやや低めの 5℃前後で、どれも乾燥と真水を嫌います。死んだ貝は、殻どうしを打ち合わせたときの鈍い音でも見分けられます。死んだ二枚貝は、体の中の酵素と細菌で急速に腐ります。

18.2 赤貝 ― 握る直前に叩く

赤貝は、身を外してヒモと分けます。ヒモは、身のまわりにあるひだの部分です。身を開いて黒い肝とワタを取り、塩で揉んでぬめりを落とします。表面に浅い格子の切れ目を入れたら、握る直前にまな板に強く叩きつけます。

叩くと、刺激を受けた筋肉が一瞬で縮みます。身が反り返り、コリッとした歯応えと、立体的な形が出ます。これはまだ生きている筋肉の反応です。時間が経った身は、叩いても反りません。なお、これを「死後硬直」と呼ぶのは誤りです。死後硬直は、死んだ後に時間をかけて筋肉が固まる、別の現象です(第10章参照)。

産地と旬、むき方と仕込み

赤貝は、宮城県の閖上(ゆりあげ)のものが最高級とされます。瀬戸内や九州にも産地があり、流通量の多くは中国産と韓国産です。旬は冬から春です。身の色が濃い橙色で厚く、ヒモが太いものを選びます。多くの貝の血の色素は、銅を含むヘモシアニンです。赤貝はヘモグロビンなので、血が赤く、特有の風味が出ます。

  1. 殻を開ける 殻の合わせ目に貝むきを差し込みます。蝶番(ちょうつがい)の反対側です。上の殻の内側に沿わせて貝柱を切り、下の殻の貝柱も切って身を外します。
  2. 身とヒモを分ける 身(足)のまわりのヒモを切り離します。ヒモに付いた貝柱と肝を切り分けます。
  3. 肝を除く 身を厚みの半分まで開き、中の黒い肝とワタを刃先でこそげ取ります。肝は砂と苦みを含み、残すと傷みが早くなります。
  4. 塩揉みと洗い 身とヒモに塩を振って揉み、ぬめりと血を落とします。流水でさっと洗い、水気を拭きます。
  5. 飾り包丁 開いた身の表面に、浅い格子の切れ目を入れます。噛み切りやすくなり、醤油が絡みます。
  6. 叩く 握る直前に、身をまな板に 2〜3 回強く叩きつけます。

18.3 ホタテ ― 横に切る

ホタテで寿司ネタにするのは貝柱です。上下の殻を閉じる筋肉のことです。貝柱は殻と殻をつなぐ筋肉なので、繊維も殻と殻をつなぐ向き、つまり縦に走っています。そこで、横に包丁を入れて繊維を断ちます。

切り口が増えると、甘みのもとであるグリシンやアラニンなどのアミノ酸が、舌に触れやすくなります。そのため、とろりと甘く感じます。縦に切ると、繊維にそって切ることになり、噛み切りにくく、甘みも弱くなります。図18-1 は、横に切る切り方と縦に切る切り方を並べたものです。

横に切る(よい) 繊維を断つ。甘みを感じやすい 縦に切る 繊維にそって切る。噛み切りにくい 細い線=貝柱の繊維(殻と殻をつなぐ向きに走る)
図18-1 ホタテの貝柱は繊維が縦に走る。横に切って繊維を断つ。

甘みの成分と、ホタテの仕込み

ホタテの味に関わる成分は、甘いアミノ酸のグリシンとアラニン、うま味のグルタミン酸と AMP などです。ホタテにはグリコーゲンも多く含まれますが、グリコーゲンそのものには味がありません。身のコクや食感に関わるとされています。「グリコーゲンが甘い」と説明するのは誤りです。

厚さが 2 cm を超える貝柱は、2〜3 枚に開き、表面に浅い切れ目を入れます。活けの殻付きは、平らな殻を上にしてヘラを差し込み、上の殻の内側に沿わせて貝柱を外します。むき身は、生食用の表示があるものだけを生で使います。冷凍の貝柱(玉冷)は、冷蔵庫で一晩かけて解凍し、出てきた汁(ドリップ)を拭きます。

ヒモは塩揉みでぬめりを落とし、さっと茹でるか炙ります。炙ると、表面の糖とアミノ酸がメイラード反応を起こして香ばしくなります。熱で糖とアミノ酸が結びつき、茶色の色と香りが出る反応です。中まで火を通すと甘みが消えるので、炙るのは表面だけにします。

18.4 アワビ ― 熱の入れ方で決まる

生のアワビは、コリコリと硬い食感です。薄くそぎ切りにして、細かい切れ目を入れます。

煮アワビは、沸騰させずに 70〜80℃を保ち、3〜5 時間煮ます。硬さのもとはコラーゲンという丈夫なタンパク質です。これが、低い温度で長い時間をかけてゼラチンに変わり、柔らかくなります。沸騰させると、身が縮んで硬くなります。

大根を入れて煮る店も多く、「大根の酵素が柔らかくする」と言われてきました。しかし大根の主な酵素はデンプンを分解するもので、タンパク質には働きません。熱にも弱い酵素です。この説明には裏付けがありません。柔らかくなる主な理由は、温度と時間です。

アワビの種類と旬、肝の扱い

クロアワビは身が締まって香りが高く、生で最高級とされます。メガイアワビは身が柔らかく、蒸しや煮物に向きます。マダカアワビはいちばん大きな種類で、希少です。エゾアワビはクロアワビの北の型で、東北と北海道に多く産します。よく似たトコブシは別の種類で、小型です。殻の呼吸の穴は、アワビが 4〜5 個、トコブシは 6〜8 個と多くなります。アワビの旬は産卵前の夏、6〜9 月頃です。多くの地域で、秋から冬は漁が禁止されます。

殻から外すときは、殻の薄い側から、身と殻の間にヘラを差し込みます。殻の内側に沿わせて貝柱を外し、肝を破らないように身を持ち上げます。肝を切り離し、身の先の口を切り取ります。身に塩をまぶして揉み、たわしで黒いぬめりを落とします。タコの塩揉みと同じく、塩の浸透圧と、こする力でぬめりを除く作業です(第17章参照)。

肝は、中腸腺と、それを包む生殖巣でできています。生殖巣の色によって、雌は緑、雄はクリーム色に見えます。肝は加熱して、肝醤油やソースにします。ただし 2〜5 月の中腸腺には、ピロフェオホルバイド aがたまることがあります。餌の海藻から来る物質で、食べた後に光に当たると皮膚炎を起こします。春の肝は、たくさん出さないようにします。

煮アワビの仕事と、柔らかくなるしくみ

煮汁は、酒と水に薄い醤油を加えたものです。輪切りの大根を入れて 70〜80℃を保ち、串が芯まで抵抗なく通るまで加熱します。コラーゲンは 65℃前後から水を抱えてゼラチンに変わり始めますが、その変化はゆっくりです。低い温度で長くかけると、筋肉のタンパク質が縮みすぎることがありません。海老に火が入りすぎたときと同じ縮みを避けられるので(第17章参照)、水分を保ったまま柔らかくなります。沸騰させて短い時間で煮ると、外は縮んで硬く、中は生のままになります。

煮上がったら煮汁の中で冷まし、煮汁ごと 4℃以下で冷蔵して、2〜3 日のうちに使います。出すときは、ツメか肝のソース、または塩を添えます。

18.5 その他の貝とツブの毒

ハマグリの身は、60℃を超えると急に縮んで硬くなります。そのため煮込まず、口が開いたらすぐ取り出し、冷ました汁に漬けて味を入れます。このツケ込みの手順は、第19章で学びます。

貝の中でとくに注意が要るのが、ツブと呼ばれる巻貝です。エゾボラの仲間で、身の中に黄白色の唾液腺(だえきせん)を持っています。

ツブとバイ貝の毒、主な貝の要点

テトラミンは神経に働く毒です。めまいのほかに、頭痛や船酔いのような症状が出ます。数時間で治まりますが、転んだり、運転中に事故を起こしたりする危険があります。唾液腺は 1 対あります。身を縦に開き、指でつまんで完全に取り除きます。バイ貝は、中腸腺からフグ毒が見つかった例があるので、内臓を除きます。

表18-3 寿司屋で扱う主な貝の要点
貝旬の目安仕込みと出し方注意
ハマグリ冬〜春さっと煮て、冷ました汁に漬け込む(第19章)在来種は少ない。流通の多くは鹿島灘などで採れる国産のチョウセンハマグリと、シナハマグリ
トリガイ春(4〜6 月)開いて肝を除き、黒い表面を残す。活けは生、ふつうは 70〜80℃で数秒湯通し黒い皮は擦れると剥げる。水に浸けず、濡れた新聞に挟む
ミル貝春〜夏水管を沸騰した湯に 5〜10 秒くぐらせて氷水に取り、黒い皮をむいて生で本ミル(ミルクイ)と白ミル(ナミガイ)は別の種類。白ミルは安い
ホッキ(ウバガイ)冬〜春生は灰色がかった紫。湯通しすると鮮やかな赤赤くなる仕組みは分かっていない。海老が赤くなる仕組みとは違うとみられる
青柳・小柱(バカガイ)春足が青柳、貝柱が小柱。軽く湯通しか生砂が残りやすい。小柱は軍艦に
サザエ春〜初夏生でコリコリ。砂袋を除く肝は雌が緑、雄が白
バイ貝夏〜秋煮貝にして握る内臓を除く
アサリ春・秋茹でて軍艦ほぼ加熱用。生で出さない
カキ冬(マガキ)・夏(イワガキ)生食用だけ生で。蒸しガキも表示と保存基準を守る
ツブ(エゾボラの仲間)一年中生でコリコリ唾液腺を必ず除く

この表のうち、とくに覚えておくことは三つです。アサリはほぼ加熱用で生では出さないこと。ツブは唾液腺を必ず除くこと。トリガイの黒い皮は擦れると剥げるので、やさしく扱うことです。

18.6 貝の扱い ― 目利き・むき方・切り付け

貝の鮮度は、むいた後に一気に落ちます。そのため、扱いの基本は「むくまで殻に守らせる」ことです。

目利きの四つの目

活きた貝の目利きは、口を閉じる力、重さ、匂い、殻の艶の四つで見ます。二枚貝は、殻に触れたとき素早く固く閉じるものがよい貝です。巻貝は、蓋が奥に引っ込むか、触ると動くものを選びます。持って重いものは、体の中に水を保っています。軽いものは弱っています。匂いは磯の香りだけがよく、アンモニアや硫黄の匂いがあれば死んでいます。殻が湿って艶のあるものは新しく、乾いて白っぽいものは時間が経っています。

むき方と切り付けの基本

むき方の基本は、貝柱の位置を知ることです。ホタテとカキは、貝柱が 1 つです。赤貝、アサリ、ハマグリ、ホッキ、トリガイ、ミル貝は、貝柱が 2 つあります。刃を殻の内側に沿わせ、貝柱だけを切れば、身は傷みません。道具は貝ごとに違います。赤貝には細身の貝むき、カキには短く厚いカキナイフ、ホタテとアワビには幅の広いヘラを使います。

切り付けでは、硬い貝は薄くそぎます。アワビ、ミル貝、ホッキ、ツブがそうです。浅い格子や細かい切れ目を入れて、噛み切りやすくします。赤貝は叩きますが、トリガイは黒い皮が剥げるので叩きません。ハマグリやトリガイは包丁で開いて面積を出し、シャリを包むように握ります。

トリガイやミル貝の湯通しは、営業前にまとめて行います。氷水で芯まで冷やしてから水気を切り、乾いた布巾に挟んで冷蔵します。生きた貝は 5〜10℃で殻付きのまま保管し、ここでも注文ごとにむきます。

この章のまとめ

  • 二枚貝は海水をこして生き、ウイルスや毒を中腸腺にためこむ。だから「新鮮なら安全」ではない。「生食用」「加熱用」は海域と処理の違いで、加熱用は生で出さない。
  • ノロウイルスは中心 85〜90℃で 90 秒以上の加熱で壊れる。アルコールは効きにくいので、次亜塩素酸ナトリウムと 2 度洗いで防ぐ。貝毒とテトラミンは加熱しても壊れない。
  • 生きた貝は 5〜10℃で殻付きのまま保管し、注文ごとにむく。死んだ貝は加熱用にも使わない。
  • 赤貝は握る直前に叩いて身を反らせる。死後硬直ではない。ホタテは横に切って繊維を断ち、甘いアミノ酸を舌に届ける。
  • アワビは 70〜80℃で 3〜5 時間煮て、コラーゲンをゼラチンに変えて柔らかくする。大根の酵素の説には裏付けがない。
  • 生食用カキの成分規格は細菌だけの基準で、ノロウイルスは対象外。貝毒には麻痺性と下痢性があり、海域ごとの監視と規制値で出荷を止める(一級)。
  • 貝柱は、ホタテ・カキが 1 つ、赤貝などが 2 つ。目利きは口を閉じる力・重さ・匂い・殻の艶で見る(一級)。

確認問題

問1 カキの「生食用」と「加熱用」の表示について、正しいものはどれですか。
a 生食用は水揚げしたその日のもの、加熱用は翌日以降のものである
b 加熱用でも、活きがよく新鮮なものなら生で出してよい
c 違いは採れた海域と処理の違いで、加熱用はどれほど新鮮でも生で出してはならない
d 生食用の基準にはノロウイルスも含まれるので、生食用ならノロウイルスの心配はない
e 加熱用は養殖のカキ、生食用は天然のカキである

答え:c

生食用は、指定海域で採れたか、清浄な海水で浄化したものです。鮮度や、養殖か天然かとは関係がありません(a・b・e は誤り)。生食用の基準は細菌についてのもので、ノロウイルスがいない保証ではありません(d は誤り)。

問2 赤貝を握る直前にまな板に叩きつける理由として、正しいものはどれですか。
a 叩いて死後硬直を起こさせ、身を硬くするため
b 身の中の砂を叩き出すため
c まだ生きている筋肉が刺激で一瞬縮み、身が反り返って歯応えと形が出るため
d 叩くと腸炎ビブリオが死ぬため
e 身を柔らかくして、噛まずに食べられるようにするため

答え:c

むいたばかりの赤貝の身は、刺激で縮むことのできる生きた筋肉です。叩くと一瞬で縮んで反り返り、コリッとした歯応えと立体的な形が出ます。死後硬直とは別の現象です(a は誤り)。時間が経った身は叩いても反らないので、握る直前に叩きます。

問3 貝の毒と規制について、正しいものはどれですか。
a 麻痺性貝毒は加熱すれば壊れるので、煮貝にすれば安全である
b 生食用カキの成分規格には、ノロウイルスの基準が含まれている
c ホタテは毒が中腸腺に集まりやすいため、規制中でも認められた加工場で中腸腺を除いた貝柱などは出荷が認められる
d ツブのテトラミンは貝柱にあるので、貝柱を除けば安全である
e 下痢性貝毒は夏の終わりにだけ出るので、春の貝は監視されない

答え:c

貝毒は加熱で壊れません(a は誤り)。生食用カキの成分規格は細菌だけが対象です(b は誤り)。テトラミンは唾液腺にあり、加熱でも壊れません(d は誤り)。貝毒は春から初夏に多く、都道府県が海域ごとに監視しています(e は誤り)。