日本語

すし検定

目次 第19章 煮物・玉子・ウニ・イクラ
    1. 序章本書の使い方 ― 二級と一級の範囲
  1. 第I部 食の安全

    1. 第1章世界に広がる寿司と衛生の現実
    2. 第2章微生物と腐敗のしくみ
    3. 第3章寿司屋で起きる食中毒
    4. 第4章洗浄・消毒・異物混入を防ぐ
    5. 第5章温度管理と在庫管理
    6. 第6章なぜ素手で握れるのか
  2. 第II部 シャリ

    1. 第7章米を知る ― 米と炊飯
    2. 第8章合わせ酢と調味
    3. 第9章シャリ切りと温度
  3. 第III部 魚を知る

    1. 第10章魚の死後に起きること ― 死後硬直・熟成・腐敗
    2. 第11章目利きと仕入れ
    3. 第12章冷凍と解凍
    4. 第13章下処理 ― 塩・酢・昆布・皮・骨
  4. 第IV部 ネタ

    1. 第14章マグロ
    2. 第15章白身魚
    3. 第16章光り物
    4. 第17章海老・蟹・イカ・タコ
    5. 第18章貝類
    6. 第19章煮物・玉子・ウニ・イクラ
      1. 19.1 穴子
      2. 19.2 ハマグリ・干瓢・おぼろ
      3. 19.3 玉子焼き
      4. 19.4 ウニ
      5. 19.5 イクラとサーモン
  5. 第V部 調味料と薬味

    1. 第20章醤油・煮切り・ツメ・出汁と旨味
    2. 第21章わさび・海苔・ガリ・茶
  6. 第VI部 技術と道具

    1. 第22章包丁と砥石
    2. 第23章おろし方と切り付け
    3. 第24章握りと巻き
  7. 第VII部 歴史と職人の心得

    1. 第25章寿司の歴史 ― 屋台から世界へ
    2. 第26章カウンターに立つ ― 接客・おもてなしと職人の責任
  8. 第VIII部 経営

    1. 第27章お金の流れ ― 原価・歩留まり・値決め一級
    2. 第28章仕入れ・在庫・ロス一級
    3. 第29章開業の準備一級
    4. 第30章お客を集め、常連を育てる一級
    5. 第31章人と店の仕組み一級
  9. 付録 資料編

    1. 付録A覚えておきたい数字と温度・時間の早見表
    2. 付録B食中毒一覧表
    3. 付録C寿司ことばと用語集
    4. 付録D旬のカレンダー
    5. 付録E出題範囲と出題の目安

朗読は本文・コラム・まとめを読みます。表・図・確認問題は読みません。再生中は段落を押すと、そこから聴けます。

第IV部 ネタ

第19章

煮物・玉子・ウニ・イクラ

煮穴子、煮ハマグリ、玉子焼きは、職人が手間をかけて仕上げる「仕事のネタ」で、店の味がそのまま出ます。ウニとイクラは、添加物の使い方と温度の管理で品質が決まります。この章では、それぞれの仕込みの手順と理由、そして衛生の注意点を学びます。

この章で学ぶこと

  • 穴子のぬめりを取り、落とし蓋をして煮る理由と、ツメの照りととろみのもとを説明できる
  • ハマグリを煮込まずに漬け込む理由を説明できる
  • 玉子焼きの衛生(割り置きをしない、中心まで火を通す)を実践できる
  • 箱ウニのミョウバンの役割と、塩水ウニとの違い、イクラの温度管理、養殖サーモンを生で出せる理由を説明できる
  • 銅の玉子焼き器が選ばれる理由を熱の伝わり方の数字で説明し、鍋を育てて手入れできる(一級)

19.1 穴子

寿司屋で使う穴子はマアナゴです。旬は梅雨から夏です。この時期の「梅雨穴子」は身が柔らかく、脂がほどよく、煮穴子に向きます。寿司には 100〜150 g ほどの小ぶりなものが、身のきめが細かくて向くとされます。

開いて、ぬめりを取る

  1. 目打ち 氷水で締めた穴子の目に目打ちを打ち、まな板に固定します。
  2. 開く 関東では背から開く背開き、関西では腹から開く腹開きが基本とされます。内臓、中骨、腹骨、ひれを取ります。
  3. ぬめりを取る 皮を包丁の背で頭から尾へしごき、白いぬめりをこそげ取ります。80℃前後の湯を皮にかけてすぐ氷水に取り、白く固まったぬめりをこそげる方法もあります。ぬめりが残ると臭みが出て、煮汁も濁ります。
  4. 洗う 流水でさっと洗い、水気を拭きます。

落とし蓋をして煮る

煮汁は、水に酒・醤油・みりん・砂糖を合わせたもので、配合は店ごとに違います。穴子の皮を上にして、重ならないように鍋に並べます。煮汁を注いで強火にかけ、沸いたらアクを取ります。落とし蓋をして、弱火で 20〜30 分煮ます。落とし蓋とは、鍋より一回り小さく、材料の上に直接のせる蓋です。箸で押すとすっと沈めば、煮上がりです。網じゃくしでバットに上げて冷まします。煮汁に浸けたままにすると、塩辛くなり、身も崩れます。

落とし蓋には三つの働きがあります。一つ目は、鍋底から上がった煮汁が蓋に当たって横へ流れ、蓋の縁から穴子の上に降りてくることです。少ない煮汁でも、全体に味と熱が回ります。二つ目は、煮汁から出た部分が空気にさらされず、乾かないことです。三つ目は、蓋の重みで穴子が煮汁の中で踊らず、柔らかい身でも煮崩れしないことです。図19-1 は、この煮汁の流れを鍋の断面で示したものです。

煮汁が蓋に当たって横へ流れ、穴子の上に降りる 落とし蓋 煮汁の流れ 穴子(皮を上に) 弱火
図19-1 落とし蓋の働き。少ない煮汁でも、穴子の上まで煮汁が回る。

ツメと提供

ツメは「煮詰め」を縮めた呼び名で、穴子などに塗る甘く濃いたれです。穴子の煮汁に醤油・砂糖・みりんを足し、弱火でじっくり煮詰めて作ります。強い照りととろみは、煮詰まって濃くなった糖と、穴子の皮や骨から溶け出したゼラチンによるものです。色と香りは、炙りの香ばしさと同じメイラード反応から生まれます。糖とアミノ酸が熱で結びつき、茶色の色と香りを生む反応です。水と調味料だけを煮詰めても、穴子のツメにならないのはこのためです。ツメは継ぎ足して使いますが、毎日一度は火を入れ、冷めたら冷蔵庫に入れます(くわしくは第20章)。

煮穴子は、出す前に皮目を軽く炙り直します。冷えた穴子はゼラチンが固まって、ぼそぼそします。温めるとゼラチンが溶け、ふわりとほどけて香りが立ちます。ツメを塗らず、塩と柚子で出す塩穴子もあります。煮穴子は冷蔵で 2 日が目安です。

名産地と、煮方・ツメのくわしい仕事

穴子の名産地は、東京湾の羽田や富津、対馬、瀬戸内です。血清毒はイクチオヘモトキシンと呼ばれます。

背開きでは、背びれに沿って包丁を入れ、中骨の上を滑らせて尾まで開きます。中骨は頭の側から包丁ですき取り、腹骨をそぎ、背びれと尻びれを削ぎます。

煮汁の配合の一つの目安は、水 10 に対して酒 2〜3、醤油 1、みりん 0.5〜1 です。砂糖は醤油の半分前後にします。

落とし蓋がないと、鍋底で温まった煮汁は上に昇り、表面から蒸気として逃げるだけです。材料の上の面は、乾いた空気にさらされます。落とし蓋は、昇ってきた泡と流れを横へ向け、材料の上の面に沿って流します。そのため、材料が煮汁に浸かりきらなくても、上下から均一に穏やかな熱が入ります。

ツメは、元の量の 3〜4 分の 1 になるまで煮詰めます。色と香りが深まるのは、穴子の身から溶け出したアミノ酸と調味料の糖が、メイラード反応を起こすからです。ゼラチンは糖とともに煮詰まり、冷めると固まるほどの粘りを生みます。ただし、ゼラチンと糖が化学的に「結合する反応」ではありません。ツメは常温に置きっぱなしにすると危険です。

煮穴子は、冷凍すれば 1 か月が目安です。一度解凍したものは、再び凍らせません。

19.2 ハマグリ・干瓢・おぼろ

煮ハマグリ ― 煮るのではなく漬け込む

ハマグリの身は、60℃を超えると急に縮んで硬くなります。だから長く煮てはいけません。殻ごと酒を振って火にかけ、口が開いたらすぐ取り出します。身を殻から外し、貝柱と砂を除きます。残った汁に醤油・砂糖・みりんを加えて煮詰め、完全に冷まします。そこに身を戻して、冷蔵庫で半日から一晩漬けます。これをツケ込みといいます。熱で煮含めるのではなく、冷めた汁で味を入れるので、身が硬くなりません。握ったら、この汁を煮詰めたツメを塗ります。

巻物では、甘辛く煮た干瓢(かんぴょう)を巻いた干瓢巻きが、江戸前の細巻きの基本です。また、車海老などとシャリの間におぼろを少し挟むことがあります。海老のおぼろは、えびのアレルギーがあるお客様には挟みません(第17章参照)。

干瓢の仕込み

干瓢は、ユウガオの実を細くむいて干したものです。国産の 9 割以上が栃木産です。漂白していないものは茶色く、二酸化硫黄で漂白したものは白く、表示があります。

  1. 塩で揉む 水で洗い、塩をまぶして揉んで繊維をほぐします。
  2. 浸して茹でる 塩を洗い流し、水に 10〜15 分浸します。たっぷりの湯で 10〜15 分、爪を立てると切れる柔らかさまで茹でます。
  3. 煮含める 出汁・砂糖・醤油・みりんで 20〜30 分煮含め、煮汁ごと冷まします。

干瓢巻きは江戸前の締めの細巻きです。煮た干瓢は、煮汁ごと 4℃以下で冷蔵し、1 週間が目安です。干し椎茸は冷たい水で一晩、5℃前後で戻します。戻し汁ごと甘辛く煮含めて、太巻きやちらしに使います。

おぼろの作り方

おぼろは、芝海老、または鯛やヒラメの白身を茹でてすり、砂糖・酒・塩で味を付けたものです。弱火で水分を飛ばしながら、菜箸を数本束ねて 20〜30 分炒り上げます。コハダや新イカ、車海老とシャリの間に少し挟むと、甘みが酢飯の酸をやわらげ、ネタのうま味を補います。

19.3 玉子焼き

出汁巻きと厚焼き

寿司屋の玉子焼きには、二つの型があります。出汁巻きは、卵に対して 3〜5 割の出汁と調味料を合わせ、薄く流しては巻いて層を重ねます。厚焼きは江戸前の仕事です。卵に芝海老や白身魚のすり身、すりおろした山芋、砂糖、みりんなどを合わせ、一度に流して弱火でじっくり焼きます。すり身と山芋がスポンジのような骨組みを作り、砂糖が水分を抱えます。だからカステラのようにしっとりして、冷めても味が落ちません。芝海老のすり身を入れた玉子焼きは、えびのアレルギーがあるお客様には出せません(第17章参照)。

なぜ銅の玉子焼き器なのか

玉子焼きは、「焦がさずに、中まで均一に、出汁の水分を抱えたまま固める」料理です。鍋のどこか一か所でも熱くなりすぎると、そこだけ焦げて水分が抜けます。銅は、鉄の約 5 倍、ステンレスの約 25 倍の速さで熱を伝えます。火の当たる底の真ん中の熱が、すぐに縁まで広がります。鍋全体がほぼ同じ温度になるので、弱火でも卵液全体が穏やかに固まり、ふんわり仕上がります。

銅の玉子焼き器の内側には、錫(すず)が引いてあります。錫は 232℃で溶けるので、空焚きは厳禁です。使った後は洗剤で洗わず、温かいうちに紙で拭きます。洗剤で洗うと、使い込んでできた油の膜が落ちて、次に焼くとき焦げつきます。

表19-1 鍋の材質と熱の伝わりやすさ(熱伝導率。室温付近の目安、単位は W/(m・K))
材質熱伝導率玉子焼きでの性質
銅約 400熱がすぐ鍋全体に広がり、温度のムラがほとんどない
アルミニウム約 240熱はよく伝わるが、熱をためにくく、温度が上下しやすい
鉄約 80火の当たる場所だけ熱くなり、焦げのまだらが出る
ステンレス約 16熱が広がらず、一か所が焦げつく

焦げのしくみと、鍋の育て方・焼き方

表19-1 の数字を言葉で言うと、銅は約 400、アルミニウムは約 240、鉄は約 80、ステンレスは約 16 です。鉄の約 80 は純粋な鉄の値です。玉子焼き器に使う鋳物の鉄や鋼は 40〜55 ほどなので、銅との差は実際にはさらに大きくなります。

卵のタンパク質は 60〜70℃で固まります。表面がおよそ 140℃を超えると、メイラード反応による褐変(かっぺん)が急に進みます。褐変とは、焦げ色が付くことです。銅の鍋なら一か所だけが 140℃を超えることがなく、局所の焦げが起きません。

  1. 油ならし 新しい銅鍋は、油を 1 cm ほど張って弱火で 10 分温めます。冷ましてから油を捨てて拭きます。これを数回くり返します。
  2. 手入れ 焦げつきは塩や湯でこすって落とします。洗剤を使わないのは、加熱で固まった油の層を守るためです。
  3. 温める 焼くときは、鍋を 160℃前後まで温めます。卵液を一滴落とすと、じゅっと音がしてすぐ固まる温度です。油を紙で薄く均一に塗ります。
  4. 巻く 出汁巻きは、巻いた玉子を奥へ寄せ、手前に油を引きます。次の卵液を、巻いた玉子の下にも流し込み、層を一つにまとめます。
  5. 厚焼き 一度に流し、蓋をして弱火で 30〜40 分、表面が乾くまで焼いてから返します。

卵の衛生をもう一歩

卵の中にいることがあるのは、サルモネラ・エンテリティディスという種類です。日本の卵は洗ってから出荷され、生で食べられる期限が表示されています。それでも割り置きは禁止です。やむを得ず割った液卵を置くときは、8℃以下で保存します。卵を使う料理の 70℃で 1 分は、殻付き卵や殺菌していない液卵を使って調理するときの基準です。工場で液卵を殺菌するときの基準とは別のものです。

玉子焼きは 4℃以下で冷蔵します。出すときは冷蔵庫から出して、少し温度を戻します。冷えたままでは、甘みと香りが立ちません。

19.4 ウニ

寿司で食べるウニは、ウニの生殖巣です。卵や精子をつくる器官です。よく使われるのは二つの仲間です。一つは、身が濃い橙色で濃厚なバフンウニの仲間で、北海道のエゾバフンウニは市場で「赤」と呼ばれます。もう一つは、身が淡い黄色で上品なムラサキウニの仲間で、北海道のキタムラサキウニは「白」と呼ばれます。

箱ウニとミョウバン、塩水ウニ

殻から取り出したウニの身は、自分の酵素ですぐに溶け始めます。そこで、木の板に並べる箱ウニ(板ウニ)は、ミョウバンの水溶液に浸してから並べます。ミョウバンは食品添加物の一つです。身の表面のタンパク質を固めて引き締める働きがあり、粒の形を 4〜5 日保ちます。その代わりに失うのが味です。ミョウバンが濃すぎたり、浸ける時間が長すぎたりすると、渋みや苦み、薬のような匂いがウニに移ります。

これに対し塩水ウニは、海水に近い約 3% の塩水に身を浸してパックしたものです。添加物を使わないので、甘みと香りがそのまま残ります。ただし形が崩れやすく、日持ちは 1〜2 日しかありません。

見分け方と保管

よい箱ウニは、粒が立って形がはっきりし、表面に艶があり、甘い匂いがします。次のものは鮮度が落ちた印です。板に水がたまって粒が溶けている「ダレ」、縁の黒ずみ、酸っぱい匂い。薬のような匂いは、ミョウバンの使いすぎです。保管は冷蔵 0〜5℃で、箱を傾けず、蓋を開けたままにしません。生のウニは冷凍しません。凍らせると細胞が壊れ、解凍したときに溶けてしまいます。形の定まらないウニは、海苔で囲む軍艦で出すのが基本です(第24章参照)。

ウニの種類と、ミョウバンのはたらき

表19-2 寿司屋で扱う主なウニ
種類主な産地旬の目安特徴
バフンウニ本州の日本海側・瀬戸内・九州春〜初夏小型で棘が短い。身は濃い橙色で濃厚
エゾバフンウニ北海道・東北夏(7〜8 月)市場で「赤」。昆布を食べる礼文・利尻産は最高級
ムラサキウニ本州〜九州夏(6〜8 月)黒紫の長い棘。身は淡い黄色で上品
キタムラサキウニ北海道・東北初夏〜秋(産地で異なる)市場で「白」。淡泊で量が多い
アカウニ九州(唐津・壱岐・天草)秋(9〜10 月)殻が赤い。濃厚で希少、高級

表19-2 のうち、最高級とされるのは礼文・利尻のエゾバフンウニです。九州のアカウニも、濃厚で希少な高級品です。旬は産地によって大きく違います。

ミョウバンの正体は、硫酸アルミニウムカリウムです。タンパク質を固めて縮ませ、引き締める働きを収斂作用(しゅうれんさよう)といいます。ミョウバンはこの働きで生殖巣の表面を固め、自分の酵素で身が溶ける自己消化を抑えます。塩水ウニは形が定まらないので、海苔の帯を巻くか、塩だけで出します。

19.5 イクラとサーモン

筋子とイクラ

イクラは、鮭(主にシロザケ)の卵です。卵巣の膜に包まれたままのものが筋子(すじこ)、膜から一粒ずつほぐしたものがイクラです。生の筋子が出回るのは 9〜11 月で、早い時期は皮が薄く柔らかく、遅くなるほど皮が厚く硬くなります。

  1. 塩水を用意する 40℃前後、塩分 3% の塩水を作ります。冷たい水では膜から外れにくく、50℃を超えると卵の表面が白く濁って硬くなります。
  2. ほぐす 筋子を塩水に浸し、焼き網の目に押し当てて卵を落とすか、指の腹で膜から外します。
  3. 洗う 塩水を替えながら 3〜4 回洗い、浮いた膜や血管、つぶれた卵を取り除きます。ざるに上げて水を切ります。
  4. 漬ける 醤油漬けなら、酒とみりんを煮切って醤油を合わせた地を、完全に冷まします。卵を浸し、冷蔵庫で 12〜24 時間漬けます。

イクラの皮が硬くなる原因は四つです。成熟しすぎた卵、塩分の濃い地に長く漬けたこと、熱すぎる湯、乾燥や冷凍焼けです。濃い地に長く漬けると、ナメクジに塩を振ると縮むのと同じ浸透圧の働きで、卵から水が抜けて皮が硬くなります。

醤油漬けは、冷蔵(4℃以下)で 3〜4 日が限度です。長くもたせるなら −20℃以下で冷凍して、2〜3 か月のうちに使います。解凍は冷蔵庫で一晩かけて行い、解凍したものは再び凍らせません。イクラは加熱しないで食べる食品です。1998 年には、市販のイクラ醤油漬けが原因の腸管出血性大腸菌 O157 の食中毒が、複数の都府県にまたがって起きました。手、器具、容器の衛生は、生の魚と同じ水準で管理します。

サーモンはなぜ生で食べられるのか

日本では長い間、鮭を生で食べませんでした。天然の鮭にはアニサキスなどの寄生虫が多く、生で食べるのは、凍らせてから食べる「ルイベ」くらいでした。

養殖サーモンが生で食べられるのは、配合飼料(ペレット)で育つため、寄生虫を取り込む道がほぼ断たれているからです。寄生虫は、天然の小魚やオキアミを食べることで魚の体に入ります。オキアミは、小さなエビのような生き物です。米国の FDA の規範や EU の規則でも、こうして育てた養殖魚は、生で出す前の冷凍が免除されています。身の橙色は、飼料に混ぜた色素によるものです。

ただし、天然の鮭を生で出すなら、必ず −20℃で 24 時間以上冷凍します。魚の中心が −20℃になってから数えるのが確実です(第12章参照)。天然の稚魚を海で育てた養殖魚や、生の餌で育てた養殖魚からは、寄生虫が見つかった例があります。「養殖」というだけで安心せず、どう育てたかを確かめます。

イクラのくわしい仕事と、サーモンの歩み

筋子は、9 月は皮が薄く柔らかく、11 月以降は産卵が近づいて卵の膜が厚く硬くなります。

ほぐすときは、バドミントンのラケットの網目に押し当てて擦る方法もあります。洗った後は、ざるに上げて 10〜20 分置いて水を切ります。醤油漬けの地の一例は、醤油 1、酒 1、みりん 0.5 の割合です。塩漬けにするなら、約 20% 以上の濃い塩水に 2〜3 分浸して水を切ります。漬け地の塩分と時間は、卵の時期に合わせて加減します。

1998 年の O157 の食中毒では、富山・東京・千葉・神奈川・大阪の 5 都府県で患者が出ました。

天然の太平洋の鮭には、アニサキスのほかに日本海裂頭条虫(にほんかいれっとうじょうちゅう)、いわゆるサナダムシも多くいます。1980 年代、ノルウェーが養殖アトランティックサーモンを日本に売り込む事業を始めました。サーモンは 1990 年代に回転寿司を通じて定着しました。身の橙色は、飼料に加えたアスタキサンチンという色素によるものです。

この章のまとめ

  • 穴子は目打ちをして開き、包丁の背か湯でぬめりを取る。血には加熱で働きがなくなる毒があるので、生では出さない。
  • 落とし蓋は煮汁を穴子の上まで回し、乾燥と煮崩れを防ぐ。ツメの照りととろみは、煮詰まった糖と穴子のゼラチンから生まれる。毎日火を入れて冷蔵する。
  • ハマグリは 60℃を超えると縮むので、口が開いたら取り出し、冷ました汁に漬け込む。
  • 銅の玉子焼き器は熱を速く伝え、鍋全体が同じ温度になるので焦げムラが出ない。卵は割り置きせず、中心 70℃で 1 分以上、火を通す。
  • 箱ウニのミョウバンは身溶けを防ぐが、多いと渋みや苦みが出る。塩水ウニは無添加で甘いが、日持ちは 1〜2 日。イクラは 40℃前後の 3% の塩水でほぐし、4℃以下で 3〜4 日。
  • 養殖サーモンは配合飼料で育つため寄生虫の心配が少ない。天然の鮭を生で出すなら −20℃で 24 時間以上冷凍する。
  • 銅の熱伝導率は約 400 で鉄の約 5 倍。卵は 60〜70℃で固まり、表面がおよそ 140℃を超えると褐変が急に進む。洗剤を使わず油の層を育てる(一級)。

確認問題

問1 玉子焼きの衛生について、正しいものはどれですか。
a 朝の仕込みを早くするため、卵は前の晩にまとめて割っておく
b 日本の卵は洗ってあるので、割った卵液を室温に置いてもかまわない
c 卵は使う直前に割り、玉子焼きは中心まで火を通す(中心 70℃で 1 分以上)
d 甘い玉子焼きは砂糖で菌が増えないので、焼いた後は室温で一晩置いてよい
e 銅の玉子焼き器は熱をよく伝えるので、中心まで火が通っていなくても菌は死ぬ

答え:c

卵にはサルモネラがいることがあり、割った卵液は室温で菌が一気に増えます。だから割り置きはせず(a・b は誤り)、使う直前に割ります。焼いた玉子焼きも糖と水分が多く菌が増えやすいので、室温に置かず冷蔵します(d は誤り)。菌を殺すのは中心の温度と時間で、鍋の材質ではありません(e は誤り)。

問2 穴子を煮るときに落とし蓋をのせる主な理由として、正しいものはどれですか。
a 蓋の重みで穴子を押しつぶし、身を薄く平らにするため
b 煮汁の蒸発を完全に止め、味が濃くならないようにするため
c 煮汁を穴子の上まで回し、乾燥と煮崩れを防ぐため
d 煮汁を 100℃よりずっと熱く保つため
e 穴子のぬめりを蓋に吸い付けて取り除くため

答え:c

鍋底から上がった煮汁が蓋に当たって横へ流れ、穴子の上に降りてきます。少ない煮汁でも全体に味と熱が回り、上の面が乾かず、穴子が踊らないので煮崩れしません。蒸発を止めるものではなく、煮汁の温度を上げるものでもありません。

問3 箱ウニに使うミョウバンについて、正しいものはどれですか。
a ミョウバンは菌を殺すので、箱ウニは常温で保存できる
b ミョウバンは収斂作用で生殖巣の表面のタンパク質を固め、自己消化による身溶けを防ぐが、多すぎると渋みや苦みが移る
c ミョウバンは甘みを足す添加物で、多いほど味がよくなる
d ミョウバンを使ったウニは冷凍しても溶けない
e 塩水ウニにもミョウバンが使われていて、日持ちは箱ウニより長い

答え:b

ミョウバン(硫酸アルミニウムカリウム)は、タンパク質を固めて引き締める収斂作用で、身溶けを抑えて形を 4〜5 日保ちます。代わりに、濃すぎたり浸けすぎたりすると渋み・苦み・薬のような匂いが移ります。保管は冷蔵 0〜5℃で、生のウニは冷凍しません。塩水ウニは無添加で、日持ちは 1〜2 日です。