
第V部 調味料と薬味
第20章
醤油・煮切り・ツメ・出汁と旨味
握りの味は、ネタとシャリだけでは決まりません。最後に刷毛で塗る煮切りやツメ、玉子焼きや煮物を支える出汁が、一貫の仕上がりを大きく左右します。この章では、醤油の種類、煮切りとツメを作る理由、出汁を引く温度、そしてうま味が重なると強くなる仕組みを学びます。
この章で学ぶこと
- 醤油の主な五種類を挙げ、薄口醤油の塩分が濃口より高いことを説明できる
- 煮切りを作る目的と、ツメに照りととろみが出る理由を説明できる
- 昆布と鰹節で出汁を引く温度と時間を言い、その理由を説明できる
- うま味の相乗効果と、みりん・酒に含まれる塩分の違いを仕事に生かせる
- 醤油の製法、鰹節と昆布の種類、相乗効果の仕組みを説明できる(一級)
20.1 醤油 ― 発酵がつくる調味料
醤油は、大豆と小麦と塩を原料に、微生物の力で時間をかけて造る調味料です。大豆と小麦に、カビの仲間の麹菌(こうじきん)を付けて麹を作ります。これを食塩水と合わせたものが諸味(もろみ)です。
諸味の中では、麹の酵素が大豆のタンパク質をアミノ酸に、小麦のデンプンを糖に分解します。乳酸菌は酸を作り、酵母はアルコールと香りを作ります。こうして半年から一年以上熟成させた諸味を搾り、加熱して整えたものが、ふだん使う醤油です。この加熱を火入れと呼びます。
醤油のうま味の正体は、熟成の間に生まれたグルタミン酸などのアミノ酸です。色は、アミノ酸と糖が結びついて茶色くなるメイラード反応によるものです。パンの焼き色と同じ仲間の変化です。
製法の細部 ― 生揚げと生醤油
麹菌は、アスペルギルス属というカビです。蒸した大豆と、炒って砕いた小麦に種麹を付け、約 3 日かけて麹を育てます。熟成した諸味を搾ったばかりのものを生揚げ(きあげ)醤油と呼びます。
火入れでは、生揚げを約 80℃前後まで加熱します。目的は三つあります。酵素の働きを止めて味の変化を止めること。酵母や乳酸菌を死なせて日持ちをよくすること。加熱による香りと色を整えることです。火入れをしない生醤油(なましょうゆ)は、細かいフィルターで微生物を取り除いたものです。加熱の香りがなく穏やかな味ですが、開けた後の味の変化が早くなります。
五つの種類と塩分
日本の醤油は、主に五つの種類に分けられます。濃口、薄口、たまり、再仕込み、白の五つです。いちばん多い誤解は「薄口醤油は塩分が薄い」というものです。薄口醤油は、色を淡く仕上げるために、発酵と熟成をゆっくり進める必要があります。そのために塩を多く使います。「薄口」は色が薄いという意味で、塩分は濃口より約 1 割多いのです。
反対に、再仕込み醤油は色も味も濃いのに、塩分は低めです。白醤油は小麦が主な原料で、琥珀色をしています。色の濃さと塩分の高さは一致しません。
| 種類 | 特徴 | 塩分(100 g あたりの食塩相当量) | 寿司屋での使い方 |
|---|---|---|---|
| 濃口 | 大豆と小麦がほぼ同量。全国の標準 | 14.5 g | 煮切り・ツメ・ヅケの土台 |
| 薄口 | 色は淡いが、塩分は濃口より約 1 割高い | 16.0 g | 色を付けたくない煮物や出汁割り。量に注意 |
| たまり | 原料はほぼ大豆だけ。とろりと濃厚(中部地方) | 13.0 g | 脂の多いネタに少量 |
| 再仕込み | 食塩水の代わりに醤油で仕込む。色も味も濃い(山口など) | 12.4 g | 少量で効く。塩分は低め |
| 白 | 小麦が主体。琥珀色で甘い香り(愛知) | 14.2 g | 白身や玉子の色を汚さない |
表の塩分は、日本食品標準成分表の値です。100 g あたり、濃口は 14.5 g、薄口は 16.0 g、再仕込みは 12.4 g です。製品による差もあります。醤油が変われば、同じ量を塗っても口に入る塩の量が変わります。醤油の銘柄を変えたら、煮切りの配合も見直します。
使い分けと塩分の計算
赤身や光り物には濃口の煮切り、白身や貝には出汁で割った軽い煮切りか塩、脂の多いネタにはたまりや再仕込みを少量。これが基本の使い分けです。塩分の差は思ったより大きく、薄口と再仕込みでは、同じ量を塗っても口に入る塩が 3 割ほど違います。醤油を替えるときは、塩分を計算し直します。
20.2 煮切り ― なぜ醤油を煮るのか
煮切りは、醤油に酒とみりんを加えて火にかけ、アルコールを飛ばした寿司用の醤油です。出汁や昆布を加える店も多くあります。お客さんが小皿の醤油に付ける代わりに、職人が刷毛で握りに塗って出します。
煮切る三つの理由
第一の理由は、アルコールを飛ばすことです。酒やみりんには約 14〜15%、醤油にも 2〜3% のアルコールが含まれています。アルコールは約 78℃で沸騰し、水より気体になりやすい性質があります。そのため、口に入れた瞬間に鼻へ抜け、魚の繊細な香りを覆い隠してしまいます。
強い香りが弱い香りを感じにくくするこの働きを、マスキングと呼びます。香水の強い人が隣に座ると、料理の香りが分からなくなるのと同じです。アルコールを飛ばせば、白身や貝のかすかな香りが醤油に負けなくなります。
第二の理由は、カドを取ることです。生の醤油の鋭い塩味が、加熱と、みりんの甘みと、出汁のうま味で丸くなります。第三の理由は、塗る量を職人が決められることです。お客さんが自分で付けると、付けすぎてシャリが崩れ、塩分も多くなります。職人が塗れば、一貫ごとに塩加減と香りを決められます。
作り方の目安
配合は店の個性です。一つの目安は、濃口醤油 4〜5 に対して、酒 1、みりん 1 前後です。先に酒とみりんを沸かして、アルコールを飛ばします。醤油を加えたら、小さな泡がふつふつ立つ程度の火で数分保ちます。
醤油を入れてから強く沸かしてはいけません。醤油の香りも、熱で飛びやすいからです。しかも塩は蒸発しないので、水分だけが減って塩分が濃くなります。カドを取るはずが、香りのない塩辛い液になってしまいます。
塗る量はネタで変えます。赤身にはしっかり、白身にはごく軽く塗ります。貝やイカは、塩や柑橘で出すこともあります。
煮切りの理屈をもう一歩
カドが取れるのは、甘みとうま味が加わるからだけではありません。加熱でごく軽いメイラード反応が進み、全体がまろやかにまとまります。昆布を加えるなら、酒の段階で入れ、60℃前後で引き上げます。鰹節を加えるなら、火を止めてから入れ、1〜2 分で濾します。理由は 20.4 節で学ぶ出汁の温度と同じです。
煮切りの塩分は 11〜13% 程度で、菌が使える水も少ない状態です。すぐに腐らないのはこのためです。ただし出汁を加えると、タンパク質と糖が菌の栄養になります。
脂の強いトロやサーモンには、酸味を加えた煮切りか、たまりを少量使います。白身に濃い煮切りを厚く塗ると、醤油の味が魚のイノシン酸を覆い、何を食べているのか分からなくなります。塗る量だけで調整しようとすると、刷毛の往復が増えてネタの表面を傷めます(第24章)。煮切りを二種類仕込むのは、このためでもあります。
保存と刷毛の衛生
煮切りは塩分が高いので、すぐには腐りません。それでも、出汁を加えたものは菌の栄養が増えるので、冷蔵が原則です。容器に仕込んだ日付を書きます(第5章)。出汁入りは 3〜4 日、出汁なしでも 1〜2 週間を目安に使い切ります。
見落とされやすいのが刷毛です。ネタに触れた刷毛を容器に戻すので、刷毛は生の魚の菌を煮切りへ運ぶ道具にもなります。営業中は小さな容器に小出しにし、残りは営業の終わりに捨てます。刷毛は毎日洗剤で洗い、熱湯をかけて完全に乾かします(第4章)。毛が抜けると異物混入になるので、毛の状態も毎日確かめます。
20.3 ツメ ― 煮汁を煮詰めたたれ
ツメは「煮詰め」を縮めた言葉です。穴子やハマグリ、シャコを煮た煮汁に、砂糖・みりん・醤油を加えて煮詰めた、黒く照りのあるたれです。煮切りは、醤油を加熱して軽くするものです。ツメは、魚の煮汁を煮詰めて濃くするものです。向きが反対だと覚えます。
照りととろみの正体
ツメの香ばしさと黒い色は、醤油の色と同じメイラード反応によるものです。穴子から溶け出したアミノ酸と、砂糖やみりんの糖が、煮詰める間に結びつきます。
とろみと照りを生むのはゼラチンです。穴子の皮や骨には、体を支えるタンパク質であるコラーゲンがあります。コラーゲンは、煮ると水に溶けるゼラチンに変わり、煮汁に溶け出します。これが糖と一緒に煮詰められて、なめらかに光る膜になります。煮魚の煮汁が冷えて固まる「煮こごり」も、同じゼラチンの働きです。だから、砂糖と醤油だけを煮詰めても、本物のツメの照りにはなりません。
ツメは焦げやすいので、弱火から中火で、木べらで鍋底を絶えず動かします。いちばん多い失敗は、熱いうちに「ちょうどよい濃さ」まで煮詰めてしまうことです。ゼラチンと糖は、冷めると一気に固くなります。熱いうちに「まだ少しゆるい」と感じるところで止めます。塗るときは、湯煎で温めてゆるめます。
継ぎ足しは毎日の火入れが前提
継ぎ足しのツメが成り立つのは、毎日火を入れているからです。穴子のタンパク質とゼラチンは、菌の格好の栄養です。営業の終わりに必ず沸騰するまで火を入れ、粗熱を取って冷蔵します。常温に置きっぱなしにしてはいけません。
菌の中には、熱に強い殻を作って加熱を生き延びるものがいます。この殻を芽胞(がほう)と呼びます(第2章)。火入れだけでは芽胞は死なないので、火入れと冷蔵の両方が必要です。容器には最後に火を入れた日付を書きます。刷毛はツメ専用にし、営業中は小鍋に小出しにします。
照りの化学と、濃さ・比率の見極め
メイラード反応では、メラノイジンという茶色の色素と、数百種類の香りの成分が生まれます。赤酢の色も同じ反応です(第8章)。照りは、糖が濃くなって生まれる粘りと、ゼラチンの網目が作るなめらかな膜が、光を反射して生まれます。焦がすと炭になり、苦味と焦げ臭さが回って一鍋が無駄になります。
濃さの目安は二つあります。木べらから垂らすと、糸を引きながら落ちること。冷ました皿に一滴落とし、指でなぞると跡が残ることです。
砂糖は、照りと粘りと日持ちを受け持ちます。糖が水を抱え込み、菌が使える水を減らすからです。みりんは艶と穏やかな甘さとコクを、醤油は塩味と色とうま味を受け持ちます。砂糖を増やせば照りは強くなりますが、甘ったるく焦げやすくなります。醤油を増やせば色は濃くなりますが、塩辛く、とろみが弱くなります。
穴子の煮汁にも醤油と砂糖が入っているので、継ぎ足すたびに塩分が上がりやすくなります。それでも「創業以来継ぎ足し」には理由があります。長く煮詰め続けたツメには、メイラード反応の産物がたまっています。そのため、新しく作ったものには出せない複雑な香りと深い色があるのです。
20.4 出汁 ― 昆布と鰹節の温度
寿司屋の出汁は、煮切り、玉子焼き、吸い物、煮物、昆布締めの土台です。よしあしは、素材と、何度で何分引くかで決まります。
昆布 ― 約 60℃で 1 時間
昆布のうま味の成分はグルタミン酸です。アミノ酸の一つで、うま味のもとです。表面の白い粉はマンニトールという甘みのある成分で、味の一部です。洗い流さず、固く絞った布巾で砂を拭く程度にします。
昆布は、約 60℃に保って 1 時間引くと、雑味を出さずにうま味をよく引き出せます。時間がなければ、70℃前後で 30 分が目安です。沸騰させてはいけません。高温では、昆布のヌメリの成分が溶け出します。この成分をアルギン酸と呼びます。出汁が粘って濁り、えぐみや磯臭さまで出てしまいます。
前の日に、水 1 L に昆布 10〜20 g を浸けます。冷蔵庫で一晩、約 10 時間置きます。これを水出しと呼びます。最も雑味が少なく、翌朝そのまま加熱して鰹節へ進めるので、仕込みの流れにも合います。
鰹節 ― 85〜90℃で 1〜2 分
鰹節のうま味の成分はイノシン酸です。魚や肉に多い、もう一つのうま味のもとです。一番出汁は、昆布を引き上げた出汁を 85〜90℃まで上げて火を止め、鰹節を入れます。1〜2 分置いて、静かに濾します。絞ってはいけません。
イノシン酸は熱い湯にすぐ溶け出すので、短い時間で十分です。長く煮ると、血合いの酸味や渋み、生臭さが溶け出し、香りは湯気とともに逃げます。うま味と香りだけを取り出し、雑味が出る前に止める。これが一番出汁の技術です。
| 素材 | うま味の成分 | 温度と時間 | 条件を外すと |
|---|---|---|---|
| 昆布 | グルタミン酸 | 約 60℃で 1 時間。または冷蔵庫で水出し一晩 | 沸騰させるとヌメリ・えぐみ・磯臭さが出る |
| 鰹節 | イノシン酸 | 85〜90℃の湯に 1〜2 分。絞らずに濾す | 長く煮ると酸味・渋み・生臭さが出て、香りが飛ぶ |
| 干し椎茸 | グアニル酸 | 5℃前後の冷水で一晩戻し、戻し汁ごと加熱 | 熱湯で戻すと、うま味が十分に生まれない |
干し椎茸のうま味はグアニル酸です。冷水で一晩戻し、戻し汁ごと加熱します。昆布は低い温度で長く、鰹節は高い温度で短く。この向きの違いを押さえます。
昆布の種類と「沸騰直前」の落とし穴
出汁用の昆布の主な産地は北海道です。代表は四つあります。真昆布は函館の周辺でとれ、澄んで上品な出汁が出ます。最も使い道の広い昆布です。羅臼昆布は濃厚で香りが強く、出汁は黄色みを帯びます。利尻昆布は澄んで雑味がなく、京料理で好まれます。日高昆布は柔らかく煮物向きで、出汁のうま味はほかの三つに劣ります。
アルギン酸は、昆布の細胞の壁を作る成分です。昔から「沸騰の直前に引き上げる」と教えるのは、これを溶かさないためです。ただし、水から加熱して沸騰の直前に引き上げると、昆布が 60℃付近にある時間が短くなります。うま味を引き出しきれないことが多いのです。温度計を使い、60℃で 1 時間保つほうが確実です。
鰹節の種類と二番出汁
鰹節のイノシン酸は、魚が熟成するときに ATP という物質から生まれるものと同じです(第10章)。カツオを煮て骨を抜き、燻しながら乾かしたものを荒節(あらぶし)と呼びます。燻した香りが強く、力強い出汁が出ます。
荒節の表面を削り、カビ付けと天日干しを繰り返したものが枯節(かれぶし)です。カビ付けを 3〜4 回以上重ねたものを本枯節と呼びます。カビが脂を分解し、水分を 15% 程度まで抜きます。そのため出汁は澄んで上品で、脂が古くなった臭いがありません。血合いを除いて削った血合い抜きは、酸味と生臭さがなく、吸い物や煮切りに向きます。
一番出汁を濾した後の昆布と鰹節には、水を加えます。沸騰したら弱火で 5〜10 分煮出し、新しい鰹節を足して濾します。これが二番出汁です。香りは弱いのですが、うま味は残っているので、煮物やツメの土台に向きます。
煮干しと干し椎茸
煮干しは、カタクチイワシを煮て干したものです。うま味の成分は、鰹節と同じイノシン酸です。頭とはらわたを取って、苦味と生臭さを防ぎます。水出しにするか、弱火で 10 分前後かけて引きます。強火で長く煮ると、苦味と生臭さが出ます。
干し椎茸のグアニル酸は、生の椎茸にはほとんどありません。乾燥と、戻した後の加熱の間に、椎茸の酵素が成分を分解して生まれます。冷水でゆっくり戻すのは、この酵素を生かすためです。熱湯で戻すと、酵素が先に働かなくなってしまいます。
20.5 うま味と相乗効果
味の基本は、甘味・塩味・酸味・苦味・うま味の五つで、五味(ごみ)と呼びます。うま味は日本の研究から生まれた考え方です。海外でも umami という言葉がそのまま通じます。
うま味は掛け算で強くなる
グルタミン酸とイノシン酸を一緒に味わうと、うま味は掛け算のように強くなります。これをうま味の相乗効果と呼びます。二つを1 対 1 に近い割合で合わせると、同じ量を片方だけで味わったときの7〜8 倍の強さに感じます。実験でそう示されています。昆布と鰹節の合わせ出汁は、この原理そのものです。
寿司の仕事にも、この原理が生きています。白身の昆布締め(第13章・第15章)は、魚のイノシン酸に、昆布のグルタミン酸を移す技術です。淡白な白身のうま味を大きく強めます。握りに塗る煮切りもグルタミン酸を多く含み、ネタのイノシン酸と口の中で出会います。少しの煮切りで足りるのはこのためです。塗りすぎると塩味が勝って、うま味の輪郭がぼやけてしまいます。
20.6 塩・砂糖・みりん・酒
塩は、寿司屋では粒の大きさで使い分けます。粒が大きく、しっとりしたものが粗塩です。ゆっくり溶けて、時間をかけて水分を引き出すとされます。そのため、コハダやサバの塩締め(第13章)に好んで使われます。
粗塩を炒ってサラサラにしたものが焼き塩です。すぐに溶けるので、提供の直前に振る塩に向きます。白身や貝、イカにごく少量振って、「塩で食べさせる」握りにします。少しの塩が甘みを引き立てる働きを、対比効果と呼びます。スイカに塩を振ると甘く感じるのと同じ理屈です。
砂糖は、甘みを付けるだけではありません。水分を抱え込んで、菌が使える水を減らします。メイラード反応の材料になり、照りと色も生みます。結晶の大きいざらめはゆっくり溶けるので、ツメのように長く煮詰めるものに向きます。
本みりんは、もち米と米麹を、焼酎などのお酒の中で甘くなるまで熟成させたお酒です。砂糖より甘さが穏やかで、照りとコクが出ます。ただし、名前が似ていても中身の違う製品があります。本みりん、みりん風調味料、発酵調味料、料理酒、清酒の五つは、塩とアルコールの量が違います。とくに市販の「料理酒」の多くは塩を約 2% 加えてあり、煮切りやツメが思った以上に塩辛くなります。調味料は、使う前にラベルで塩がどれだけ入っているかを確かめるのが基本です。
| 種類 | 中身 | 気をつけること |
|---|---|---|
| 本みりん | アルコール約 14%、糖分約 40〜45% | 照りとコクが出る。アルコールは加熱で飛ばす |
| みりん風調味料 | 糖類などで似せたもの。アルコール 1% 未満 | 香りとコクは本みりんに及ばない |
| 発酵調味料(みりんタイプ) | 本みりんに近い造りで、塩を約 1.5〜2% 加えたもの | 塩分を配合に入れて計算する |
| 料理酒 | 多くは塩を約 2% 加えてある | 煮切りやツメが塩辛くなる |
| 清酒 | 塩分はゼロ。香りがよい | 煮切りやツメに向く |
塩の由来と砂糖の種類
塩は、由来で三つに分かれます。海塩は、海水を煮詰めて結晶にしたものです。マグネシウムやカルシウムなどのにがりの成分を含み、まろやかさや、かすかな苦味が出ます。岩塩は、大昔の海水が地中で結晶になったものです。にがりの成分は少なく、塩の純度が高いことが多いものです。精製塩は、塩化ナトリウムを 99% 以上にしたものです。味は鋭く、むらがありません。
焼き塩は、炒るときに、にがりの成分も変化しています。粒が細かくそろい、舌に当たる塩味が均一です。ただし塩締めに使うと、すぐ溶けるので、表面だけが急に塩辛くなりやすいと言われます。
砂糖にも種類があります。上白糖はしっとりして溶けやすく、焦げやすい砂糖です。三温糖はカラメルのようなコクがあり、ツメや干瓢(かんぴょう)の色を深めます。シャリでは、砂糖が酢の酸味を和らげます(第8章)。
みりんと酒の中身
本みりんの糖の大半はブドウ糖です。砂糖より甘さが穏やかで、オリゴ糖やアミノ酸を含むので、コクと照りが出ます。本みりんのアルコールは、加熱するときに魚の生臭さを一緒に飛ばします。糖と一緒に素材の表面を締めて、煮崩れも防ぎます。
みりん風調味料は、糖類と酸味料でみりんの味に似せたものです。値段は安いのですが、アルコールによる効果はありません。照りは出ても、香りとコクは本みりんに及びません。発酵調味料は、塩を加えて飲めないようにしたものです。料理酒の多くに塩が入っているのは、酒の税金がかからないようにするためです。
この章のまとめ
- 醤油は麹と諸味で造る発酵の調味料で、主に五種類あります。薄口は色が薄くても塩分は濃口より高く、再仕込みは色が濃くても塩分は低めです。醤油を変えたら煮切りの配合も見直します。
- 煮切りは、アルコールを飛ばして魚の香りのマスキングを防ぎ、カドを取るものです。醤油を入れてから強く沸かすと、香りが抜けて塩辛くなります。刷毛は菌の運び手なので、小出し・毎日の洗浄・日付の記入を守ります。
- ツメの色と香りはメイラード反応、照りととろみは穴子のゼラチンと糖によるものです。熱いうちは少しゆるめで止めます。継ぎ足しは、毎日の火入れと冷蔵が前提です。
- 昆布は約 60℃で 1 時間、沸騰させません。鰹節は 85〜90℃で 1〜2 分、絞らずに濾します。
- グルタミン酸とイノシン酸を 1 対 1 に近い割合で合わせると、うま味は 7〜8 倍に感じます。合わせ出汁、昆布締め、ネタと煮切りの出会いは、すべてこの応用です。
- 料理酒や発酵調味料には塩が入っているので、ラベルで確かめます。醤油・煮切り・ツメには小麦が含まれます。
- 本枯節はカビ付けを重ねて水分を 15% 程度まで抜いたもので、澄んだ出汁が出ます。干し椎茸は冷水で戻して酵素を生かし、グアニル酸を生ませます。(一級)
確認問題
問1 煮切りを作る主な目的として、正しいものはどれか。
a 醤油を加熱殺菌して、常温で長く保存できるようにするため
b アルコールを飛ばして魚の香りを隠さないようにし、醤油のカドを取るため
c 長く煮詰めて、とろみと照りを出すため
d 醤油の塩分を蒸発させて、減塩にするため
e 醤油の色を薄くして、ネタの色を見せるため
答え:b
酒・みりん・醤油に含まれるアルコールは鼻に抜けやすく、魚の繊細な香りを覆い隠します。これがマスキングです。加熱でアルコールを飛ばし、みりんや出汁で醤油のカドを取るのが煮切りの目的です。a:煮切り、とくに出汁入りは冷蔵が原則です。c:煮詰めてとろみと照りを出すのはツメです。d:塩は蒸発しないので、煮詰めるほど塩分は濃くなります。e:色を薄くすることは目的ではありません。
問2 昆布と鰹節で出汁を引くときの温度と時間の組み合わせとして、正しいものはどれか。
a 昆布は沸騰させて 10 分、鰹節は 60℃で 1 時間
b 昆布は約 60℃で 1 時間、鰹節は 85〜90℃で 1〜2 分
c 昆布も鰹節も、沸騰した湯で 30 分煮出す
d 昆布は約 60℃で 1 時間、鰹節は沸騰させたまま 20 分煮て、最後に強く絞る
e 昆布は 85〜90℃で 1〜2 分、鰹節は冷蔵庫で水出し一晩
答え:b
昆布は低い温度で長く引きます。沸騰させるとアルギン酸のヌメリや、えぐみ、磯臭さが出ます。鰹節は高い温度で短く引きます。長く煮ると血合いの酸味や渋み、生臭さが出て、香りも湯気とともに逃げます。絞ると雑味が出るので、静かに濾します。
問3 干し椎茸を、熱湯ではなく 5℃前後の冷水で一晩かけて戻す理由として、最も適切なものはどれか。
a 熱湯で戻すと、イノシン酸が壊れてしまうから
b グアニル酸は、乾燥と戻した後の加熱の間に椎茸の酵素が働いて生まれるので、熱湯で酵素を先に働かなくしないため
c 冷水で戻すと、アルギン酸が溶け出して出汁にとろみが付くから
d 熱湯で戻すと、マンニトールが結晶になって苦くなるから
e 冷水には殺菌の効果があり、戻し汁を加熱せずに使えるから
答え:b
生の椎茸には、グアニル酸はほとんどありません。乾燥と、戻した後の加熱の間に、酵素が成分を分解して生まれます。熱湯で戻すと酵素が先に働かなくなり、うま味が十分に生まれません。a:干し椎茸のうま味はグアニル酸です。c:アルギン酸は昆布の成分です。d:マンニトールは昆布の表面の白い粉です。e:冷水に殺菌の効果はありません。戻し汁ごと加熱して使います。

