第III部 魚を知る
第11章
目利きと仕入れ
よい寿司は、よい魚からしか作れません。どれほど包丁が冴えても、仕入れで負けた魚は取り返せません。この章では、魚の鮮度の見分け方と、天然と養殖の違い、旬の理由を学びます。一級では、漁法と流通、仕入れの実務、海外での仕入れまで進みます。
この章で学ぶこと
- 丸の魚とサクの鮮度を、目・鰓・腹・匂い・ドリップなどから見分けられる
- 天然と養殖の違いを、脂・供給・寄生虫の面から説明できる
- 旬が産卵や水温と関係する理由と、「走り・盛り・名残」を説明できる
- 漁法と締め方が身と値段に与える影響を説明できる(一級)
- 仲卸との付き合い方と、海外で魚を仕入れるときの注意を言える(一級)
11.1 丸の魚を見分ける
魚の傷みは、血と菌の多い場所から始まります。鰓(えら)、内臓、体表のぬめりです。水分が抜けると変化が見える目にも、早く表れます。だから目利き、つまり魚のよしあしを見分けるときは、まず鰓と腹と目を見ます。ひとつのサインだけで決めず、いくつかを合わせて判断します。
| 見る所 | 新しい魚 | 傷んできた魚 |
|---|---|---|
| 目 | 澄んで黒目がはっきりし、張り出している | 白く濁る、落ちくぼむ |
| 鰓 | 鮮やかな赤で、海の匂い | 茶色から灰色。ぬめりが濁って臭う |
| 体表 | ツヤがあり、ぬめりは薄く透明 | 色があせ、ぬめりが白く濁って糸を引く |
| 腹 | 張りがあって硬い | 柔らかい、へこむ、裂けている |
| 匂い | 海の香り | 生臭い、酸っぱい、鼻をツンと刺す |
| 手ざわり | 押すとすぐ戻る。頭と尾を持つと水平に張る | 押した跡が残る。持つと垂れ下がる |
新しい魚は、目が澄み、鰓が鮮やかな赤で、腹が硬く、ぬめりが透明です。ただし、氷に直接触れていた魚は、新しくても目が白く濁ることがあります。これを氷焼けといいます。目だけで決めないのはこのためです。
なぜそこを見るのか
- 目 目の表面の膜のタンパク質が変わり、目玉から水分が抜けるので、濁ってくぼみます。血走ることもあります。
- 鰓 血が多く、表面積が大きい場所です。血の赤い色素ヘモグロビンが酸化して茶色くなり、菌が最初に増えます。
- 体表 ぬめりは、生きている間は体を守る膜です。死んだあとは菌の培地になります。
- 腹 腐敗は内臓から始まります。消化の酵素と腸の菌が腹の壁を溶かし、腹が裂けます。これを腹切れといいます。
- 肛門 新しい魚は締まっています。腸の菌が増えて腸の壁が崩れると、開いて中身が漏れ、周りの色が変わります。
- 匂い・弾力 生臭さやアンモニア臭は、菌が作る物質です(第10章)。押した跡が残るのは、身の骨組みのタンパク質が分解され、細胞が崩れたためです。
- 硬直 硬直中か、解けた直後なら新しい目安です。ただ野締めの魚や温かい所に置かれた魚は早く解けるので、硬直だけで時間は決められません。
11.2 サク・切り身を見分ける
サクは、刺身や握り用に切り分けた身のかたまりです。サクや切り身のように丸の姿を見られないときは、切り口で判断します。
第一はドリップ、つまり身から出た液です。透明で少しなら問題ありません。赤く濁って多ければ、時間がたったか、解凍に失敗した魚です。第二は色です。白身は透明感のあるもの、赤身は鮮やかな赤から深い赤のものを選びます。脂の黄ばみは脂の酸化、赤身の茶色は身の赤い色素に含まれる鉄の酸化です(第14章)。第三は血合い、つまり身の中ほどを走る色の濃い部分です。鮮やかな赤から暗い赤、黒へと変わり、境目がぼやけたものは古い魚です。第四に、断面にツヤがあり、筋と筋の間が割れていないことを見ます。
魚の種類ごとの見どころ
赤く濁ったドリップが多いのは、冷凍と解凍を繰り返した魚のこともあります。断面が乾いて筋の間が割れているのは、硬直中に無理におろしたか、解凍で細胞が壊れた魚です。白身の乳白色は、熟成か劣化の途中です。
- マグロ
- 市場では尾の断面で見ます。身に透明感があり、脂の筋が細かくそろい、血合いが鮮やかなものを選びます。白く濁ってぼそぼそした断面は身焼けです(11.5)。黒ずみはメト化です(第14章)。
- 白身(タイ・ヒラメ・スズキ)
- 基本の見方がすべて当てはまります。加えて皮の色を見ます(11.3)。活け締めの穴と、血抜きの切れ目も確かめます(第10章)。
- 青魚(アジ・サバ・イワシ・サンマ)
- 腹の張りと硬さがいちばん大事です。内臓の酵素が強く、腹から溶けます。腹切れは即座に使いません。目の透明さ、サバの縞やアジの銀色の鮮やかさ、鰓の色も見ます。ヒスタミンの危険があるので、少しでも迷えば生では使いません(第3章)。
- イカ
- 生きているイカは、皮の色の粒(色素胞)が動き、茶色の斑点が濃く見えます。時間がたつと、色の粒が開いたまま固まって茶色になり、さらに白く濁ります。身が透明で、目が澄み、弾力のあるものを選びます。
- 貝
- 二枚貝は、殻が閉じているか、触ると閉じるものを選びます。口が開いたまま反応しない貝は死んでいます。巻貝は蓋が締まり、触ると身が引っ込むものです。むき身は透明感とツヤ、海の匂いで見ます。
- エビ
- 殻に透明感があり、頭と身がしっかり付いているものを選びます。頭から黒くなるのは酵素による黒変で、腐敗そのものではありませんが、時間がたった目安です。
11.3 天然と養殖
養殖の魚は、生簀(いけす)、つまり海に作った囲いの中であまり泳がず、脂の多い餌を毎日食べて育ちます。そのため季節に関係なく全身に脂が乗り、身は白っぽくなります。天然の魚は餌を求めて泳ぎ続けます。脂は産卵前の時期に腹側を中心に乗り、産卵後は抜けます。
養殖には、一年中、同じ大きさ・同じ脂の魚を、決まった日に決まった値段で仕入れられるという利点があります。活け締めや神経締めをして出荷されることが多く、野締めの天然魚より状態がよいことも少なくありません。また、魚粉などを固めた配合飼料で育った養殖魚は、アニサキスを運ぶオキアミ(エビに似た小さな生き物)や小魚を食べません。だから寄生虫の心配がきわめて低くなります(第3章)。ただし、天然の稚魚を海で育てたものや、生の餌で育てたものは別です。
天然の幼魚や若魚を捕らえて生簀で太らせる方法を蓄養(ちくよう)といい、卵から育てる完全養殖と区別します。どちらも脂の多い餌を与え続けるので、季節に関係なく全身に脂が入ります。ねっとりした脂は魅力ですが、何貫も続くとくどくなりやすいので、薄めに切るなど天然とは扱いを変えます。
「天然が上、養殖が下」ではありません。産卵後で痩せた天然魚より、よく管理された養殖魚のほうがネタとして優れることは珍しくありません。大切なのは、天然か養殖かを問わず、その魚の脂に合わせて、切る厚さやシャリとの合わせ方を変えることです。
脂の質と見た目
養殖魚の餌は、魚粉と魚油が主体です。脂は量が多いだけでなく、餌の脂を反映して溶ける温度がやや低いとされます。口に入れるとねっとり広がる長所がある一方、食べ進めると「くどい」と感じさせます。脂が筋肉の中にも入るので、赤身の魚でもピンクがかって見えます。天然のブリは背が赤く腹だけが白いのに対し、養殖は身全体が白く霜降りのようです。天然の脂は、小魚やエビなどの餌を反映して、香りと酸味があります。
養殖のマダイは、浅い生簀で日光を浴びるので体の色が黒ずみます。尾びれは網で擦れて丸くなり、鼻の穴の仕切りがない個体が多く見られます。天然のマダイは深い所にいるので鮮やかな桜色で、背に青い小さな斑点が散り、尾びれの先が尖っています。近年は、日よけの網で色を保ち、餌に柑橘やハーブを混ぜて匂いを変えるなど、養殖の改良が進んでいます。
餌止めと、冷凍の例外
養殖魚は出荷前に数日間、餌を止めます。これを餌止めといい、腸の中身を減らします。EU は、寄生虫の心配が低いことを理由に、一定の条件を満たす養殖魚を、生で食べる前の冷凍の義務から外しています(第1章・第3章)。天然か養殖かを問わず、職人は脂の量と質に合わせて、切り付けの厚さ、シャリの酢の強さ、薬味、炙るかどうかを変えます(第14章・第23章)。
蓄養のくわしいこと
蓄養では、幼魚や若魚のほか、産卵後などで痩せた成魚を捕らえて、数か月から数年、餌を与えて太らせることもあります。クロマグロ(地中海、メキシコ、日本近海)や、天然の稚魚モジャコから育てるブリが代表です。蓄養のマグロにはイワシやサバなど脂の多い餌をたくさん与えるので、天然ならトロが取れない部位まで全身に脂が入ります。脂は口でねっとり溶けますが、層が厚いので食べ過ぎるとくどく、赤身の酸味や香りは弱いことが多いです。寿司屋では、天然の赤身と組み合わせる、薄めに切る、酢を効かせたシャリと合わせる、炙りで脂を落とすなどの工夫をします。
11.4 旬
旬とは、その魚の脂と味がいちばんよくなる時期です。多くの魚では、旬は産卵の前にあります。卵や白子を作るために餌をたくさん食べ、栄養を脂として蓄えるからです。産卵が始まると栄養は卵や白子に回り、身は痩せて水っぽくなります。産卵直後の魚は、どの魚でも味が落ちます。また、冬に向けて水温が下がると、魚は冬を越すために脂を蓄えます。寒ブリ、寒ヒラメ、寒サバのように「寒」の付く魚がおいしいのは、産卵前の蓄えと冬越しの蓄えが重なるためとされます。反対に夏は水温が高く、体の働きが速いので、同じ量を食べても脂として残りにくくなります。
旬には三つの段階があります。出始めの「走り」は、小ぶりで脂は少なめでも、香りと歯ごたえがよい時期です。「盛り」は味がいちばんよく、値段もいちばん高くなります。終わりの「名残」は、脂は残るものの身が緩み始めます。職人は、盛りの魚を高く買うか、走りや名残を手ごろに買って仕事で補うかを、味と値段の両方を見て決めます。産卵期は身の味が落ちても、白子や真子(卵)という別のおいしさが生まれます。旬を外すとは、知らずに外すことではなく、分かったうえで別の価値を選ぶことです。
旬は海の水温で動きます。同じ魚でも、北と南で 1〜2 か月ずれることがあります。南で産卵を終えた群れが北へ上り、北で盛りを迎えることもあります。主なネタの旬は付録Dにまとめました。関東の市場を基準にした目安なので、自分の店が仕入れる海の旬は、自分で確かめてください。
太平洋のクロマグロは、春から夏に産卵し、そのために体の脂を使い切ります。夏のクロマグロは脂が抜けて身が締まり、鉄分の風味と酸味が前に出ます。これを夏マグロといいます。南半球のミナミマグロは旬が逆で、日本の夏に脂が乗ります(第14章)。
夏のマグロに酸味が立つ理由
クロマグロの産卵は、南西諸島の周りではおよそ 4〜7 月、日本海ではおよそ 7〜8 月です。長い距離を泳いで脂を使い果たすので、脂に覆われていた赤身本来の味が前に出ます。赤い色素ミオグロビンに含まれる鉄の金属のような風味と、筋肉の乳酸による酸味です。マグロは速く泳ぐので筋肉のグリコーゲンが多く、死後にできる乳酸も多いのです。冬のマグロでは、この酸味が脂の甘味に隠れます。「夏のマグロは酸っぱい」といわれるのはこのためと考えられ、腐敗の酸味とは別物です。さっぱりした赤身を好む客には向きますが、トロを求める客には期待外れになります。夏に多くの店が、旬が逆になる南半球のミナミマグロや、大西洋・地中海産、蓄養ものを使うのはこのためです(第14章)。
11.5 漁法・産地・流通と品質
同じ魚、同じ海、同じ日でも、獲り方で身は別物になります。漁法による魚の苦しみと傷が、エネルギーのもと ATP の消耗と、菌の汚れに直結するからです(第10章)。
| 漁法 | 主な魚 | 身への影響と品質 |
|---|---|---|
| 一本釣り | カツオ、マグロ、アジ、サバ、イカ | 一尾ずつ短時間で揚げ、すぐ活け締めできる。擦れず傷がない。品質も値段もいちばん高い |
| 延縄(はえなわ) | マグロ、カジキ | 長い縄に多くの針を付けて流す。揚げるまで数時間以上かかることがあり、暴れて死ぬものや身焼けが出る。個体差が大きい |
| 定置網 | ブリ、マダイ、サバ、アジ、イカ | 網の中で生きているので、揚げるときに活け締めできる。大量に揚げて押されると傷む。ブランド魚の多くは定置網か釣り |
| 巻き網 | イワシ、サバ、カツオ、マグロ | 群れを囲んで絞る。押し合って暴れ、鱗がはがれる。小さな青魚では標準的だが、大型マグロでは身焼けが問題 |
| 底引き網 | カレイ、ヒラメ、エビ、イカ | 海底を長く引くので、擦れ、泥をかぶり、腹切れしやすい。活け締めできたものだけが寿司向き |
| 養殖の出荷 | マダイ、ブリ、カンパチ、シマアジ、サーモン | 餌止めのうえ活け締め・神経締めで出荷。生きたまま運ぶことも多い。品質が安定して高い |
一本釣りがいちばん高く、底引き網は寿司に向くものが少ない、と覚えてください。とくに大事なのが身焼けです。マグロやカツオは、体温を周りの海水より高く保つしくみを持っています。延縄や巻き網で長く暴れると、筋肉の温度が 30℃を超え、乳酸で pH が急に下がります。この熱と酸でタンパク質が変わり、身は白く濁り、酸っぱく、水っぽくなります。身焼けした魚は、どう熟成しても戻りません。釣りものに値が付くのは「釣りだから」ではなく、「短い時間で締めたから」です。
産地と流通
日本の魚は、産地の市場で漁師から仲買へ、消費地の中央卸売市場で卸売業者から仲卸(なかおろし)へ渡り、仲卸から店へ届くのが基本です。仲卸は仲買(なかがい)ともいい、市場で魚を買い取り、店に売る業者です。値段は競りか、売り手と買い手の話し合いで決める相対取引(あいたいとりひき)で決まります。生産者や産地の仲買から店へ直接送る産地直送も増えています。締め方や発送の時刻を指定できるのが利点です。
「関サバ・関アジ」「明石鯛」「大間のマグロ」「氷見のブリ」などのブランドは、海のよさだけではありません。漁法、締め方、出荷までの時間と温度の管理が、組織として保証されていることに意味があります。「○○産」の札だけで安心してはいけません。逆に無名の産地でも、締めと血抜きが丁寧な漁師の魚は、ブランド魚に劣りません。市場では、同じ魚・同じ大きさでも、活け締めや神経締めの魚は野締めより明らかに高く売られます。この差は、エネルギーのもとが残っていることと、日持ちへの対価です。
11.6 仕入れの実務
仲卸との関係
仕入れは人との関係です。最初は一軒の仲卸に通い、使う魚、大きさ、用途、予算を具体的に伝えます。用途とは、握りか、巻物か、煮るかです。値段だけを見て店を渡り歩く客に、仲卸はよい魚を回しません。よい魚は数が少なく、信頼できる客から先に売るからです。信頼できる仲卸の見分け方は一つです。悪いときに「今日はよくない」と言うかどうかです。よい仲卸は、注文の魚がよくなければ代わりを勧め、来週の見通しも教えてくれます。
市場での見方と持ち帰り
市場では、魚だけでなく扱い方を見ます。氷は十分か。魚が融け水に浸かっていないか。日差しや扇風機の風で乾いていないか。重ねられて下の魚が潰れていないか。扱いの悪い店の魚は、見た目が新しくても菌が多く、熟成に耐えません。買った魚はすぐ自分の発泡スチロールの箱に移します。ペーパーや袋で包んで氷に直接触れさせず、融け水が抜ける穴を開けた箱で運びます。車に置きっぱなしにせず、店に着いたらすぐ処理します(第5章)。
量と値段
仕入れの量は、予約と平均の客数から必要な貫数を見積もり、歩留まりから逆算します。歩留まりとは、丸の魚から使える身の割合です。マダイで元の重さの 3〜4 割、青魚で 4〜5 割ほどが目安です。余った魚の出口、つまり加熱料理、締め物、まかない、翌日の熟成を先に決めておけば、ロスを恐れて仕入れを削りすぎずに済みます。値段は、しけの後、市場の休みの前後、年末、連休前に上がります。高い魚を無理に買わず、同じ役目を果たす代わりのネタを用意できることが、店を安定させます。詳しくは第27章と第28章で学びます。
11.7 海外での仕入れ
海外の仕入れは、日本より難しくなります。日本では、獲ってから店に出すまで低温を切らさないコールドチェーン(低温の流通)が当たり前です。多くの国では、これが途中で切れています。市場で魚が常温の台に並び、氷が足りず、トラックに冷蔵がないことも珍しくありません。途中で 10℃を超えた時間が長い魚は、見た目が新しくても菌が多いのです。
また、「sushi grade」という札に、法律上の決まりはありません。売り手が自分で名乗っているだけです。札ではなく、いつ、何℃で、何時間凍らせたかという冷凍の記録を、書類で確かめます。記録の分からない魚は、店で −20℃以下・24 時間以上の冷凍をしてから使います(第12章)。
冷凍の基準と、現地の魚の危険
日本には、食品衛生法の「生食用鮮魚介類」の基準があります。腸炎ビブリオの菌の数や、10℃以下での保存などです。ただしこれは衛生の最低基準で、ネタの品質の等級ではありません。米国や EU が定めているのは、寄生虫対策の冷凍の条件です。米国 FDA の Food Code は、冷凍庫の中の温度で −20℃以下を、凍らせる時間を含めて 7 日間、または −35℃以下で凍らせたあと −35℃で 15 時間などとしています。EU は、製品のすべての部分を −20℃以下で 24 時間以上、または −35℃以下で 15 時間以上としています(第1章・第12章)。
淡水魚には、顎口虫(がっこうちゅう)や肝吸虫など、海の魚にはない寄生虫がいます。熱帯のサンゴ礁に住む大きな魚には、シガテラ毒の危険があります。サバの仲間やシイラは、ヒスチジンの多い魚です。
海外では、養殖魚を積極的に使います。サーモン、ハマチ、マダイ、シマアジ、スズキの仲間、クルマエビなどは、多くの国で手に入ります。締めと温度の管理が最初から整い、寄生虫の心配も低いからです。日本の天然魚を空輸するより、現地のよい養殖魚のほうが安全で旨いことは多くあります。
この章のまとめ
- 鮮度は、傷みの始まる鰓・腹・体表のぬめりと、目で見る。鰓は鮮やかな赤、腹は硬く、ぬめりは透明。氷焼けで目が濁ることもあるので、ひとつのサインで決めない。
- サクや切り身は、ドリップ・色・血合い・断面のツヤで見る。赤く濁ったドリップが多いもの、血合いの境目がぼやけたものは古い。
- 養殖魚は脂と供給が安定し、配合飼料で育った魚は寄生虫の心配がきわめて低い。「天然が上」ではなく、脂に合わせて切り方とシャリを変える。
- 旬は多くの魚で産卵の前にあり、冬越しの脂が重なるとさらに乗る。「走り・盛り・名残」を、味と値段を見て使い分ける。
- 夏のクロマグロは産卵で脂が抜け、鉄の風味と乳酸の酸味が前に出る。南半球のミナミマグロは旬が逆。身焼けは暴れて筋肉が熱と酸で変わったもので、熟成しても戻らない(一級)。
- 仲卸は一軒に通って信頼を作り、悪いときに悪いと言う相手を選ぶ。量は必要な貫数と歩留まりから逆算する(一級)。
- 海外ではコールドチェーンが切れていることを前提にし、「sushi grade」の札ではなく冷凍の記録を確かめる。淡水魚は原則として生で出さない。
確認問題
問1 丸の魚の鮮度の見方として、正しいものはどれか。
a 目が白く濁っている魚は、どんな場合でも古いと判断してよい。
b 体表のぬめりが白く濁って糸を引くのは、脂が乗っている証拠である。
c 鰓が鮮やかな赤で海の匂いがし、腹が張って硬い魚は新しい。
d 腹が柔らかい魚は、脂が乗っていて寿司ネタに向く。
e 頭と尾を持って水平にしたとき、腹が垂れ下がる魚は新しい。
答え:c
鰓は最初に傷む場所なので、鮮やかな赤で海の匂いなら新しい魚です。腹が硬ければ、内臓はまだ溶けていません。a は誤りで、氷に直接触れた目は、新しくても白く濁ります。b も誤りで、白く濁って糸を引くぬめりは傷んできたサインです。d の柔らかい腹は、内臓から傷みが始まったサインです。e は逆で、新しい魚は棒のように張り、古い魚が垂れ下がります。
問2 天然の魚、養殖の魚と旬について、正しいものはどれか。
a 天然の魚は、季節に関係なく一年中全身に脂が乗っている。
b 配合飼料で育った養殖魚は、アニサキスの心配がきわめて低い。
c 養殖の魚は、どんな場合でも天然の魚より味が劣る。
d 多くの魚の旬は産卵の直後にあり、産卵後がいちばん脂が乗る。
e 「名残」とは旬の出始めのことで、香りと歯ごたえがよい。
答え:b
配合飼料で育った養殖魚は、アニサキスを運ぶオキアミや小魚を食べないので、寄生虫の心配がきわめて低くなります。a は養殖の魚の説明で、天然の脂は産卵前に乗り、産卵後に抜けます。c は誤りで、産卵後で痩せた天然魚より、よく管理された養殖魚が優れることは珍しくありません。d は誤りで、多くの魚の旬は産卵の前にあります。e の出始めは「走り」で、「名残」は旬の終わりです。
問3 漁法と仕入れについて、正しいものはどれか。
a 釣りものの値段が高いのは、釣り針の刺激で身の旨味が増えるからである。
b 身焼けした魚も、0〜2℃で十分に熟成させれば元に戻る。
c 信頼できる仲卸は、魚の状態にかかわらず、いつも「今日はいい」と言う。
d 延縄や巻き網で長く暴れたマグロは、筋肉の温度が上がり乳酸で pH が下がって、身焼けを起こすことがある。
e 有名な産地の札が付いていれば、締め方や温度の管理を確かめる必要はない。
答え:d
マグロやカツオは体温を高く保つしくみを持ち、長く暴れると筋肉が 30℃を超え、乳酸で pH が急に下がります。この熱と酸でタンパク質が変わったものが身焼けです。a は誤りで、釣りものが旨いのは、短い時間で揚げてすぐ締められるからです。b も誤りで、身焼けはどう熟成しても戻りません。c は逆で、悪いときに「今日はよくない」と言う仲卸が信頼できます。e も誤りで、ブランドの価値は漁法・締め方・温度の管理の保証にあり、札だけで安心してはいけません。

