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すし検定

目次 第15章 白身魚
    1. 序章本書の使い方 ― 二級と一級の範囲
  1. 第I部 食の安全

    1. 第1章世界に広がる寿司と衛生の現実
    2. 第2章微生物と腐敗のしくみ
    3. 第3章寿司屋で起きる食中毒
    4. 第4章洗浄・消毒・異物混入を防ぐ
    5. 第5章温度管理と在庫管理
    6. 第6章なぜ素手で握れるのか
  2. 第II部 シャリ

    1. 第7章米を知る ― 米と炊飯
    2. 第8章合わせ酢と調味
    3. 第9章シャリ切りと温度
  3. 第III部 魚を知る

    1. 第10章魚の死後に起きること ― 死後硬直・熟成・腐敗
    2. 第11章目利きと仕入れ
    3. 第12章冷凍と解凍
    4. 第13章下処理 ― 塩・酢・昆布・皮・骨
  4. 第IV部 ネタ

    1. 第14章マグロ
    2. 第15章白身魚
      1. 15.1 白身魚とは
      2. 15.2 真鯛
      3. 15.3 ヒラメとカレイ
      4. 15.4 スズキとブリ類
      5. 15.5 深場と磯の高級白身一級
      6. 15.6 昆布締めと白身の仕込み
      7. 15.7 薬味と提供
      8. 15.8 海外の白身魚と寄生虫一級
    3. 第16章光り物
    4. 第17章海老・蟹・イカ・タコ
    5. 第18章貝類
    6. 第19章煮物・玉子・ウニ・イクラ
  5. 第V部 調味料と薬味

    1. 第20章醤油・煮切り・ツメ・出汁と旨味
    2. 第21章わさび・海苔・ガリ・茶
  6. 第VI部 技術と道具

    1. 第22章包丁と砥石
    2. 第23章おろし方と切り付け
    3. 第24章握りと巻き
  7. 第VII部 歴史と職人の心得

    1. 第25章寿司の歴史 ― 屋台から世界へ
    2. 第26章カウンターに立つ ― 接客・おもてなしと職人の責任
  8. 第VIII部 経営

    1. 第27章お金の流れ ― 原価・歩留まり・値決め一級
    2. 第28章仕入れ・在庫・ロス一級
    3. 第29章開業の準備一級
    4. 第30章お客を集め、常連を育てる一級
    5. 第31章人と店の仕組み一級
  9. 付録 資料編

    1. 付録A覚えておきたい数字と温度・時間の早見表
    2. 付録B食中毒一覧表
    3. 付録C寿司ことばと用語集
    4. 付録D旬のカレンダー
    5. 付録E出題範囲と出題の目安

朗読は本文・コラム・まとめを読みます。表・図・確認問題は読みません。再生中は段落を押すと、そこから聴けます。

第IV部 ネタ

第15章

白身魚

白身は、おまかせの最初に出されることが多いネタです。マグロのように脂で勝負できないぶん、塩・昆布・寝かせ方・皮目・切り付け・薬味のすべてが味に出ます。この章では、白身がなぜ白いのかから始めて、主な魚の旬と扱い方、そして白身をおいしく出す理由を学びます。

この章で学ぶこと

  • 白身魚が白い理由と、鮮度が落ちたときのサインを説明できる
  • 鯛・ヒラメ・スズキ・ブリ類など主な魚の旬と扱い方を説明できる
  • 昆布締めで旨味が増す理由と、白身に柑橘と塩を合わせる理由を説明できる
  • クドアとブリ類のヒスタミンについて、防ぎ方を説明できる
  • 温度戻しの意味と、海外の白身を生で出すときの冷凍の基準を説明できる(一級)

15.1 白身魚とは

魚の筋肉には、長く泳ぎ続けるための赤い筋肉と、瞬発力のための白い筋肉があります。赤い筋肉には、酸素をためる色素のミオグロビンが多く含まれます(第14章)。白い筋肉には、ほとんどありません。タイやヒラメは、海の底や岩場で静かに待ち、餌が来た瞬間に飛びかかる魚です。身のほとんどが白い筋肉なので、透明感のある白身になります。

白身は鉄の風味が少なく、淡く繊細な旨味が持ち味です。筋肉の間の膜、つまりコラーゲンが多いので歯ごたえがあり、寝かせるとやわらかくなります。マグロのように茶色くはなりません。そのかわり、透明感がなくなって白く濁ってくるのが、鮮度が落ちたサインです。

速筋と遅筋 ― 赤身魚との違い

長く泳ぎ続ける赤い筋肉を遅筋(ちきん)、瞬発力のための白い筋肉を速筋(そっきん)といいます。遅筋は酸素を使ってエネルギーをつくるので、ミオグロビンを大量に含みます。速筋は酸素を使わずに短い時間でエネルギーをつくるので、ミオグロビンがほとんどありません。

マグロやカツオは、遅筋である血合いが発達しています。そのうえ、身の大部分を占める普通の身、つまり速筋にもミオグロビンが多いので、身全体が赤いのです。水産学では、筋肉の色素タンパク質がおよそ100 gあたり10 mg以上の魚を赤身魚、それ未満を白身魚とする目安があります。

白身は旨味の中心であるイノシン酸の繊細な味が、そのまま前に出ます。一方で、遊離アミノ酸は赤身より少なく、味は淡くなります。

表15-1 赤身魚と白身魚の比べ方
項目赤身魚(マグロ・カツオ・サバ)白身魚(タイ・ヒラメ・スズキ)
主な筋肉遅筋(血合い)が発達し、普通の身にもミオグロビンが多い速筋
暮らし方外洋を止まらずに回遊海底・岩場で待ち伏せ
味鉄分・酸味・脂。遊離アミノ酸が多いイノシン酸の繊細な旨味、淡い甘み
食感やわらかい締まった歯ごたえ
寝かせ方旨味は増えるが、脂の酸化とメト化が速い大型は数日寝かせて旨味とやわらかさを出す
鮮度が落ちたサイン褐変、酸っぱい匂い、ヒスタミン透明感の消失(白濁)、ぬめり
合う薬味生姜・葱・醤油(第16章)柑橘・塩・わさび

まとめると、赤身魚は回遊する魚で、鉄分と脂の味が強く、茶色くなって傷みます。白身魚は待ち伏せる魚で、淡い旨味と歯ごたえがあり、白く濁って傷みます。

15.2 真鯛

マダイは、祝いの席に欠かせない白身の代表です。旬は二つあります。産卵前の春のものは、体が桜色に冴えて桜鯛(さくらだい)と呼ばれます。秋に餌を食べて脂が戻ったものは紅葉鯛(もみじだい)と呼ばれます。産卵を終えた初夏のものは身が痩せ、「麦わら鯛」と呼ばれて味が落ちます。

天然物は鮮やかな桜色で、背に青い小さな斑点が散り、尾びれの先がとがっています。養殖物は体が黒ずみ、尾びれがすれて丸いことが多くあります。養殖物は脂が多く身がやわらかいので、薄めに切ります。

鯛の皮と身の間には、脂とゼラチン質が集まっています。ここがいちばんおいしい部分です。皮を生かす代表的な仕事が松皮造り(まつかわづくり)です。皮霜造りともいいます。皮目に布巾をかけて熱湯を回しかけ、すぐ氷水に取って水気を拭きます。皮が縮んで松の樹皮のような模様になり、硬い皮が噛み切れるやわらかさになります。

鯛の見分けと仕込みの細部

桜鯛の旬は3〜4月で、瀬戸内の明石や鳴門のものが知られます。卵や白子に栄養を回す前なので、身に脂と旨味があります。麦わら鯛は6月前後です。天然と養殖は、鼻の穴でも見分けます。天然は左右に2対ありますが、養殖は1対につながった個体が多くいます。養殖は浅い生け簀で日に焼けて黒ずみます。生で出すなら薄めに切るか、皮目を炙る焼き霜にして脂を生かします。

鯛の鱗は硬く大きいので、丁寧に取ります。鱗取りで飛ばすか、包丁を寝かせて皮ごと薄く削ぐすき引きで取ります(第13章)。松皮造りでは、熱で皮が縮み、皮の下のゼラチン質と脂が引き出されます。皮を引かずに済むので、皮と身の間のいちばんおいしい層が失われません。鯛は骨が硬く太いので、血合い骨は骨抜きで頭の方向に抜き、腹骨は薄くすき取ります。身は締まっているので、繊維を断つ向きに、そぎ切りで薄めに切ります。

15.3 ヒラメとカレイ

ヒラメの旬は晩秋から冬で、寒平目(かんびらめ)と呼ばれます。産卵後の夏は身が痩せます。「猫またぎ」、つまり猫もまたいで通ると言われるほど、味が落ちます。腹を手前に置いたとき、頭が左を向くのがヒラメ、右を向くのがカレイです。例外の種もあります。

ヒラメは平たい体を、4本の身と中骨に分ける五枚おろしにします。背側と腹側から、それぞれ2本ずつ身を取ります。体の縁に付くエンガワは、ひれを動かす筋肉です。脂が多く、コリコリした歯ごたえと甘みがあり、1尾から4本しか取れません。エンガワは別に握ります。活けを当日に握ると歯ごたえが主役になり、1〜2日寝かせると旨味が前に出ます。

目のある側・背の身 目のある側・腹の身 目のない側・背の身 目のない側・腹の身 中骨(背骨) エンガワ エンガワ 点線=目のある側と目のない側の境 濃い部分=ひれを動かす筋肉(エンガワ)
図15-1 ヒラメの五枚おろし(模式図)。4本の身と中骨に分け、体の縁のひれを動かす筋肉がエンガワになる。

エンガワの正体とカレイ類

ヒラメは口が大きく、鋭い歯をもちます。養殖のヒラメは、裏の目のない側に黒い斑が出ることが多く、見分けの目安になります。エンガワは、ひれではありません。背びれと尻びれを動かす筋肉で、担鰭骨筋(たんきこつきん)と呼ばれます。いつもひれを動かしているので、脂が多いのです。ヒラメの身は締まって淡白です。1〜2日寝かせるとイノシン酸が増えて旨味が出ます。昆布締めにも、最も向く魚の一つです。

カレイ類では、夏に旬を迎えるマコガレイと、冬から春のホシガレイが寿司に使われます。マコガレイでは、大分の「城下(しろした)かれい」が有名です。ホシガレイは、ひれに黒い星のような斑点があります。ヒラメより身が厚く甘みが強い、最高級のカレイです。カレイ類も、そぎ切りで薄く切り、エンガワは別に握ります。

15.4 スズキとブリ類

スズキ

スズキは、夏が旬の数少ない白身です。活けの身を薄く切り、氷水で振り洗いして縮ませる洗いが、夏の定番です。生で握るときは、皮目を炙る焼き霜にもします。

ブリ類 ― 白身として出す青物

ブリ・カンパチ・ヒラマサは青物と呼ばれます。寿司では白身のように扱いますが、海を回遊する魚で血合いが大きく、性格は赤身に近い魚です。ヒスタミンのリスクがあるので、温度の管理はサバなどの青魚と同じ厳しさで行います(第16章)。

ブリとカンパチは養殖が主流です。養殖物は季節を問わず脂が多く、血合いが黒ずみやすいのが特徴です。脂に合わせてやや薄めに切り、皮目に浅く包丁を入れると、脂の層ごと噛み切れます。天然ブリの身に、赤い糸のような虫が見つかることがあります。ブリ糸状虫(しじょうちゅう)といい、人には害がないので、取り除いて使います。アジの仲間のシマアジは夏が旬です。皮の下の脂がおいしいので、皮を引いたらすぐに薄く切ります。

大型の白身と小型の白身

クエのような大型の白身は、当日は硬くて味がしません。0〜2℃で3〜7日寝かせると、身がほどけて旨味がそろいます。反対に、小型のキスやサヨリは、寝かせると香りと水分が抜けます。当日から翌日に使います。

表15-2 主な白身・青物の旬と仕込み(旬は関東の市場を基準にした目安)
魚旬向く仕込み合う薬味
マダイ春(桜鯛)・秋(紅葉鯛)松皮造り、昆布締め、1〜2日寝かせる塩・スダチ、わさび
ヒラメ晩秋〜冬昆布締め、1〜2日寝かせる。エンガワは別に握る塩・柑橘
スズキ夏洗い、焼き霜梅肉・柑橘
甘鯛秋〜冬塩締め(水分が多いので塩で抜く)、昆布締め塩・スダチ
クエ冬3〜7日寝かせる。皮は湯引き塩・柑橘、ポン酢
ブリ/カンパチ/ヒラマサ冬/夏〜秋/夏生。皮目に浅く包丁わさび・醤油
シマアジ夏皮を引いてすぐ切るわさび・醤油

旬で覚えるなら、マダイは春と秋、ヒラメとクエとブリは冬、スズキとシマアジは夏です。

洗いの理由と、青物の細部

スズキは出世魚で、セイゴ、フッコを経てスズキになります。旬は6〜8月です。河口や湾に入るので、個体によって泥臭さがあり、仕込みで見極めます。洗いでは、筋肉が急に冷やされて縮み、歯ごたえが強くなります。同時に、余分な脂と臭みが抜けます。洗いは、死後硬直の前の活けの身でなければ縮みません。焼き霜にすると、スズキ特有の皮の下の香りが立ちます。

ブリは冬の寒ブリ、ヒラマサは夏、カンパチは夏から秋に脂が乗ります。シマアジはアジ科の最高級魚で、白身と青魚の中間の性格をもちます。1〜2 kgのものが最も味のバランスがよく、養殖が多い魚です。血合いの色が鮮やかなうちに出します。

15.5 深場と磯の高級白身

クエとアラ クエはハタ科の大型魚で、九州では「アラ」と呼ばれます。標準和名のアラは別の種類ですが、どちらも冬が旬の高級魚です。3〜7日寝かせると、豊富なコラーゲンがほどけ、イノシン酸が増えます。熟成に最も向く白身です。皮は厚いゼラチン質なので、湯引きにして酢の物や握りに使います。胃袋は茹でて切ります。

甘鯛 関西ではグジと呼ばれます。アカアマダイ、シロアマダイ、キアマダイがあり、シロが最も高価です。身は水分が多くやわらかく、そのままでは水っぽくなります。塩を当てて数時間置き、余分な水分を抜く塩締めが基本です。若狭の「一塩(ひとしお)」が知られます。鱗が薄く細かいので、鱗を付けたまま高温の油をかけて松かさのように立たせる「松笠(まつかさ)」仕立てもあります。

カワハギ 秋から冬に肝が太ります。皮は手で剥け、薄皮も引きます。淡白な身に肝を乗せて握るか、肝を醤油に溶いて付けます。肝は傷みやすく、加熱もしません。仕入れた当日に使い、血管を外し、氷水で血抜きしてから使います。

イサキ・ホウボウ・キンメ・ノドグロ イサキは梅雨時の「麦わらイサキ」が旬です。皮目に脂があるので、焼き霜が向きます。ホウボウは冬が旬で、身が締まって甘く、昆布締めに向きます。キンメは深海魚で、冬に脂が乗ります。体は赤いのに身は白身で、皮目を湯霜か炙りにします。ノドグロ、正式な名前でアカムツは、「白身のトロ」と呼ばれるほど脂が多い魚です。皮目を炙って塩で出すのが定番です。脂の多い白身は、マグロのトロと同じく薄めに切り、シャリは人肌にします。

フグ トラフグは、肝臓や卵巣などに、加熱しても壊れない猛毒のテトロドトキシンをもちます。処理には、都道府県の免許や認定が必要です。身はコラーゲンが非常に多く硬いので、1〜2日寝かせてから薄く引きます。皮は湯引きにします。資格のない者が触れてはなりません。

表15-3 仕入れで見る点(白身・青物)
魚見る点
マダイ体の桜色、青い斑点、尾びれの形、鼻の穴
ヒラメ裏の白さ、身の厚み、エンガワの張り
マコガレイ・ホシガレイ肉の厚さ、ぬめりが透明か
スズキ泥臭さの有無、えらの赤さ
ブリ・カンパチ・ヒラマサ血合いの鮮やかさ、脂の質
シマアジ1〜2 kgか、血合いの色
クエ・アラ大きさ、皮の厚み
甘鯛身の水分、鱗の細かさ
カワハギ肝の大きさと色
ノドグロ・キンメ皮目の脂、目が澄んでいるか

どの魚でも、体や血合いの色、脂の乗り、身の厚みと水分、目やえらの澄み具合を見ます。マダイは鼻の穴まで、カワハギは肝の大きさと色まで確かめます。

15.6 昆布締めと白身の仕込み

昆布締め ― 白身にいちばん効く仕事

白身の旨味の中心はイノシン酸、昆布の旨味の中心はグルタミン酸です。種類の違うこの二つを同時に味わうと、舌は単独のときの何倍も強く旨味を感じます。これを旨味の相乗効果といいます。昆布と鰹節の合わせ出汁と、同じ原理です(第20章)。白身はグルタミン酸が少ないので、昆布から移ることで、足りない半分が補われます。同時に、乾いた昆布が身の水分を吸って、身を締めます。

手順は第13章で学びました。時間は、薄くそいだ身なら2〜4時間、サクのままなら半日から一晩が目安です。置きすぎると身が飴色に染まって硬くなり、昆布の香りが勝ちます。昆布締めは、生のまま寝かせる仕事です。温度と期限の管理は、熟成と同じ厳しさで行います。

塩締めと昆布締めの細部

白身の塩締めでは、身に薄く塩を振り、20〜30分から数時間置いて、出てきた水分を拭き取ります。浸透圧で余分な水分と臭みが抜け、表面のタンパク質がわずかに変わって身が締まり、切り口が立ちます(第13章)。水分の多い甘鯛やスズキ、脂の多い養殖のタイで、とくに効果があります。

昆布締めでは、まず酒で湿らせた布巾で昆布の表面を拭きます。薄塩を当てて水気を拭いた身を昆布で挟み、ラップで包んで冷蔵します。昆布は、真昆布や利尻昆布のように香りが穏やかなものを使います。置きすぎると身が黄ばみます。締めた身は2日以内に使い切ります。

寝かせる白身、すぐ使う白身

クエ、大型のヒラメ、2 kgを超えるマダイなどは、死後硬直が解けても、コラーゲンのために硬いままです。0〜2℃でペーパーに包み、2〜5日寝かせます。クエは1週間近く寝かせます。すると、イノシン酸が増えてコラーゲンがほどけ、旨味とやわらかさがそろいます。小型のカレイやキス、サヨリは、旨味が増える前に水分と香りが抜けてしまいます。

活け造りは、死後硬直の前か硬直中の身を食べる料理です。旨味ではなく、歯ごたえと透明感を食べます。寝かせた身と活けの身のどちらが上という話ではありません。何を食べてもらいたいかで選びます。

皮目の処理と切り付け

皮を引くと、皮と身の間のおいしい層の一部が、皮に持っていかれます。そこで皮を残すのが、湯霜(ゆしも)と焼き霜です。湯霜は、熱湯をかけて氷水に取る方法です。皮がやわらかく縮んで模様が出る、タイやスズキに向きます。焼き霜は、皮目を強火で炙る方法です。皮の下の脂が香ばしさに変わる、イサキやノドグロ、キンメに向きます。どちらも皮が熱で縮むので、切り付けのときに皮目に浅く包丁を入れると、噛み切りやすくなります。

切り付けは、包丁を寝かせて繊維に対して斜めに引くそぎ切りで、薄く広く切ります。白身は繊維が長く締まっているので、繊維に沿って切ると噛み切れません。また、薄くしないとシャリの味に勝ちすぎます。下のまな板が透けて見えるくらいの厚みが目安です。

15.7 薬味と提供

白身には柑橘と塩

白身には柑橘と塩、光り物には生姜と葱を合わせます。この組み合わせには理由があり、二つは目的が逆です。

白身の薬味は、旨味を引き立てるためのものです。少しの塩は、甘みと旨味を強く感じさせます。スダチやカボス、ユズの酸味と香りが、味に輪郭を与えます。スイカに塩を振ると甘く感じるのと同じしくみで、これを対比効果といいます。醤油は香りも旨味も強く、白身の繊細な旨味を覆ってしまうので、控えめにします。光り物の薬味は、生臭さを隠すためのものです(第16章)。

薬味は臭みを隠す道具であって、鮮度の悪さを隠す道具ではありません。わさびや生姜にも菌を抑える働きはありますが、あくまで補助です。安全は、温度と時間の管理で守ります(第5章・第6章)。

柑橘と塩の理屈を、ほかの魚にも使う

青魚に生姜や葱を合わせるのは、臭みを覆い隠すマスキングが目的です。白身の薬味は、隠すためではなく引き立てるために使います。この役割の分け方を理解しておけば、初めて扱う魚にも、薬味を筋道立てて選べます。白身に醤油を使う場合も、煮切り(第20章)を刷毛で薄く塗る程度にとどめます。

温度戻しと出す順番

冷蔵庫から出した直後の白身は、0〜4℃です。この温度では舌の感度が落ち、甘みと旨味が感じにくく、香りも立ちません。出す前にわずかに温度を上げ、人肌のシャリと合わせると、口に入れた瞬間に旨味と香りが広がります。これを温度戻しといいます。

ただし、温度戻しは「室温に置く」ことではありません。切り付けてから握るまでの数分間が温度戻しです。つけ場に切り置きして放っておくことではありません(第5章)。暑い国ほど、この区別を厳しくします。

白身は、おまかせの最初のほうに出します。味が淡く繊細なので、脂の強いマグロや香りの強い光り物のあとでは、味が分からなくなるからです。淡いものから濃いものへという順番の原則(第24章)は、白身から始まります。

15.8 海外の白身魚と寄生虫

フルークは北米の大西洋岸のヒラメの仲間で、ヒラメに最も近い魚です。シーバスは養殖が主流です。スナッパーはフエダイの仲間で、身はタイよりやわらかめです。ティラピアは淡水の養殖魚で、かつて日本でも「イズミダイ」の名で寿司に使われました。現地の白身で日本の魚の味を再現しようとしないことが、第一歩です。ハリバットの締まった身は薄く切って塩と柑橘で、養殖シーバスの脂は焼き霜で生かします。

白身で最も注意すべきは寄生虫です。天然の海の白身にはアニサキスがいます。淡水魚には、肝吸虫(かんきゅうちゅう)や顎口虫(がっこうちゅう)など、海の魚とは別の寄生虫がいます。淡水魚の生食は、冷凍処理をした養殖物でなければ避けます。

表15-4 生で食べる魚の冷凍の基準(第3章 表3-2 と同じ)
国・地域冷凍の条件
米国(FDA)冷凍庫内の温度で−20℃以下、凍る時間を含めて合計7日間。または−35℃以下で凍らせ、−35℃で15時間など
EU製品のすべての部分で−20℃以下を24時間以上。または−35℃以下を15時間以上

米国は−20℃以下で7日間、EUは製品のすべての部分で−20℃以下を24時間以上、が基本です。配合飼料だけで育てた養殖魚は寄生虫のリスクが低いので、FDAはこれを冷凍の義務の例外にしています。

海外で安全に白身を出す現実的な方法は二つです。信頼できる養殖の白身、たとえばシーバス、ハリバット、タイの仲間を使うこと。天然物なら、冷凍処理の履歴がはっきりしたものを選ぶことです。昆布締めは、どの国の白身でも旨味を補える確かな技法で、塩と昆布で水分を抜くので、日持ちもわずかによくなります。暑い国では、白身の透明感が鮮度のいちばん分かりやすいサインです。届いた時点で白く濁っているもの、押して弾力がないものは、昆布締めにも使わず、加熱に回します。

この章のまとめ

  • 白身は待ち伏せ型の魚で白い筋肉が多く、淡く繊細な旨味をもつ。透明感がなくなって白く濁るのが、鮮度低下のサイン。
  • マダイは桜鯛と紅葉鯛、ヒラメは寒平目が旬。鯛は松皮造りで皮の下の旨味を残す。ヒラメのエンガワは1尾から4本。
  • ヒラメのクドアは、−20℃で4時間以上の冷凍か、中心温度75℃で5分以上の加熱で防ぐ。酢・塩・わさびでは防げない。
  • ブリ・カンパチ・ヒラマサは白身として出すが性格は赤身に近く、ヒスタミンを防ぐ温度管理は青魚と同じ厳しさで行う。クエなど大型の白身は寝かせ、小型は早く使う。
  • 昆布締めは、魚のイノシン酸と昆布のグルタミン酸の相乗効果で旨味を強める。白身の柑橘と塩は対比効果で旨味を引き立てる。薬味は鮮度の悪さを隠す道具ではない。
  • 温度戻しは、切り付けてから握るまでの数分のことで、切り置きではない。白身はおまかせの最初に出す(一級)。
  • 海外の白身は、養殖物を使うか、冷凍の履歴がはっきりした天然物を選ぶ。淡水魚は原則として生で出さない(一級)。

確認問題

問1 白身を昆布締めにすると旨味が増す理由として、正しいものはどれか。
a 昆布のイノシン酸と、魚のグルタミン酸が合わさるから
b 魚のイノシン酸と、昆布のグルタミン酸が合わさり、相乗効果が生まれるから
c 昆布の塩分で、身が殺菌されるから
d 昆布が身に水分を与えて、やわらかくするから
e 昆布の酸で、身のタンパク質が分解されるから

答え:b

白身の旨味の中心はイノシン酸、昆布の旨味の中心はグルタミン酸です。種類の違う二つの旨味を同時に味わうと、舌は何倍も強く旨味を感じます。これが相乗効果で、昆布と鰹節の合わせ出汁と同じ原理です。a は逆に覚えた誤りです。昆布は身に水分を与えるのではなく、身の水分を吸って締めます。

問2 ヒラメのクドアについて、正しいものはどれか。
a 目で見て取り除けば防げる
b 酢で締めれば病原性がなくなる
c わさびを多めに添えれば防げる
d −20℃で4時間以上の冷凍か、中心温度75℃で5分以上の加熱で病原性がなくなる
e アニサキスの一種なので、ブラックライトで見つけられる

答え:d

クドアは目に見えない寄生虫で、生で食べると数時間で一時的な嘔吐や下痢を起こします。アニサキスとは別の寄生虫です。酢・塩・わさびでは防げません。病原性をなくすには、−20℃で4時間以上の冷凍か、中心温度75℃で5分以上の加熱が必要です。

問3 白身の「温度戻し」の説明として、最も適切なものはどれか。
a サクを開店前からつけ場に出し、室温になじませておくこと
b 切り付けてから握るまでの数分の間に、わずかに温度を上げること。切り置きして放っておくことではない
c 冷凍した白身を、室温で自然に解かすこと
d 握ったあと、客の前で数分置いてから食べてもらうこと
e シャリを冷蔵庫で冷やし、ネタの温度に合わせること

答え:b

0〜4℃の白身は舌の感度が落ちて、甘みと旨味を感じにくくなります。そこで、切り付けてから握るまでの数分でわずかに温度を上げ、人肌のシャリと合わせます。これが温度戻しです。室温に置いたり、切り置きして放っておいたりすることではありません。暑い国ほど、この区別を厳しくします。