付録
付録C
寿司ことばと用語集
寿司の仕事で使う言葉を集めました。本書に出てくる用語を五十音順に並べ、やさしく説明しています。あわせて、寿司屋で昔から使われてきた職人の符丁とその語源、季節や大きさで呼び名が変わる魚の名前も収めました。言葉の由来には、はっきりしないものが少なくありません。諸説あるものは、そう書いてあります。
この付録は四つの節に分かれています。C.1 は、二級から学ぶ本書の用語です。C.2 は、一級で学ぶ用語で、魚や米の中で起きることをくわしく説明する言葉と、第VIII部の経営の言葉です。C.3 は職人の符丁、C.4 は魚の呼び名です。
漢字の言葉は、かっこの中に読みを示しました。アルファベットの言葉は、読み方の位置に置いています。たとえば HACCP は「はさっぷ」として、は行に入っています。説明の終わりには、主に扱う章を書きました。語源を C.3 や C.4 で扱う言葉には、「→C.3」のように示しています。試験では、用語そのものより、その用語が指すことの「なぜ」が問われます。意味があいまいな言葉は、章に戻って確かめてください。
C.1 本書の用語(五十音順)
あ行
- 赤酢(あかず)
- 酒粕から造る酢。粕酢(かすず)ともいいます。赤茶色で、まろやかな旨味があります。江戸の握り寿司の酢飯を支えた酢で、いまも高級店で見直されています。赤酢を使う店では、合わせ酢に砂糖を入れないこともあります。(第8章・第25章)
- 赤身(あかみ)
- マグロの身のうち、脂の少ない部分。色が濃く、鉄分の風味と酸味があります。赤い色は血ではなく、筋肉の中のミオグロビンという色素の色です。(第14章)
- 上がり(あがり)
- 寿司屋で出す熱いお茶。粉茶や煎茶を使います。熱いお茶の熱が、口に残った脂を流します。お茶の渋みのもと(カテキン)はタンパク質と結びついて口の中を引き締めます。こうして口がさっぱりし、次の一貫の味がよく分かるようになります。→C.3(第21章)
- アナフィラキシー
- アレルギーの原因になる食べ物を口にして、短い時間で全身に起きる重いアレルギーの反応。じんましん、息苦しさ、血圧の低下を起こし、命に関わることがあります。ほんのわずかな量が移っただけでも起きるので、専用の器具を使って、ほかの食材から移らないようにします。(第3章・第26章)
- アニサキス
- サバ・アジ・イワシ・サンマ・カツオ・サケ・イカなどにいる寄生虫の幼虫。長さ 2〜3 cm の白い糸のような姿で、魚が死ぬと内臓から身に移ることがあります。−20℃で 24 時間以上の冷凍(魚の中心が −20℃になってから数える)か、70℃以上または 60℃で 1 分の加熱で死にます。酢・塩・わさび・醤油では死にません。(第3章・第12章)
- 炙り(あぶり)
- ネタの表面だけを直火で焼く仕事。焼き霜ともいいます。皮の下の脂が溶け、焦げたところに香ばしさ(メイラード反応)が加わり、脂のくどさが和らぎます。中は生のまま残り、温度の違いも楽しめます。(第14章)
- アミロース・アミロペクチン
- 米のデンプンを作る二つの分子。アミロースはまっすぐな鎖の形で、多いほど粘りが少なく、炊いた米がほぐれやすくなります。アミロペクチンは枝分かれした房の形で、粘りのもとです。もち米はほとんどアミロペクチンだけでできています。うるち米は両方を含み、酢飯に向きます。(第7章)
- アリルイソチオシアネート
- わさびの辛味の成分。おろして細胞が壊れると、細胞の水分の中でシニグリンと酵素ミロシナーゼが出会って生まれます。飛びやすい成分なので、おろしてから 3〜5 分で辛味がいちばん強くなり、その後は抜けて苦味が残ります。菌を抑える働きもありますが、あくまで補助です。(第21章)
- アルコール酢(あるこーるす)
- 醸造アルコールを発酵させて造る酢。旨味は少ないものの、酸味が鋭くすっきりしています。酸味のキレを出したいときや、脂の強い魚を締めるときに、米酢に混ぜて使います。(第8章)
- 活け締め(いけじめ)
- 生きている魚の脳をすばやく壊して即死させ、血を抜く締め方。目の後ろを突き、続いて脳と背骨のつなぎ目(延髄)を切ります。魚が暴れて疲れないので死後硬直が遅れ、血が残らないので生臭さと傷みも抑えられます。網や氷の中でそのまま死なせるのは野締めといい、鮮度が早く落ちます。(第10章・第11章)
- 一番摘み(いちばんつみ)
- その年に最初に摘む海苔。初摘みともいいます。11 月下旬から 12 月に出回ります。芽が若く柔らかく、口溶けと香りがよいので、寿司用の上等な海苔はここから選ばれます。(第21章)
- イノシン酸(いのしんさん)
- 魚や鰹節の旨味の中心になる成分。魚が死んだあと、筋肉の中のエネルギーのもとが酵素で分解されてできます。熟成で増えますが、さらに分解が進むと苦味のある成分に変わります。昆布のグルタミン酸と一緒に味わうと、旨味が何倍にも強くなります。(第10章・第20章)
- 裏押し(うらおし)
- 片刃の包丁を研ぐとき、裏の面を砥石に平らに当てて軽く引くこと。表を研いだときに刃先の裏へめくれ出た金属(カエリ)を取り、鋭い刃先に仕上げます。(第22章)
- 裏すき(うらすき)
- 和包丁の裏の面にある、浅いくぼみ。刃先と峰だけが砥石に当たるので、裏押しで平らに研ぎやすく、切った身も刃から離れやすくなります。(第22章)
- 裏巻き(うらまき)
- 海苔を内側にして、シャリを外側に巻いた巻物。黒い海苔になじみのない海外のお客様のために考え出されたとされ、カリフォルニアロールが代表です。巻きすをラップで包んで巻きます。(第24章・第25章)
- 江戸前(えどまえ)
- もとは江戸の前の海(江戸湾、いまの東京湾)と、そこで獲れた魚のこと。のちに、締める・煮る・漬けるなどの仕事をして酢飯と合わせる、握り寿司の流儀を指すようになりました。(第25章)
- FDA Food Code(えふでぃーえー ふーどこーど)
- 米国の食品医薬品局(FDA)が示す、食品衛生の手本となる決まり。各州や市が条例として取り入れます。生で出す魚の寄生虫対策の冷凍、素手で食品に触れることの制限、生ものを出すときのメニューの表示などを定めています。冷凍の条件は付録A の A.4 を見てください。(第1章・第6章・第26章)
- エンガワ
- ヒラメやカレイの背びれ・尻びれを動かす筋肉の部分。よく動くので脂とコラーゲンが多く、コリコリした歯ごたえがあります。一尾から取れる量はわずかです。(第15章)
- エンテロトキシン
- 黄色ブドウ球菌が食べ物の中で増えるときに作る毒素。100℃で 30 分加熱しても壊れません。(第3章・付録B)
- 黄色ブドウ球菌(おうしょくぶどうきゅうきん)
- 人の鼻や皮膚、手の傷にいる菌。塩分 15% 程度でも増えます。食べ物の中で増えるときに毒素(エンテロトキシン)を作り、この毒素は加熱しても壊れません。防ぐ柱は、手洗いと傷の管理で菌を付けないことと、10℃以下に保って増やさないことの二つです。(第3章・付録B)
- 落とし蓋(おとしぶた)
- 鍋より一回り小さい蓋を、煮汁の上にじかに載せる道具。沸いた煮汁が蓋に当たって回るので、少ない煮汁でも穴子の上の面まで行き渡ります。乾きと煮崩れを防ぎ、むらなく火が入ります。(第19章)
- おぼろ
- 白身の魚や海老をすりつぶし、砂糖と塩で炒って甘く仕上げたそぼろ。江戸前では、コハダなど光り物の下に少し挟んだり、巻物に使ったりします。卵を加える店もあるので、アレルギーの表示に気をつけます。(第19章・第26章)
- おまかせ・お好み
- おまかせは、職人が順番と内容を決めて出す出し方です。淡い味から脂の多いものへ、締めたもの、煮たもの、巻物や玉子へと、味の性質に沿って組み立てます。いまの高級店の定番です。お好みは、お客様が一貫ずつ注文する出し方です。(第26章)
- 温塩水解凍(おんえんすいかいとう)
- 約 40℃、塩分約 3% の塩水で、冷凍マグロなどの表面だけを解かす方法。表面が解けたらすぐ引き上げ、冷蔵庫で芯まで戻します。海水に近い濃さの塩水は、真水より身に水を吸わせにくいからです。ただし 3% は、魚の体液と同じ濃さではありません。(第12章)
か行
- 外硬内軟(がいこうないなん)
- 理想のシャリ玉の形。外側の米粒はほどよくくっついて形を保ち、内側の米粒は詰まらずに空気を含んでいます。口に入れると外側がくずれて、はらりとほどけます。(第9章・第24章)
- カエリ
- 包丁を研いだとき、刃先の反対側にめくれ出る、金属の薄いめくれ。バリともいいます。刃先全体にカエリが出たら研げた合図で、裏押しで取り除きます。(第22章)
- 飾り包丁・隠し包丁(かざりぼうちょう・かくしぼうちょう)
- ネタの表に入れる、見える浅い切れ目が飾り包丁です。裏(シャリの側)など見えない面に入れる切れ目は隠し包丁といって、区別します。どちらも硬い繊維を断って噛み切りやすくし、醤油のからみをよくします。イカやコハダなどに入れます。(第13章・第17章・第23章)
- 粕酢(かすず)
- 酒粕から造る酢で、赤酢と同じものです。1804 年(文化元年)、尾張の半田で、酒造りをしていた中野又左衛門が造り始めました。江戸に運ばれ、握り寿司の酢飯を支えました。(第8章・第25章)
- 片刃・両刃(かたば・もろは)
- 刃の片側だけに刃を付けた包丁が片刃です。柳刃や出刃など、和包丁の多くが片刃です。切った身が刃から離れやすく、薄く正確に引けます。左右の両方から刃を付けた包丁は両刃です。(第22章)
- カテキン
- お茶に含まれる渋みのもとの成分。タンパク質と結びついて引き締める働き(収斂)があり、口の中をさっぱりさせます。口に残った脂を流すのは、お茶の熱の働きです。(第21章)
- カニ穴(かにあな)
- 炊き上がったご飯の表面に開く、小さな穴。強い火で釜の底にできた湯気の泡が、米の間を押し分けて上がった通り道です。釜の中でよく対流が起き、むらなく火が通った目安とされます。(第7章)
- 芽胞(がほう)
- ウェルシュ菌やセレウス菌など、一部の菌が作る、熱や乾燥にとても強い休眠の殻。100℃の加熱にも耐え、条件がよくなると目を覚まして増えます。加熱したあとは小分けにして急いで冷やすことが対策です。(第2章・付録B)
- ガリ
- 生姜の甘酢漬け。6〜8 月に出回る新生姜が原料に向きます。薄く切って湯通しし、熱いうちに水気をしっかり絞ってから甘酢に漬けると、味が芯まで入ります。辛味と酸味で口の中を切り替える、口直しの役をします。お客様が直接口にするものなので、盛るときは手でつかまず、専用の箸かトングを使います。→C.3(第21章)
- 干瓢(かんぴょう)
- ユウガオの実を細くむいて干したもの。水で戻して醤油と砂糖で甘辛く煮て、細巻きの具にします。江戸前の巻物の基本で、煮方を見れば店の仕事が分かるといわれます。(第24章)
- 危険温度帯(きけんおんどたい)
- 多くの食中毒菌が増える 10〜60℃の温度。30〜40℃付近でいちばん速く増えます。食べ物をこの温度に置く時間を、できるだけ短くします。海外の基準では 5〜60℃(米国 FDA は 5〜57℃)のことが多くあります。(第2章・第5章)
- 切り付け(きりつけ)
- サクから、握りに乗せる一切れを切り出すこと。柳刃包丁の長い刃を使い、手前に一度で引く「引き切り」で切ります。(第23章)
- 銀皮(ぎんかわ)
- アジやサバ、コハダなど光り物の皮の内側にある、銀色に光る層。グアニンという物質の結晶が、鏡のように光をはね返しています。グアニン層ともいいます。皮を引くときは、この層を身に残します。(第16章)
- グルタミン酸(ぐるたみんさん)
- 昆布に多い旨味の成分で、アミノ酸の一つです。約 60℃の湯で 1 時間ほどかけて引き出します。沸騰させると、ぬめりと雑味が出ます。魚や鰹節のイノシン酸と一緒に味わうと、旨味が 7〜8 倍に感じられます。(第20章)
- 軍艦(ぐんかん)
- シャリの周りを帯状の海苔で囲み、上にイクラやウニなど形の定まらないネタを乗せた握り。海苔はシャリの水分ですぐ湿って縮むので、巻いたらすぐに出します。→C.3(第24章)
- ゲソ
- イカの足(腕)。塩もみで吸盤の硬い輪を落とし、さっと茹でて、ツメを塗って握るか炙ります。→C.3(第17章)
- 検食(けんしょく)
- 出した料理と材料を、万一の食中毒の調査のために少し取っておくこと。大量調理施設の決まりでは、料理と材料ごとに 50 g 程度を密封し、−20℃以下で 2 週間以上保存します。小さな店でも、この考え方を取り入れます。(第26章)
- 交差汚染(こうさおせん)
- 生の魚や汚れた手・器具から、菌やアレルギーの原因になる食材が、別の食べ物に移ること。魚を水洗いする汚れた工程と、サクを取るきれいな工程で器具を分けるか、作業と作業の間に洗浄と消毒をはさんで防ぎます。(第4章)
- 硬水(こうすい)
- カルシウムやマグネシウムを多く含む水。これらが米の組織を硬くして水を通しにくくするとされ、硬水で炊くとパサついた硬いご飯になりやすくなります。海外で炊くときに気をつけます。(第7章)
- 氷水解凍(こおりみずかいとう)
- 袋に入れて空気を抜いた魚を、0〜1℃の氷水に沈めて解かす方法。冷蔵庫で解かすより何倍も速く、表面の温度が 0℃付近から上がらないので、身の傷みとドリップが少なくて済みます。(第12章)
- 糊化(こか)
- 米のデンプンが水と熱で膨らみ、柔らかく粘りのある状態に変わること。アルファ化ともいいます。炊飯とは、デンプンを糊化させることです。浸水が足りないと表面だけが先に糊化して膜を作り、芯が残ります。(第7章)
- 昆布締め(こぶじめ)
- 塩をした白身を昆布ではさんで寝かせる仕事。昆布が余分な水分を吸って身を締め、昆布の旨味(グルタミン酸)と魚の旨味(イノシン酸)が合わさって、旨味が強くなります。(第13章・第15章)
- 古米・新米(こまい・しんまい)
- その年に収穫した米が新米、次の新米が出るまでの前の年の米が古米です。古米は保管のあいだに米の成分(脂質・デンプン・タンパク質など)が少しずつ変わって粒が硬くなり、炊いても粒が立ってベタつきにくいとされます。浸水には新米より時間がかかります。新米に古米を混ぜて使う店があります。(第7章)
- コラーゲン
- 皮や筋をつくる、硬いタンパク質。低い温度で長く加熱するとゼラチンに変わり、とろけるような食感になります。アワビの柔らか煮や、ツメのとろみと照りのもとです。(第14章・第18章・第19章・第20章)
さ行
- 最大氷結晶生成帯(さいだいひょうけっしょうせいせいたい)
- 身の中の水の大部分が氷に変わる、−5〜−1℃の温度帯。ここをゆっくり通ると氷の結晶が大きく育って細胞を壊し、解凍したときにドリップが出ます。急速冷凍と急速解凍は、この帯を速く通すためのものです。(第12章)
- 先入れ先出し(さきいれさきだし)
- 古いものから先に使う決まり。古いものを手前、新しいものを奥に置き、容器には日付を書きます。仕入れた魚だけでなく、仕込んだネタや、自家製のツメ・煮切り・ガリ・合わせ酢にも当てはめます。(第5章)
- サク
- おろした身を、切り付けしやすい長方形の塊に切り分けたもの。この作業をサク取りといいます。(第23章)
- 鮫皮(さめがわ)
- わさびをおろすための、サメの皮を板に貼ったおろし器。細かい凹凸で細胞を細かくすりつぶすほど、辛味のもとと酵素がよく出会い、辛味と香りが強く出ます。この反応に酸素は要りません。(第21章)
- 三枚おろし(さんまいおろし)
- 魚を上の身・下の身・中骨の三枚に分ける、基本のおろし方。体の平たいヒラメやカレイは五枚おろしにします。(第23章)
- 次亜塩素酸ナトリウム(じあえんそさんなとりうむ)
- 塩素系の消毒剤で、ノロウイルスにも効きます。まな板やダスターには 200 ppm、嘔吐物や便の処理には 1,000 ppm に薄めて使います。金属をさびさせ、酸性の洗剤と混ぜると有毒なガスが出ます。(第3章・第4章)
- シガテラ
- 熱帯・亜熱帯のサンゴ礁にすむ大型の魚にたまる自然毒(シガトキシン)による食中毒。下痢や嘔吐のほか、冷たいものが熱く感じる、温度の感覚の異常が特徴です。加熱しても壊れません。(第3章・付録B)
- 死後硬直(しごこうちょく)
- 魚が死んだあと、しばらくして身が硬くなること。やがて硬さがほどけ、そのあと熟成が進みます。活け締めと低温で始まりが遅れます。ただしマダイなど一部の魚は、締めてすぐ 0℃に冷やすと、かえって早まります。(第10章)
- 自己消化(じこしょうか)
- 魚が死んだあと、魚自身の酵素が身のタンパク質などを分解していくこと。熟成の旨味を生みますが、進みすぎると身がくずれ、菌による腐敗とも重なります。甘海老がとろりと甘いのも、この働きによります。(第10章・第17章)
- シニグリン・ミロシナーゼ
- シニグリンは、わさびの辛味のもとになる成分です。ミロシナーゼは、それを分解する酵素です。二つは細胞の中で別々の場所にしまわれていて、おろして細胞が壊れると出会い、辛味の成分(アリルイソチオシアネート)ができます。だから、おろす前のわさびは辛くありません。(第21章)
- シャリ
- 寿司飯(酢飯)のこと。→C.3(第7章・第8章・第9章)
- シャリ切り(しゃりきり)
- 炊きたての米を飯台に広げ、熱いうちに合わせ酢を打ち、切るように混ぜて冷ますこと。(第9章)
- 収斂(しゅうれん)
- タンパク質を固めて縮ませ、引き締める働き。お茶のカテキンが口の中を引き締めるのも、ミョウバンがウニの身くずれを防ぐのも、この働きです。(第19章・第21章)
- 熟成(じゅくせい)
- 締めた魚を 0〜4℃(できれば 0〜2℃)で清潔に寝かせ、魚自身の酵素の働きで旨味を増やし、身を柔らかくすること。菌が増える腐敗とは別のものです。アンモニアのようなにおいや苦味が出たら、熟成ではなく腐敗です。(第2章・第10章)
- 消費期限・賞味期限(しょうひきげん・しょうみきげん)
- 消費期限は「安全に食べられる期限」で、寿司・刺身・弁当など傷みやすいものに付けます。1 日でも過ぎたら捨てます。賞味期限は「おいしく食べられる期限」で、酢・醤油・乾物・缶詰など日持ちするものに付けます。過ぎてもすぐに危ないわけではありませんが、保存の状態で判断します。(第5章・第26章)
- 神経締め(しんけいじめ)
- 活け締めのあと、背骨の中の神経にワイヤーを通して壊すこと。脳を壊しても体はしばらく動いてエネルギーを使うので、それを止めます。死後硬直をさらに遅らせて「時間を稼ぐ」技術で、味を直接よくするものではありません。(第10章・第11章)
- 浸透圧(しんとうあつ)
- 濃さの違う液が膜をはさんで接したとき、水が薄いほうから濃いほうへ移ろうとする力。塩が魚の水分を引き出すのも、真水に浸けた身が水を吸って水っぽくなるのも、この力によります。(第13章)
- 酢洗い(すあらい)
- 塩で締めた魚の表面の塩を、水ではなく酢でさっと洗うこと。真水で洗うと、塩で抜いた水を身が吸い戻して水っぽくなるからです。表面の塩と酢の酸で、身も締まります。(第13章・第16章)
- すき引き(すきびき)
- 包丁を寝かせて、うろこを皮の表面ごと薄くそぎ取る方法。強く押しつけないので身が割れにくく、うろこの根元の汚れごと取れて衛生的です。(第13章・第23章)
- 酢締め・塩締め(すじめ・しおじめ)
- 塩締めは、魚に塩を当てて水分を抜き、身を締めること。そのあと酢に漬けるのが酢締めで、コハダやサバが代表です。締めは菌を殺す処理ではなく、傷むのを遅らせる処理です。アニサキスは酢でも塩でも死にません。(第13章・第16章)
- 生食用・加熱用(せいしょくよう・かねつよう)
- 生食用は、生で食べるための国の基準(菌の数、洗う水、10℃以下での保存など)を満たした魚介に付く表示です。「加熱用」と書かれた貝や魚を、生で出してはいけません。(第18章・第26章)
- セレウス菌(せれうすきん)
- 土に由来し、米によく付いている菌。芽胞を作り、炊いたご飯やパスタの中で増えます。嘔吐を起こす毒は、126℃で 90 分加熱しても壊れません。炊いた米を室温に長く置かないことが対策で、シャリの保温時間に上限を決める理由です。(第6章・第9章・付録B)
- 洗浄・消毒(せんじょう・しょうどく)
- 洗浄は、洗剤と水と力で汚れを落とすこと。消毒は、残った菌を熱や薬で殺すか減らすことです。順番は必ず「洗剤で洗う、すすぐ、消毒する、乾かす」です。汚れの上から消毒しても、菌まで届きません。(第4章)
- 相乗効果(そうじょうこうか)
- 昆布のグルタミン酸と、魚や鰹節のイノシン酸を一緒に味わうと、旨味が足し算ではなく掛け算のように強まること。片方だけのときの 7〜8 倍に感じられます。身の中ではなく、食べたときに舌の上で起きます。昆布締めと合わせ出汁の理由です。(第13章・第20章)
た行
- 立て塩(たてじお)
- 塩分約 3% の塩水(水 1 L に塩 30 g)。海水(約 3.4%)に近い濃さで、真水と違って身に水を吸わせずに、汚れや血を洗い落とせます。光り物など魚の下ごしらえに使い、同じ濃さの塩水は貝の砂抜きにも使います。貝のむき身は真水で短くすすぎます(第18章)。魚の体液と同じ濃さではありません(魚の体液は海水の約 3 分の 1)。(第13章・第16章)
- 血合い(ちあい)
- 魚の体の横の線(側線)にそって走る、暗い赤色の身。ミオグロビンと血が多く、においが出やすく、色も早く変わります。寿司では取り除くか、鮮度のよいものだけを使います。(第14章・第16章)
- 蓄養(ちくよう)
- 天然の魚を獲って生け簀で餌を与え、太らせてから出荷すること。マグロでは脂の多い餌で全身に脂が乗り、ねっとりした身になるとされますが、くどくなりやすい面もあります。表示の上では「養殖」になります。(第14章)
- 腸炎ビブリオ(ちょうえんびぶりお)
- 海水にすむ菌で、夏の魚介で食中毒を起こします。真水に弱く、4℃以下では増えません。いちばん増えやすい条件では 8〜10 分で倍になります。生食用の魚介の基準で、とくに数を決められている菌です。(第3章)
- ヅケ
- マグロなどを、醤油を合わせた地(漬け地)に漬けた仕事。冷蔵庫のない江戸時代に、マグロを保存する工夫として生まれました。いまは表面に湯霜をしてから漬け、地が入りすぎないようにする店もあります。→C.3(第14章・第25章)
- つけ場・つけ台(つけば・つけだい)
- つけ場は、職人が寿司を握るカウンターの内側の仕事場。つけ台は、お客様の前で握りを置く台です。お客様が帰るたびに清潔なダスターで拭きます。→C.3(第26章)
- ツメ
- 穴子や煮貝に塗る、甘く濃いたれ。穴子の煮汁に醤油・砂糖・みりんを加えて煮詰めて作ります。「煮詰め」を縮めた呼び名です。魚のゼラチンと糖が煮詰まって、照りととろみ、香ばしさが出ます。継ぎ足して使いますが、常温に置きっぱなしにせず、毎日火を入れ、冷めたら冷蔵します。(第19章・第20章)
- 手返し(てがえし)
- 手の上でシャリとネタを合わせ、返して形を整える一連の動き。本手返し、小手返し、立て返しなどの型があります。手数が多いほど職人の体温(約 36℃)がネタに移って脂が溶けるので、どの型でも少ない手数で握ります。(第24章)
- 手酢(てず)
- 握るときに手を湿らせる酢水。手水(てみず)に酢を加えたものです。米粒が手に付くのを防ぎ、手の表面を弱い酸性に保って菌が付きにくくします。素手で握れる理由の一つです(第6章)。(第6章・第24章)
- テリ
- シャリ切りのあとに素早く冷ましたシャリの表面の、つやのこと。米粒の表面から水分が一気に飛び、表面が引き締まって出るとされます。(第9章)
- デンプンの老化(でんぷんのろうか)
- 炊いて柔らかくなったデンプンが、時間とともに元の硬い状態に戻ること。0〜4℃でいちばん早く進むので、シャリは冷蔵庫に入れず、人肌に保ちます。(第9章)
- 天身(てんみ)
- マグロの赤身のうち、背側の中心にある、筋が少なくきめの細かい最上の部分。これに対し中落ちは、中骨の周りからこそげ取った身です。柔らかく旨味がありますが、骨に接していたぶん鮮度の落ちが速くなります。(第14章)
- 銅鍋(どうなべ)
- 銅の玉子焼き器。銅は熱をとてもよく伝え、鍋全体に熱がむらなく回るので、焦がさずに、出汁を抱えたままふんわり焼けます。内側には錫(すず)が引いてあり、錫は 232℃で溶けるので、空焚きはしません。(第19章)
- 胴割れ(どうわれ)
- 浸水した米をザルに長く置いて乾かしたとき、米粒に入るひび。炊くとひびからデンプンが流れ出し、ベタついたご飯になります。ザル上げは 15〜30 分で釜に移すのが目安です。(第7章)
- 特定原材料(とくていげんざいりょう)
- 食品表示でアレルギーの表示が義務になっている 9 品目。えび・かに・くるみ・小麦・そば・卵・乳・落花生・カシューナッツです。カシューナッツは 2026 年 4 月に加わりました(2 年間の経過措置があります)。表示がすすめられている品目が、別に 20 品目あります。醤油や煮切りには小麦が入っています。(第3章・第26章)
- ドリップ
- 解凍や切り付けのときに、魚の身から流れ出る汁。水分と一緒に旨味の成分も出ていくので、出るほど味が落ちます。菌が含まれることもあり、菌の栄養にもなります。急速解凍や引き切りで抑えます。(第5章・第12章・第23章)
- トロ
- マグロの脂の多い部分。腹側の、頭に近いところほど脂が厚くなります。とくに脂の多い腹の皮に近い部分を大トロ、脂と赤身のつり合いがよい部分を中トロと呼び分けます。(第14章)
な行
- 生なれ(なまなれ)
- 室町時代に広まった、発酵の期間を数日から数週間に短くしたなれずし。米がまだ形を保っているうちに、魚と一緒に食べます。「米を捨てる保存食」から「米と魚を食べる料理」への分かれ目になりました。(第25章)
- なれずし
- 塩漬けの魚を米と一緒に漬け込み、乳酸発酵させた保存食で、寿司のいちばん古い形です。乳酸の酸で魚を守ります。米は発酵のためのもので、食べません。鮒ずしが代表です。(第6章・第25章)
- 煮切り(にきり)
- 醤油に酒やみりんを加えて火にかけ、アルコールを飛ばした寿司用の醤油。アルコールのにおいが魚の香りを隠さないようにし、角が取れてまろやかになります。職人が刷毛で握りに塗ります。(第20章)
- 2度洗い(にどあらい)
- 手洗いを続けて 2 回すること。1 回目で皮脂や大きな汚れを落とし、2 回目でしわや爪の奥まで石けんを届けます。トイレの後や生の魚を触った後など、汚れの多い場面で行います。(第4章)
- ネタ
- 寿司の上に乗せる魚介や玉子などの材料。→C.3
- ノロウイルス
- 冬に多い食中毒のウイルス。二枚貝や、感染した人の手から広がります。10〜100 個程度のわずかな量でうつるとされます。食べてから 24〜48 時間で、嘔吐や下痢を起こします。85〜90℃で 90 秒以上の加熱と次亜塩素酸ナトリウムで対処し、アルコールは効きにくいので、手は2度洗いで流します。(第3章・第4章)
は行
- HACCP(はさっぷ)
- 原材料を受け取ってから提供するまでの工程で起こりうる危険を前もって考え、とくに管理する点と基準を決め、記録で確かめる衛生管理のやり方。日本では 2021 年 6 月から、原則としてすべての食品等事業者に義務づけられています。海外でも、国や地域によって営業許可の条件になります。(第5章・第26章)
- 早ずし(はやずし)
- 発酵させる代わりに、酢を飯に混ぜて作る寿司。江戸時代に広まりました。一晩で作れることから「一夜ずし」とも呼ばれ、箱寿司・押し寿司・ちらしのもとになりました。(第25章)
- 飯台(はんだい)
- シャリ切りに使う、浅く広い木の桶。サワラなどの木が余分な水分を吸い、乾くと吐き出します。使う前に湿らせ、使った後はよく洗って完全に乾かします。(第9章)
- pH(ぴーえいち)
- 酸性・アルカリ性の度合いを表す数字。0 から 14 まであり、7 が中性で、小さいほど酸が強くなります。pH 4.6 はボツリヌス菌が増えられる下限で、食品衛生の境目として広く使われます。黄色ブドウ球菌などは、もう少し低い pH でも増えます。酢飯はおおむね pH 4.0〜4.5 です。酸だけでなく、時間の管理と組み合わせて守ります。(第2章・第6章・第8章)
- ppm(ぴーぴーえむ)
- 百万分の一を表す濃さの単位。1 ppm は 0.0001% です。次亜塩素酸ナトリウムの 200 ppm は 0.02%、1,000 ppm は 0.1% にあたります。(第4章)
- 光り物(ひかりもの)
- 皮の銀色を残して握る青魚・小魚。コハダ・サバ・アジ・サヨリ・キス・サンマ・イワシなど。傷みが速いので、塩と酢で締めることが多いネタです。→C.3(第16章)
- 引き切り(ひききり)
- 柳刃包丁の長い刃を使い、手前に一度引いて切る切り方。身をつぶさないので切り口がなめらかで角が立ち、ドリップも出にくくなります。(第23章)
- ヒスタミン
- マグロ・カツオ・サバなど赤身の魚に多い成分(ヒスチジン)が、菌の働きで変わってできる物質。一度できると、加熱しても冷凍しても壊れません。冷蔵でも長く置けばできることがあります。食べてから 1 時間以内に、顔が赤くなる、じんましんが出るなどの症状を起こします。獲ってから出すまで、低い温度を保つことが予防の基本です。(第3章・第14章・付録B)
- 人肌(ひとはだ)
- 握るときのシャリのちょうどよい温度で、約 35〜37℃。ご飯は冷やすと硬くなるので、シャリは冷蔵庫に入れません。(第9章・第24章)
- 品温(ひんおん)
- 食べ物そのものの温度。冷蔵庫の中の空気の温度(庫内温度)とは違います。冷蔵庫の表示が 3℃でも、入れたばかりの魚の芯は 10℃を超えていることがあります。芯温計を刺して測ります。(第5章)
- フィコエリスリン
- 海苔に含まれる赤い色素。熱に弱く、炙ると壊れて消えます。熱に強い緑の色素(クロロフィル)が残るので、炙った海苔は鮮やかな緑に変わります。(第21章)
- 腐敗(ふはい)
- 菌が魚のタンパク質などを分解して、いやなにおいの物質やぬめりを作ること。熟成とは別のもので、腐敗した魚は使えません。(第2章・第10章)
- ブラックライト
- 紫外線を出すライト。アニサキスは紫外線を当てると青白く光るので、目で探すより見つけやすくなります。ただし見えるのは、表面から約 0.5 mm までの幼虫だけです。補助の道具であり、冷凍の代わりにはなりません。(第3章)
- 細巻き・太巻き(ほそまき・ふとまき)
- 細巻きは、半分に切った海苔(半切)に具を一種類だけ巻いたもの。鉄火(マグロ)・かっぱ(きゅうり)・干瓢・新香(漬物)が代表です。太巻きは、全形の海苔に玉子焼き・干瓢・椎茸など何種類もの具を巻いたものです。→C.3(第24章)
ま行・や行・ら行・わ行
- 松皮造り(まつかわづくり)
- マダイの皮に布巾をかけて熱湯を回しかけ、すぐ氷水に取り、皮ごと切り付ける仕事。縮んだ皮が松の木の皮のように見えることからの名です。皮と身の間の旨味を生かします。湯霜の一つです。(第13章・第15章)
- ミオグロビン
- 筋肉の中に酸素をためておく、赤い色素。マグロの赤身の色のもとです。長く泳ぎ続ける魚の赤い筋肉に多く、鯛やヒラメなど白身の魚にはほとんどありません。(第14章・第15章)
- ミョウバン
- ウニの形を保つために使う食品添加物。身を引き締めて、ウニが自分の酵素でとろけるのを防ぎます。多すぎると苦味や渋みがウニに移ります。ミョウバンを使わない塩水ウニもあります。(第19章)
- ムチン
- タコの表面のぬめりの主な成分。糖とタンパク質が結びついた粘液で、生臭さのもとです。塩でもんで泡として浮かせ、洗い流します。(第17章)
- メイラード反応(めいらーどはんのう)
- 糖とアミノ酸が熱などで結びつき、茶色の色と香ばしい香りを生む反応。炙りの香ばしさ、ツメの照りと香り、赤酢の色のもとです。(第8章・第14章・第19章・第20章)
- メト化(めとか)
- マグロの赤い色が茶色くくすむこと。色のもとの色素(ミオグロビン)に含まれる鉄が酸化して起きます。一度茶色くなると、元の赤には戻りません。低温に保ち、空気と光をさえぎって遅らせます。(第14章)
- 湯霜(ゆしも)
- 魚の皮や身に熱湯をかけ、すぐ氷水で冷やす仕事。表面だけを固め、皮を柔らかくし、臭みを飛ばします。マダイの松皮造りもその一つです。(第13章・第14章・第15章)
- 湯引き(ゆびき)
- 湯に食材をくぐらせて表面だけに火を入れ、氷水で止める仕事。白子やクエの皮などに使います。(第13章・第15章)
- 冷凍焼け(れいとうやけ)
- 冷凍しているあいだに、表面の氷が溶けずに直接水蒸気になって逃げ、表面が白く乾いて味が抜けること。脂も酸化して色やにおいが変わります。−18℃程度の冷凍庫で起きやすく、超低温と密閉で防ぎます。一度解凍したものを再び凍らせると、冷凍焼けと細胞の傷みが重なるので、再冷凍はしません。(第12章)
- わさび(本わさび・西洋わさび)
- 本わさびは日本原産の植物で、根茎をおろして使います。西洋わさび(ホースラディッシュ)は別の植物で、海外で「わさび」として売られている粉やチューブの多くはこちらです。辛味はおろして細胞が壊れたときに生まれ、3〜5 分でいちばん強くなります。→C.3(第21章)
C.2 一級で学ぶ用語(五十音順)
魚や米の中で起きることを、くわしく説明するための言葉です。第VIII部の経営の言葉もここに入れました。経営の言葉は、第27章から第31章で使う、一般的な意味だけを書いています。
あ行
- アクチンとミオシン(あくちんとみおしん)
- 筋肉を動かす二つのタンパク質。生きているあいだは ATP の力でくっついたり離れたりしますが、死んで ATP が尽きると、強くくっついたまま離れなくなり、身が硬くなります。これが死後硬直です。(第10章)
- 粗塩と焼き塩(あらじおとやきじお)
- 粗塩は粒が大きく、水分を含む塩です。ゆっくり溶けながら水を引き出すので、表面を急に塩辛くせずに、奥の余分な水分を抜くのに向きます。焼き塩は、加熱して水分を飛ばしたさらさらの塩で、素早く均一に振れます。(第13章・第20章)
- 粗利(あらり)
- 売上から原価(材料の費用)を引いた残り。粗利益ともいいます。人件費や家賃などの経費は、この粗利から払います。(第27章)
- ATP(えーてぃーぴー)
- アデノシン三リン酸。筋肉を動かすエネルギーのもとです。魚が死んで ATP が尽きると死後硬直が起きます。残った ATP は酵素によって、ADP、AMP、IMP(イノシン酸)、イノシン、ヒポキサンチンの順に分解されていきます。(第10章)
- FL 比率(えふえるひりつ)
- 売上に対する、原価(F、フード)と人件費(L、レイバー)を合わせた金額の割合。飲食店の経費のうち、いちばん大きな二つをまとめて見るための数字です。(第27章)
か行
- QSC(きゅーえすしー)
- 品質(クオリティ)、サービス、清潔さ(クリンリネス)の三つの頭文字。飲食店が長く続くための三つの柱とされます。(第31章)
- グリコーゲン
- 動物が体にたくわえる糖の一種で、貝の濃厚さ(こく)に関わります。グリコーゲンそのものはほとんど甘くありません。ホタテの甘みの中心は、グリシンやアラニンなどのアミノ酸です。貝柱を繊維を断つように切ると、これらが舌に触れやすくなり、甘みを強く感じます。(第18章)
- K値(けーち)
- 魚の鮮度を表す目安の数字。ATP が分解されてできたもの全体のうち、分解の進んだイノシンとヒポキサンチンが占める割合(%)です。低いほど新しく、生で食べる目安は 20% 以下、刺身用の上等なものは 10% 前後とされます。(第10章)
- 原価率(げんかりつ)
- 売上に対する原価(材料の費用)の割合。原価を売上で割って求めます。たとえば 1,000 円の売上に材料が 400 円かかれば、原価率は 40% です。寿司はネタによって原価率が大きく違います。(第27章)
- 5S(ごえす)
- 整理・整頓・清掃・清潔・躾(しつけ)の五つ。整理は、いらないものを処分すること。整頓は、ほしいものをいつでも取り出せるようにすること。清掃は、きれいにすること。清潔は、きれいであり続けること。躾は、汚れや散らかりが起きるたびに「なぜ」を繰り返して本当の原因を調べ、汚れない仕組みを作って守ることです。(第31章)
さ行
- 資金繰り(しきんぐり)
- 店の現金の出入りを見通し、支払いに必要なお金を切らさないようにすること。利益と現金は同じではありません。仕入れは先に払い、カード払いの売上は後から入るので、利益が出ていても現金が足りなくなることがあります。(第27章)
- ジアスターゼ
- 大根などに含まれる、デンプンを分解する酵素(アミラーゼ)の呼び名です。タンパク質は分解しません。アワビを大根と一緒に 70〜80℃で長く煮ると柔らかくなるのは、主にコラーゲンがゼラチンに変わるためです。大根の酵素は加熱の早い段階で働かなくなるので、その働きは考えにくいとされます。(第18章)
- 水分活性(すいぶんかっせい)
- 食べ物の水のうち、菌が使える水(自由水)の多さを表す数字。純粋な水を 1 として、0 から 1 の値で表します。塩や砂糖や酢は水と結びついて自由水を減らし、水分活性を下げて、菌を増えにくくします。酢飯が傷みにくい理由の一つです。(第2章・第6章)
- 速筋・遅筋(そっきん・ちきん)
- 速筋は、瞬発的な動きに使う白い筋肉です。酸素をためる赤いミオグロビンをほとんど含まないので、鯛やヒラメの身は透き通った白になります。遅筋は、長く泳ぎ続けるための赤い筋肉で、ミオグロビンが多く、マグロの赤身に多く含まれます。(第14章・第15章)
- 損益分岐点(そんえきぶんきてん)
- 売上と費用がちょうど同じになり、利益がゼロになる売上の額。これより売上が少なければ赤字、多ければ黒字です。費用を、売上にかかわらず毎月かかる固定費(家賃など)と、売上に合わせて増える変動費(材料費など)に分けて求めます。(第27章)
た行
- 棚卸し(たなおろし)
- 月末などに、店に残っている在庫の量と金額を数えて確かめること。その月に実際に使った原価は、月の初めの在庫に、その月の仕入れを足し、月末の在庫を引いて求めます。(第28章)
- タンパク質変性(たんぱくしつへんせい)
- 熱、酸、塩などでタンパク質の形が変わり、固まったり白く濁ったりすること。酢締めで身が白くなるのも、湯霜で表面が固まるのも、塩締めで身が締まるのも、これです。一度変わると元に戻りません。(第13章)
- 等張液(とうちょうえき)
- 細胞の中の液と、浸透圧が等しい液。細胞に水が出入りしないので、細胞が壊れません。人では約 0.9% の食塩水(生理食塩水)がこれにあたります。海の魚の体液は海水の約 3 分の 1(塩分にして約 1%)なので、立て塩や温塩水解凍の 3% は、魚にとって等張ではなく、やや濃い液です。貝やイカの体液は、海水とほぼ等張です。(第12章・第13章)
- トリメチルアミン
- 魚の生臭さの主な成分。魚の体の中のにおいのない成分(トリメチルアミンオキシド)が、死んだあとに菌の働きで分解されてできます。アルカリ性なので、酢や柑橘の酸で打ち消され、生姜や葱の香りで隠れます。(第10章・第16章)
は行
- ヒポキサンチン
- イノシン酸がさらに分解されてできる、苦味のある成分。増えるほど旨味が消えて苦くなり、K値を押し上げます。熟成が限界を超えた合図の一つです。(第10章)
- 歩留まり(ぶどまり)
- 仕入れた材料のうち、実際に使える部分の割合。丸の魚なら、魚全体の重さに対する、使える身の重さの割合です。歩留まりが低いほど、使える身 1 g あたりの本当の原価は高くなります。(第27章・第28章)
- 本枯節(ほんかれぶし)
- 鰹節のうち、カビ付けと天日干しを繰り返して、水分をぎりぎりまで抜いたもの。カビの酵素が脂を分解するので、雑味のない澄んだ出汁になります。85〜90℃の湯に短く浸して、香りとイノシン酸を引き出します。(第20章)
ま行
- 真昆布(まこんぶ)
- 北海道の南部で採れる、上等な出汁昆布。上品な甘みと澄んだ旨味があり、グルタミン酸が多く含まれます。昆布締めにも出汁にも使われます。(第20章)
- メトミオグロビン
- ミオグロビンの中の鉄が酸化してできる、茶色い色素。マグロの赤が茶色くくすむ「メト化」の正体です。酸素とくっつきすぎて起きるのではありません。一度変わると元の赤には戻らず、低温と空気をさえぎることで遅らせます。(第14章)
- メラノイジン
- メイラード反応の最後の段階でできる、茶色の色素。赤酢の赤茶色、ツメや醤油の色のもとで、酸化を防ぐ働きもあります。(第8章・第20章)
C.3 職人の符丁と寿司屋ことば
符丁(ふちょう)とは、同じ仕事をする仲間のあいだだけで通じる言葉です。寿司屋の符丁には、仕事を手早く進めるための短い言葉や、お客様の前で言いにくいことを伝えるための言葉があります。いまでは「シャリ」「ネタ」「ガリ」のように、一般の人も使うようになった言葉もあります。由来がはっきりしない言葉が多いので、ここでは広く知られている説を紹介し、説が分かれるものは「諸説あります」と書きました。
- シャリ(舎利)
- 酢飯のこと。白い米粒を、お釈迦様の遺骨である仏舎利(ぶっしゃり)にたとえたという説がよく知られています。古いインドの言葉(サンスクリット語)で米を表す言葉から来たという説もあり、諸説あります。
- ネタ
- 寿司の上に乗せる材料。材料を意味する「たね(種)」を逆さに読んだ言葉とされます。
- ガリ
- 生姜の甘酢漬け。噛んだときの「ガリッ」という音から、とされます。
- あがり(上がり)
- お茶。芸者の世界(花柳界)で淹れたてのお茶を「上がり花」と呼んだ言葉が、寿司屋の符丁になったとされます。食事の最後に出るお茶だから、という説もあり、語源には諸説あります。
- むらさき(紫)
- 醤油。醤油の色が紫がかって見えることから、という説がよく知られていますが、諸説あります。
- なみだ(涙)・さび
- わさび。つんと鼻に抜けて涙が出ることから「なみだ」。「さび」はわさびを縮めた言い方で、わさびを入れない握りを「さび抜き」といいます。
- ギョク(玉)
- 玉子焼き。「玉」の字を音で読んだ言葉です。
- ゲソ(下足)
- イカの足。脱いだ履物を意味する「下足(げそく)」を縮めた言葉とされます。
- おてもと(お手元)
- 箸のこと。
- つけ場
- 職人が握る、カウンター内側の仕事場。寿司を握ることを「つける」ということから、とされます。マグロの「ヅケ」(漬け)とは別の言葉です。
- ヅケ(漬け)
- 醤油の地に漬けたマグロなど。「漬ける」から来た言葉です。江戸時代、マグロは傷みやすいので醤油に漬けて使いました。
- 光り物
- 皮が銀色に光る魚。皮の内側に結晶の層があり、鏡のように光を反射するので光って見えます。
- 軍艦
- 海苔でぐるりと囲んだ握り。横から見た形が軍艦に似ていることからの名です。握りの中では新しい形で、昭和に入ってから生まれたという話がよく知られています。
- 鉄火(てっか)
- マグロを使った巻物(鉄火巻き)や丼(鉄火丼)。マグロの赤を、熱して真っ赤になった鉄にたとえたという説と、博打の場(鉄火場)で手を汚さずに食べられるように作られたという説があり、諸説あります。
- かっぱ(河童)
- きゅうり。きゅうりが河童の好物とされることから、という説がよく知られています。きゅうりの切り口が河童の頭の皿に似ているから、という説もあり、諸説あります。
- お愛想(おあいそ)
- お勘定。もとは店の側が使う言葉で、「愛想のないことで申し訳ありません」という気持ちで勘定書きを出したことから、などといわれます。本来はお客様が使う言葉ではないとする考え方もありますが、語源と使い方には諸説あります。
- 兄貴・弟(あにき・おとうと)
- 先に仕入れたネタが兄貴、後から仕入れた新しいネタが弟。「兄貴から使って」のように、お客様の前で「古い」と言わずに、先入れ先出しを伝える言葉です。
- 片思い(かたおもい)
- アワビ。アワビは巻貝の仲間で、殻が片側にしかないことから、「磯のアワビの片思い」ということわざになぞらえた言い方です。
- ヤマ
- 品切れ。「ネタがヤマになった」のように使います。由来ははっきりしません。
C.4 魚の呼び名と季節のことば
寿司屋では、同じ魚でも大きさや季節によって呼び名が変わります。名前を知っていると、魚の状態と旬が一緒に覚えられます。月ごとの旬は付録D にまとめました。
- 出世魚(しゅっせうお)
- 大きくなるにつれて名前が変わる魚。昔、人が出世するたびに名を改めたことになぞらえた呼び名とされます。コハダ(シンコ、コハダ、ナカズミ、コノシロ)、スズキ(セイゴ、フッコ、スズキ)、ブリ(この節の寿司ばなし)などがあります。
- シンコ(新子)
- コハダの幼魚で、長さ 4〜6 cm。初夏から夏に出回り、出始めには極端な高値が付きます。身が薄いので、塩も酢もごく短い時間で締めます。
- 桜鯛・紅葉鯛(さくらだい・もみじだい)
- 春、産卵の前に体の色が桜色に冴えたマダイが桜鯛。秋、産卵の疲れから回復して再び脂が乗ったマダイが紅葉鯛です。
- 麦わらダイ(むぎわらだい)
- 初夏、産卵を終えて身が痩せたマダイ。味が落ちる時期です。麦を刈り入れるころであることからの名とされます。イサキでは反対に、梅雨時の旬を「麦わらイサキ」と呼びます。
- 寒平目・猫またぎ(かんびらめ・ねこまたぎ)
- 晩秋から冬の、脂の乗ったヒラメが寒平目。夏の産卵後のヒラメは、猫もまたいで通るほど味が落ちるという意味で「猫またぎ」と呼ばれます。
- 寒ブリ(かんぶり)
- 12〜2 月の、脂がいちばん乗ったブリ。春に産卵すると脂が抜けます。
- 初鰹・戻り鰹(はつがつお・もどりがつお)
- 4〜5 月の初鰹は脂が少なくさっぱりし、9〜10 月の戻り鰹は脂が乗ります。
- 入梅イワシ(にゅうばいいわし)
- 梅雨時(6〜7 月)の、脂が乗ったイワシ。
- 梅雨穴子(つゆあなご)
- 梅雨時の穴子。身が柔らかく脂が穏やかで、煮穴子に向きます。
- 新イカ(しんいか)
- スミイカ(コウイカ)の小さな子。晩夏(8〜9 月)に出回ります。
- 夏マグロ(なつまぐろ)
- 産卵で脂が抜けた夏のクロマグロ。赤身の酸味が立ちます。腐って酸っぱいのではありません。

