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すし検定

目次 第24章 握りと巻き
    1. 序章本書の使い方 ― 二級と一級の範囲
  1. 第I部 食の安全

    1. 第1章世界に広がる寿司と衛生の現実
    2. 第2章微生物と腐敗のしくみ
    3. 第3章寿司屋で起きる食中毒
    4. 第4章洗浄・消毒・異物混入を防ぐ
    5. 第5章温度管理と在庫管理
    6. 第6章なぜ素手で握れるのか
  2. 第II部 シャリ

    1. 第7章米を知る ― 米と炊飯
    2. 第8章合わせ酢と調味
    3. 第9章シャリ切りと温度
  3. 第III部 魚を知る

    1. 第10章魚の死後に起きること ― 死後硬直・熟成・腐敗
    2. 第11章目利きと仕入れ
    3. 第12章冷凍と解凍
    4. 第13章下処理 ― 塩・酢・昆布・皮・骨
  4. 第IV部 ネタ

    1. 第14章マグロ
    2. 第15章白身魚
    3. 第16章光り物
    4. 第17章海老・蟹・イカ・タコ
    5. 第18章貝類
    6. 第19章煮物・玉子・ウニ・イクラ
  5. 第V部 調味料と薬味

    1. 第20章醤油・煮切り・ツメ・出汁と旨味
    2. 第21章わさび・海苔・ガリ・茶
  6. 第VI部 技術と道具

    1. 第22章包丁と砥石
    2. 第23章おろし方と切り付け
    3. 第24章握りと巻き
      1. 24.1 握りの目的とシャリ玉の形
      2. 24.2 手返しと手数
      3. 24.3 握りの手順
      4. 24.4 形・わさびの量・煮切り一級
      5. 24.5 軍艦と巻物
      6. 24.6 提供 ― 順序・速さ・置き方一級
      7. 24.7 よくある失敗と直し方、練習法一級
  7. 第VII部 歴史と職人の心得

    1. 第25章寿司の歴史 ― 屋台から世界へ
    2. 第26章カウンターに立つ ― 接客・おもてなしと職人の責任
  8. 第VIII部 経営

    1. 第27章お金の流れ ― 原価・歩留まり・値決め一級
    2. 第28章仕入れ・在庫・ロス一級
    3. 第29章開業の準備一級
    4. 第30章お客を集め、常連を育てる一級
    5. 第31章人と店の仕組み一級
  9. 付録 資料編

    1. 付録A覚えておきたい数字と温度・時間の早見表
    2. 付録B食中毒一覧表
    3. 付録C寿司ことばと用語集
    4. 付録D旬のカレンダー
    5. 付録E出題範囲と出題の目安

朗読は本文・コラム・まとめを読みます。表・図・確認問題は読みません。再生中は段落を押すと、そこから聴けます。

第VI部 技術と道具

第24章

握りと巻き

切ったネタとシャリを合わせて握り、海苔で巻く。寿司づくりの最後の仕事です。この章では、口の中でほどける握りの形、手数を少なくする理由、軍艦と巻物の作り方を、「なぜそうするのか」と一緒に学びます。

この章で学ぶこと

  • 外硬内軟のシャリ玉の形と、それが口の中でほどける理由を説明できる
  • 手数を少なくする三つの理由を説明できる
  • 海苔の表裏と巻きすの向きを守り、軍艦と巻物を衛生的に作れる
  • 米粒がくっつくしくみから、握りすぎと崩れの原因を説明できる(一級)
  • 形・わさび・煮切り・提供の順序を、ネタと客に合わせて組み立てられる(一級)

24.1 握りの目的とシャリ玉の形

握りの目的は、ネタとシャリを口の中で同時にほどけさせることです。シャリが先に消えると、ネタだけが口に残ります。ネタが先に消えると、米だけを噛むことになります。二つが同じ速さで崩れると、人肌のシャリがネタの脂を溶かし、酢飯の酸が旨味を引き立てます。こうして一つの味になって喉を通ります。

この一体感は、シャリ玉の形と量、握る力、ネタの厚み(第23章)、温度(第9章)で決まります。

外硬内軟 ― 外は締め、中は締めない

よいシャリ玉の形を外硬内軟(がいこうないなん)といいます。外は硬く、中はやわらかい、という意味です。外側の米粒は、軽くくっつき合って薄い壁を作ります。だから箸で持っても、醤油を付けても崩れません。内側の米粒は押し付けられておらず、粒と粒の間に空気を含んでいます。

口に入れて舌で押すと、外の壁が破れます。中の空気の層が崩れて、米粒が一粒ずつ離れ、はらりとほどけます。これが理想の食感です。「握る」と言いますが、本当は外側だけを締めて、中は締めない。これが握りの本質です。

強く握りすぎると、中の空気が押し出されます。米粒どうしがぴったりくっついて、団子になります。口の中でほどけず、塊のまま噛むことになり、ネタだけが先に消えます。逆に締めが足りないと、外の壁ができません。持ち上げたとたんや、醤油を付けたとたんに崩れます。

外硬内軟(よい握り) 外:粒がくっついて薄い壁になる 中:粒の間に空気が残り、ほどける 握りすぎ(団子) 中まで粒が押し付けられ、 口の中でほどけない シャリ玉の断面 シャリ玉の断面
図24-1 シャリ玉の断面。左がよい握り(外硬内軟)、右が握りすぎた団子。

シャリの量

一貫のシャリの量は、おおむね 10〜20g の幅に入ります。江戸前の伝統的な握りや、品数の多いおまかせの店では 10〜13g と小さめです。回転寿司や持ち帰りでは 16〜20g と大きめです。

量を決める基準は、ネタとの釣り合いです。ネタとシャリの重さがほぼ同じか、ネタがやや重いくらいで一体感が出ます。たとえばネタが 15g なら、シャリは 12〜15g です。

ネタの性質で量を変える

同じ釣り合いの中でも、ネタの性質でシャリを少し増やしたり減らしたりします。脂の強いネタは、脂がシャリを包むように、シャリをやや増やします。酢で締めた光り物は、酢飯の酸と締めの酸が重なるので、シャリを減らします。貝やイカのように噛む回数の多いネタは、シャリをやや増やして、噛み終わる時間を揃えます。

シャリの量は、ネタを切ってから決めるものです。

マグロ、とくにトロには人肌、約 35〜37℃のシャリが合います。マグロの脂は、およそ 24〜30℃あたりまでに溶けきるとされます。ただし部位や個体で幅があります。冷たいシャリでは脂が口の中で溶けず、蝋(ろう)のように残ります。人肌のシャリが脂を溶かすので、脂が旨味として感じられるのです(第14章)。

24.2 手返しと手数

手返しとは、左手の上でネタとシャリを合わせ、返して形を整えるまでの手の動きです。右利きの場合の言い方です。流派によって、手順と手数が違います。代表的な手返しは三つあります。本手返し、小手返し、立て返しです。

表24-1 代表的な手返し
手返し手数の目安特徴
本手返し5〜6 手六つの面がすべて整い、形が最も美しい。習得に時間がかかる
小手返し3〜4 手速く、動きが自然。いま最も多くの職人が使う
立て返し4〜5 手シャリが土台になり、大きなネタ・やわらかいネタが崩れない

本手返しは江戸前の古い手返しで、手数は 5〜6 手です。小手返しは 3〜4 手で、いちばん多く使われています。立て返しは 4〜5 手で、大きなネタに向きます。

手数を減らす三つの理由

どの手返しでも、職人は手数、つまり手を動かす回数を減らそうとします。理由は三つです。

第一は体温です。人の体温は約 36℃です。手のひらの表面も 30℃前後あり、ネタの脂が溶け始める温度より高いのです。手の中にある時間が長いほど、ネタの表面の脂が溶け出して艶が消えます。脂でシャリとの間が滑り、鮮度も落ちます。トロで目立ちますが、白身でも表面がぬるくなれば歯ごたえが失われます。

第二はシャリの温度です。シャリは人肌、35〜37℃に合わせてあります。手の中にある時間が長いほど、手の温度や室温に引かれて、狙った温度から外れていきます。

第三は衛生です。手が食材に触れる回数が増えるほど、手から菌が移る機会が増えます。手酢(第6章)は助けになります。それでも、手数そのものを減らすのがいちばん確実です。

手返しの細かな違い

本手返しでは、左手のネタの上にシャリをのせ、左手の親指で押さえてなじませます。次に両手を同時に返して寿司を右手の指の上に移し、左手をかぶせて取ります。左手の上で転がしてネタを上にし、両脇を締めます。六つの面を一度ずつ整えるので、形が最も美しく、ネタとシャリもよく密着します。そのかわり手数が多く、手の中にある時間が長くなります。

小手返しは、左手の中で寿司を横に転がして返す、簡単にした形です。速く、動きが自然です。右手を添えて横に転がして返す横手返しや、左手一つで重みと反動を使って返す方法は、小手返しの変形です。ネタの大きさや形で使い分けます。

立て返しは、縦返しとも書きます。左手の指の付け根にネタを置き、シャリをのせて形を作り、左手をかぶせるように返します。シャリが土台になってネタを支えるので、大きなネタややわらかいネタが崩れません。

表24-2 手返しの利点・欠点と向くネタ
手返し利点欠点向くネタ
本手返し六面が整い、形が最も美しい。密着がよい手の中にある時間が長い。習得が難しいコハダ・アジなどの光り物、白身、形の不揃いなネタ
小手返し速い。動きが自然。体温が伝わりにくい側面の整えが甘くなりやすいマグロ・イカ・タコなど平らで安定したネタ全般
横手返しなど小手返しの変形。ネタの形に合わせやすい返しが不安定だと形が揃わない大きさの違うネタ
立て返しシャリが土台になり、ネタが崩れない。見栄えがよい硬いネタは一体感が出にくい大きなネタ、やわらかいネタ、煮穴子、ウニ

手を冷やすのも、手数を減らすのと同じ目的です。脂の強いネタを握る前に、氷水に指先を浸けて手の温度を下げる職人は多くいます。手酢には冷たい水を使い、営業中に替えます。

24.3 握りの手順

小手返しを例に、握りの流れを見ます。

  1. 手酢 指先を手酢に浸し、手のひらに薄く広げます。光る程度が目安です。濡らしすぎると、シャリが水を吸って崩れます。
  2. シャリを取る 一貫分を取り、手の中で軽く俵の形にまとめます。ここではまだ握りません。
  3. ネタとわさび 左手の指の付け根にネタを置きます。表になる面を下にします。中央にわさびを付けます。
  4. シャリをのせる シャリをのせ、親指で真ん中を軽く押してくぼみを作ります。間の空気が抜けて、ネタとシャリがくっつきます。
  5. 返して整える 手の中で転がしてネタを上にします。両脇と手前・奥を軽く締め、ネタの上をなでて密着させます。向きを変えて、反対側も同じように整えます。

わさびをネタとシャリの間に挟むのは、香りと辛味を閉じ込めるためです。わさびには菌を増えにくくする働きもあります。ただし補助にすぎず、手洗いと温度の管理の代わりにはなりません(第21章)。

練習では、速さより先に、毎回同じ量・同じ形・同じ力で握れる正確さを身につけます。速さは、正確さをくり返すうちに後から生まれます。手数を減らそうとして形が揃わなければ、本末転倒です。

握ったら、10 秒以内に客の口に入るのが理想です。人肌のシャリは冷め始め、ネタはぬるくなり、海苔は湿っていくからです。

左手と右手の役目

左手は土台です。寿司を支え、転がし、形の基準を作ります。右手は調整です。量を取り、わさびを付け、締めます。力を入れるのは右手の指先だけで、左手は包むだけです。

形を整えるときは、まず右手の親指と人差し指で両脇、つまり長い辺を締めます。次に手前と奥の短い辺を軽く押さえます。最後に人差し指でネタの上を軽くなでて密着させます。向きを半回転させて、反対側も同じ回数だけ整えます。

24.4 形・わさびの量・煮切り

握りの三つの形

握りの形は、大きく三つに分かれます。俵型(たわらがた)は、側面が丸く、米俵のようにふくらんだ形です。口当たりがやわらかく、小手返しで自然にできます。舟形(ふながた)は、底が平らで上に向かって狭まる形です。ネタが舟に乗ったように見え、ネタの反りが美しく出ます。箱型(はこがた)は、側面をまっすぐに締めた角張った形です。本手返しや立て返しで六面を整えるとでき、並べたときに揃って見えます。

どの形でも、底は平らにします。ネタの両端は、シャリの両端より 2〜3mm ずつ出して、シャリが見えない程度に覆うのが基本です。ネタの端がシャリと揃ったり、シャリがはみ出したりすると、貧相に見えます。

わさびの量

わさびの量は、ネタの脂と厚みで決めます。脂の強いトロや、匂いの強い光り物にはやや多めにします。淡白な白身、甘みで食べるイカ・貝・甘海老には少なめです。煮穴子や玉子には使わない店が多くあります。目安は、米粒二〜三粒分から小豆一粒分までです。ネタの味を消すほどの量は多すぎます。

菌が増えやすいのは、ネタとシャリの境目です。わさびを間に置くと、辛味の成分(アリルイソチオシアネート)の働きが、この境目で補助的に効きます。ただし一貫に挟む量での効果は補助にとどまり、温度管理と手洗いの代わりにはなりません。

煮切りと、塩と柑橘

煮切り(第20章)は、刷毛でネタの表面に薄く一回だけ塗ります。表面が光る程度が目安です。垂れてシャリに染みたら多すぎます。煮切りを塗った握りは、客が醤油を付けずにそのまま食べられます。

白身の一部、イカ、貝、車海老、甘海老などは、煮切りの代わりに塩と柑橘で出すこともあります。柑橘はスダチ・カボス・レモンなどです。醤油では消えてしまう繊細な旨味と甘みが、塩との対比で立ちます(第15章)。塩は指先でごく少量を振り、柑橘は果汁を一、二滴絞ります。

24.5 軍艦と巻物

軍艦

軍艦は、シャリ玉のまわりに帯状の海苔を巻き、上にネタをのせる握りです。イクラ、ウニ、ネギトロのように、形の定まらないネタに使います。海苔は幅 3〜3.5cm の帯にします。全形の海苔を六つに切ったものが目安です。ザラザラした面を内側、つまりシャリの側にして巻き、巻き終わりを米粒一つで留めます。

海苔はシャリの水分を吸って、すぐに湿り始めます。だから軍艦は巻いたらすぐネタをのせ、すぐ出すものです。作り置きの軍艦は、海苔がしんなりして噛み切れず、磯の香りも消えます。手巻きも同じで、海苔の歯切れが命です。巻いたらその場で手渡します。

巻きすと海苔の向き

巻きすは、竹ひごを糸で編んだ道具です。竹の皮の側は平らでなめらか、反対側は丸みがあります。平らでなめらかな面を上にして使います。糸の結び目は奥、向こう側に置きます。巻き終わりで結び目が邪魔になりません。

海苔にも表と裏があります。艶のあるなめらかな面が表、ザラザラした面が裏です。巻物では裏をシャリの側、つまり内側にします。ザラザラした面がシャリの水分と粘りをつかみ、米粒を支えて崩れにくくする、と説明されます。錨(いかり)のように留めるので、アンカー効果と呼ばれます。艶のある表が外に出るので、見た目もよくなります。逆に置くと、なめらかな面でシャリが滑り、芯がずれます。切ったときに海苔とシャリが離れてしまいます(第21章)。

海苔の大きさは、全形、約 21cm × 19cm が太巻き一本分です。全形を長い辺で半分に切った半切(はんせつ)が細巻き一本分です。海苔は使う直前に袋から出し、軽く炙って香りを立てます(第21章)。湿気のある場所に置きっぱなしにしません。

細巻き・太巻き・裏巻き

細巻きは、半切の海苔に具を一種類だけ巻く、基本の巻物です。鉄火(マグロ)、かっぱ(きゅうり)、干瓢(かんぴょう)、新香(沢庵などの漬物)が代表です。

  1. 海苔を置く 海苔の裏を上にして、巻きすの手前に揃えて置きます。
  2. シャリを広げる シャリ約 80g を手前から広げ、奥の端に 1.5〜2cm の余白を残します。シャリは押し付けず、米粒を置いていくように広げます。
  3. 具を置く 具を中央よりやや手前に、一直線に置きます。わさびを塗るものは、具の下に塗ります。
  4. 一気に巻く 巻きすの手前を持ち上げ、具を指で押さえます。海苔の手前の端を、シャリの奥の端に着地させるつもりで一気に巻きます。
  5. 締める 巻きすの上から軽く締めて、形を整えます。

シャリを押し付けると、米粒が潰れて団子になります。海苔もシャリの水分を吸ってしんなりし、歯切れが失われます。

全形の海苔で何種類もの具を巻くのが太巻きです。シャリを外側にして巻くのが裏巻きです。裏巻きではシャリが巻きすにくっつくので、巻きすをラップで包んで使います。

太巻きと裏巻きの巻き方

太巻きの具は、玉子焼き・干瓢・椎茸・おぼろ・きゅうり・穴子などです。シャリは 180〜220g、奥の余白は 3〜4cm 取ります。具は、重いものを手前、崩れやすいものを奥に置きます。手前の具を芯にして一回転させ、残りの海苔で二重目を巻きます。巻きすで全体を締め、両端からはみ出した具とシャリを整えます。

裏巻きは、海苔の全面にシャリを広げ、裏返してシャリを外側にして巻きます。海外で生まれたカリフォルニアロールが代表です(第25章)。海苔が内側になるので、海苔の歯切れは失われます。そこで外側のシャリに胡麻や飛び子をまぶして、食感を補います。

巻く力と切り口

巻く力は、「海苔が割れず、芯がずれない」範囲で、できるだけ小さくします。強く巻けば米粒が潰れて団子になり、海苔が破れます。弱ければ、切ったときに崩れます。巻き上がりを締めるときは、上から押しません。巻きすの手前と奥を軽く引き合って、四つの辺を整えます。巻き終わりの海苔は、シャリの水分で自然に貼り付きます。水を付ける必要はありません。

細巻きは、まず半分に切ります。二本を揃えて、さらに三等分すると六切れになります。包丁は柳刃か、よく切れる薄い包丁を使います。刃の重みで海苔を切り、引き切り(第23章)で一度に下まで引きます。押すと海苔がちぎれ、シャリが潰れて切り口が崩れます。切り口が潰れていたら、原因は三つのどれかです。刃が鈍い、刃が濡れていない、押している、の三つです。

表24-3 巻物の種類と目安
巻物海苔シャリ奥の余白切り数要点
細巻き半切(裏を内側)約 80g1.5〜2cm6具は一種類。シャリを押し付けない
太巻き全形(裏を内側)180〜220g3〜4cm8重い具を手前、崩れる具を奥。一回転で芯を作る
裏巻き全形または半切(海苔が内側)120〜150gなし6〜8巻きすをラップで包む。胡麻などで食感を補う
軍艦幅 3〜3.5cm の帯(全形の 6 切が目安)12〜15gなしなし巻いたらすぐ出す
手巻き全形の 4 分の 1〜2 分の 120〜30gなしなし巻いたらその場で手渡す

巻物を切る・巻物の衛生

巻物は、巻いたらすぐに切ります。細巻きは六切れ、太巻きは八切れが基本です。一切れごとに濡れ布巾で刃を拭き、刃に付いたシャリと海苔のかけらを落とします。そして引き切りで切ります。

巻物の衛生で気をつけるのは、海苔を触る手です。海苔は乾いた食材です。濡れた手で触ると湿って破れ、手の水分と一緒に菌も移ります。海苔は乾いた手で袋から出し、巻きすに置いてから手酢を使います。

巻きすの隙間に残った米粒は、菌の栄養になります。営業中は一本巻くごとに布巾で拭きます。営業後はぬるま湯で米粒を落とし、隙間をブラシでかき出して、完全に乾かします。米粒が残ると、カビと菌のすみかになります。

細巻きを何本もまとめて巻き、切って置いておくのはやめます。切り置きを禁じるのと同じ理由です(第5章)。巻物も、注文ごとに巻き、巻いたら切り、切ったら出します。

24.6 提供 ― 順序・速さ・置き方

速さ

握ってから 10 秒以内に客の口へ、というのが理想でした(24.3)。時間が過ぎるほど、シャリは冷め、ネタはぬるくなり、煮切りはシャリに染みます。職人が組み立てた温度と食感の差が失われます。

そこで職人は、客の食べる速さを見ます。客が前の一貫を飲み込む少し前に、次を握り始めます。客が話し込んでいれば、握るのを待ちます。連れの二人が同時に食べ終わるように、速さも合わせます。

順序

握りの順序は、味の弱いものから強いものへ、が基本です。淡白な白身や貝から始めます。次に赤身、光り物、脂の強いトロや炙り、煮穴子と進みます。最後は玉子や干瓢巻きなどの甘いもので締めます。酢で締めた光り物は、口を切り替える位置に置きます。脂の強いものは、中盤から後半に置きます。

白身の次に貝、赤身の次にイカのように、食感を交互にすると飽きません。ただしこれは原則で、客の様子を見て変えます。酒を飲む客には、塩と柑橘で出すネタを先にします。子どもには玉子を早めに出します。脂の苦手な客には、トロを薄く切ります。おまかせの組み立てと接客は第26章で学びます。

置き方と醤油の案内

握りは、客の正面の、手が届く位置に置きます。職人の正面ではありません。げた(寿司台)や皿の中央より、少し客の側に寄せます。ネタが上、長い辺が左右になる向きにします。客が右手で取ると、自然に醤油の皿へ向かう向きです。握りの底は乾いた面に置き、濡れた皿には置きません。箸でも手でも取れるようにするためです。

煮切りを塗って出す店では、「そのままどうぞ」と一言添えます。醤油を付ける店では、聞かれたら説明できるようにしておきます。醤油はネタの端に少し付けます。シャリを醤油に浸けると、崩れて醤油を吸いすぎます。海外の客はシャリの側を醤油に浸けがちです。最初の一貫に煮切りを塗って出し、食べ方を見せる店もあります。

24.7 よくある失敗と直し方、練習法

失敗は、見た目の症状から形の上の原因をたどって直します。

シャリが崩れる
外の壁ができていません。原因は四つのどれかです。締めが弱い。手酢が多くてシャリが水を吸った。シャリが冷えて老化し、粒がくっつかない。シャリが乾いて、表面の糊化した層が失われた。直すには、両脇を締める動作を一度しっかり入れます。手酢を減らし、シャリの温度と乾燥を見直します(第9章)。
ネタが落ちる
ネタとシャリが密着していません。原因は、親指のくぼみがない、ネタの表面が濡れている、硬いネタに隠し包丁がない、のどれかです。シャリが丸すぎて、触れる面が小さいこともあります。ネタの水気を拭き、くぼみで空気を抜きます。硬いネタには隠し包丁(第23章)を入れ、仕上げにネタの上を軽くなでます。
シャリが硬い団子になる
握りすぎです。力が強いか、手数が多くて力をかける時間が長いか、シャリを取るときにもう締めているかです。シャリを取るときは「置く」だけにし、締めるのは仕上げの一瞬だけにします。練習では、握ったシャリ玉を箸で持ち上げて崩れないか、舌で押して一粒ずつ離れるかを毎回確かめます。
形が揃わない
シャリの量か、締める位置が毎回違います。量は、はかりで 10 回取って、差が 1g 以内に収まるまでくり返します。締める位置は、右手の親指と人差し指が触れる場所を毎回同じにします。向きを変えて、反対側も同じ回数だけ締めます。
わさびが多い
ネタの味が消え、辛味が鼻に抜けます。わさびを取る指の面を小さくし、ネタの中央に点で置きます。脂の少ないネタでは半分にします。客の「さび抜き」の注文は必ず守ります。間違えたら握り直します。

練習は、まずシャリだけで行います。一日 100 個、量を揃えて俵にまとめ、両脇を締めて底を平らにします。全部を並べて、高さと幅が揃っているかを見ます。次に、ネタに見立てた薄い板や布巾の切れ端で、返しの動作を覚えます。最後に本物のネタで握ります。

練習のシャリも人肌のものだけを使い、冷めたら捨てます。冷めると握りの感覚が変わるからです。動画で自分の手数を数えるのも効果があります。手数が 6 手を超えていたら、どの動作が余分かを一つずつ削ります。

この章のまとめ

  • 握りの目的は、ネタとシャリを口の中で同時にほどけさせることです。シャリ玉は外硬内軟にし、外側だけを短く締めて、中には空気を残します。
  • シャリの量は 10〜20g の幅で、ネタとの釣り合いで決めます。手数を減らすのは、体温・シャリの温度・衛生のためです。握ったら 10 秒以内に客の口へ届けます。
  • わさびはネタとシャリの間に挟みます。菌を抑える働きは補助で、手洗いと温度の管理の代わりにはなりません。
  • 軍艦と巻物は、海苔のザラザラした裏をシャリ側に、巻きすは平らな面を上にします。海苔は乾いた手で扱い、巻いたらすぐ切って、すぐ出します。一切れごとに濡れ布巾で刃を拭きます。
  • 米粒の表面の糊化デンプンは、押されて広く触れた面でくっつきます。外側だけが壁になり、力が強く長いほど中まで固まって団子になります。冷えたシャリは老化して崩れやすくなります。(一級)
  • 握りの形には俵型・舟形・箱型があり、ネタは両端でシャリより 2〜3mm 出します。順序は淡白から濃厚へ進んで甘いもので締め、客の様子で変えます。(一級)
  • 失敗は形の上の原因から直します。崩れは壁、ネタが落ちるのは密着、団子は力と時間、不揃いは量と締める位置です。(一級)

確認問題

問1 握りの手数(手を動かす回数)をできるだけ少なくする理由として、正しいものはどれか。
a 手数が多いほどシャリの中に空気が増え、握りが崩れやすくなるから
b 手の温度でネタの脂が溶け、シャリの温度が狙いから外れ、手から菌が移る機会も増えるから
c 手酢が菌を殺すので衛生上の問題はないが、見た目が悪くなるから
d 手数を少なくすると、シャリを中まで強く締められるから
e 体温はネタに伝わらないが、客を待たせないため

答え:b

体温は約 36℃、手のひらの表面も 30℃前後あります。手の中にある時間が長いほどネタの脂が溶け、人肌に合わせたシャリの温度も変わります。手が触れる回数が増えれば、手から菌が移る機会も増えます。a は逆で、手数が多いほど中まで押されて団子になります。c の手酢は菌を殺すものではなく、増えにくくする補助です。d の「中まで強く締める」は外硬内軟に反します。

問2 巻物の海苔と巻きすの扱いとして、正しいものはどれか。
a 海苔は艶のある表をシャリ側にし、巻きすは丸みのある面を上にする
b 海苔はザラザラした裏をシャリ側にし、巻きすは平らでなめらかな面を上にする
c 海苔は濡れた手で扱うと破れにくく、菌も移らない
d 細巻きのシャリは、海苔にしっかり押し付けて広げる
e 巻物は営業前にまとめて巻いて切っておくと、すぐ出せて衛生的である

答え:b

海苔のザラザラした裏をシャリ側にすると、シャリをつかんで崩れにくいと説明されます。艶のある表が外に出て見た目もよくなります。巻きすは平らでなめらかな面を上にし、結び目を奥にします。c の濡れた手は海苔を湿らせて破り、菌も移します。d のように押し付けると、米粒が潰れて海苔もしんなりします。e は切り置きと同じで、注文ごとに巻いて切り、すぐ出します。

問3 外硬内軟のシャリ玉ができるしくみについて、正しいものはどれか。
a 全体を均一に強く締めると、内部まで米粒がくっつき、口の中でほどけやすくなる
b 米粒の表面の糊化デンプンは、押されて広く触れた面でくっつく。力の届く外側だけが壁になり、内側は点で触れて空気が残る
c 外側を緩く、内側を固く締めると、口に入れた瞬間に外側がほどけて食感がよい
d シャリは冷蔵庫で冷やしておくと、米粒がくっつきやすくなり崩れにくい
e 握る時間が長いほど表面のデンプンがなじみ、ほどけやすくなる

答え:b

糊化したデンプンの層は、触れ合う面が広いほど強くくっつきます。だから力のかかる外側だけが壁になり、内側には空気が残ります。a は団子になります。c は形が逆で成り立ちません。d は誤りで、冷えたシャリはデンプンの老化で粒が硬くなり、くっつきにくく崩れやすくなります。e も誤りで、力をかける時間が長いほど中まで密着して団子になります。