第III部 魚を知る
第13章
下処理 ― 塩・酢・昆布・皮・骨
下処理は、魚を寿司のネタに変える仕事です。洗う、鱗を取る、骨を抜く、皮を引く、塩と酢と昆布で締める。どの作業にも理由があり、理由を知っていれば、魚が変わっても応用がききます。
この章で学ぶこと
- 真水と立て塩(約3%)の使い分けを、浸透圧と衛生の両面から説明できる
- すき引き・内臓と血の処理・骨抜き・皮引きの基本と、身を壊さない理由を説明できる
- 塩締め・酢締め・酢洗い・昆布締めで身に起きることを説明できる
- 脂の乗りに合わせて塩と酢の時間を変える理由を説明できる(一級)
- 湯霜・焼き霜・飾り包丁の目的を説明できる(一級)
13.1 水洗いと立て塩
下処理の最初の分かれ道は、何で洗うかです。魚の身は、膜に包まれた小さな細胞でできています。膜をはさんで濃さの違う液があると、水は薄い側から濃い側へ移ろうとします。この力を浸透圧(しんとうあつ)といいます。青菜に塩を振ると水が出てしんなりするのも、ナメクジに塩をかけると縮むのも、この働きです。
魚の身を真水に浸けると、どうなるでしょうか。細胞の中は、塩分や旨味を含んで濃い液です。そこへ外の薄い真水が入り込み、細胞は水膨れになって破れます。旨味は流れ出し、身は水っぽくなります。真水は汚れを落としているのではなく、細胞を壊しているのです。
そこで使うのが立て塩です。約3%の塩水で、水1Lに塩約30gが目安です。これは海水に近い濃さで、海水の塩分は約3.4%です。よく「魚の体液と同じ濃さ」と説明されますが、正しくありません。海の魚の体液の濃さは海水の約3分の1で、食塩にすると約1%です。3%は、それより濃い液です。
体液より濃いので、水が細胞に押し入ることはなく、身は水膨れになりません。さっと洗う程度なら、身から引き出される水もわずかで、表面が軽く締まるだけです。しかも塩水は、表面の汚れや血、ぬめりを、真水よりよく落とします。図13-1は、真水の中では水が細胞に流れ込んで膨らみ、立て塩の中では細胞が保たれる様子を示しています。
真水を使う場面
それでも、真水の出番はあります。腸炎ビブリオは、海水にすむ食中毒菌で、真水に弱い性質があります(第3章)。この菌は、魚の体表や鱗、鰓(えら)、内臓に付いています。厚生労働省も、魚介類を真水でよく洗うよう呼びかけています。使い分けは次のとおりです。
- 身が出る前 鱗を取る、内臓を出す、外側を洗う。この段階は真水の流水でよく洗い、菌を落とします。ここは菌を持ち込む「汚れた作業」なので、このあとの作業とは、まな板や器具を分けるか洗い直します(第4章)。
- 身が出たあと 原則として真水をかけません。立て塩か酢で洗い、ペーパーで拭きます。どうしても真水を使うときは、冷たい水で一瞬にとどめ、すぐ拭きます。浸け置きはしません。
覚え方は、「身に水を当てるときは、塩水か酢」です。とくに光り物のように身が柔らかく、血合いの臭いが出やすい魚は、立て塩で洗います。
13.2 鱗・内臓・血
すき引きは、包丁を皮にほぼ寝かせ、鱗を皮のごく表面ごと薄く削ぎ取る方法です。道具で鱗をこそげると、その力が皮を通して身に伝わり、身が傷みます。すき引きは刃が皮の表面を滑るだけなので、身に力がかかりません。鱗の根元にたまった汚れごと取れて、鱗も飛び散りません。刃はまな板とほぼ平行にし、尾の付け根から頭へ小刻みに動かします。下へ押し込むと、刃が身に入ります。鱗取りの道具を使う店もあり、ここは流儀で分かれます。
内臓は、できるだけ早く除きます。アニサキスは、魚が死んで時間がたつと、内臓から身へ移るからです。内臓の強い消化の酵素も、腹の内側から身を溶かします。
血は、腐敗と臭いのいちばんのもとです。背骨に沿った血合い(ちあい)、ここでは腎臓に、血が残っています。包丁の先や竹の刷毛(はけ)で膜を切ってかき出し、流水で洗ってペーパーで拭きます。身がまだ出ていない段階なので、真水でかまいません。
すき引きの手順と、身を守る理由
- 構える 頭を左、腹を手前に置き、尾の付け根の皮に刃を当てます。刃はまな板とほぼ平行で、わずかに起こす程度です。
- 削ぐ 左手で皮を軽く張り、刃を小刻みに前後させながら頭へ進めます。鱗が、皮の薄い層ごと帯のように刃に乗ってきます。
- 力は横に 下へは押し込みません。鰭(ひれ)の際と腹の縁は、指で逆になでて、残りを確かめます。
鱗取りの道具は、鱗を引きはがします。強い力が皮を通って身に伝わり、皮のすぐ下の筋肉が押しつぶされて、身割れや打ち身のような柔らかさが出ます。また、鱗の根元は皮の中に埋まっていて、周りの小さなくぼみに、ぬめりと一緒に雑菌がたまっています。道具は鱗だけを取って、このくぼみを残します。すき引きは鱗を根元ごと皮の表面と一緒に切り離すので、菌のすみかそのものを除けます。
自己消化と、血が悪さをする理由
魚が死ぬと、内臓の酵素は腹の内側から身を分解し始めます。これを自己消化といいます。腹身が柔らかく崩れ、腹の膜に骨が透けて見えるほど薄くなった魚は、内臓を長く放っておいた魚です。
血は栄養が多く、酸性でもアルカリ性でもない中ほどの性質なので、菌にとって最高のえさ場です。血に含まれる鉄は、脂の酸化を進めて生臭さを強めます。血合いを残したまま冷蔵すると、血の線から身が黒ずみ、臭いが身に回ります。
13.3 骨抜きと皮引き
三枚におろした身には、血合いに沿って小骨が一列に並んでいます。これを血合い骨といいます。この骨は、身に垂直ではなく、頭の方向へ傾いて生えています。骨抜きでつまみ、生えている角度に沿って、頭の方向へ斜めに引き抜きます。尾の方向や真上に引くと、骨が身の中で向きを変えながら抜け、周りの身を引き裂きます。これが身割れです。指先で骨の両側を軽く押さえてから抜きます。折れて残った骨は無理に掘らず、サクにしてから切り方でよけます。
包丁で皮を引くときは、尾の端で皮と身の間に刃を入れ、左手で皮をしっかり持ちます。包丁はまな板に寝かせて動かさず、皮のほうを左右に揺らしながら引きます。包丁を動かすと刃が上下にぶれて、身を削ったり皮を破ったりするからです。
アジ、サバ、コハダ、サヨリなどの光り物は、皮が薄いので、頭の側の端をつまんで手でむきます。皮のすぐ下には、銀色の輝きのもとである銀皮(ぎんかわ)があり、これを身に残します。こつは、身を動かさず、皮だけを引くことです。身を指でまな板に押さえ、皮を低く、身に沿わせて頭から尾へゆっくり引きます。身を引っ張ったり、皮を立てて引いたりすると、銀皮が皮と一緒にはがれます。むいた皮の裏が銀色になっていたら、失敗です。
外引きと内引き、銀皮の正体
包丁での皮引きには、外引きと内引きがあります。外引きは刃先を外に向けて皮を手前へ引き、内引きは刃を手前に向けて進めます。呼び方は流派や地域で入れ替わることもありますが、どちらも「包丁は動かさず、皮を引く」という原則は同じです。銀皮の正体は、グアニンという物質の結晶の層です。この結晶が光を跳ね返して、光り物の銀色の輝きになります。
13.4 塩締め
塩締めは、身に塩を当てて、しばらく置く仕事です。塩を当てると、身の表面に濃い塩水の層ができます。すると浸透圧で、細胞の中の水が外へ出ます。青菜に塩を振ったときと同じです。このとき血の残りや臭いの成分も一緒に抜けて、旨味が濃くなり、日持ちもよくなります。また塩は、表面のタンパク質を軽く固めます。だから塩締めした身は、切り口がだれずに角が立ちます。菌を減らす働きは、おまけ程度です。味の主役は塩辛さではなく、水が抜けて濃くなった旨味と、臭みの抜けた澄んだ味です。
塩の当て方には四つあります。高い所から均一に振る振り塩、身が見えないほど厚くまぶすべた塩、塩水に浸ける立て塩、和紙や布巾の上から振る紙塩です。鯛やヒラメの振り塩なら、15〜30分が目安です。
脂は、塩と水をはじきます。だから、脂の乗った魚ほど、塩を強く、長く当てます。もう一つ大事なことがあります。塩締めのあと、真水で塩を洗ってはいけません。抜いた水を、身が吸い戻すからです。表面の塩は、次の節の酢洗いか、立て塩でさっと洗います。
| 方法 | やり方 | 向く魚・目的 |
|---|---|---|
| 振り塩 | 身から30cmほどの高さから、塩を均一に振る | 白身の塩締め、昆布締めの前。もっとも基本 |
| べた塩 | 身が見えなくなるほど厚く塩をまぶす | サバなど光り物の強い締め。短い時間で強く水を抜く。コハダをどちらで締めるかは流儀が分かれる(第16章) |
| 立て塩 | 塩水に浸ける。洗いは約3%、締めるときは5〜10%も | 小魚や薄い身。塩が均一に回り、当たりが柔らかい |
| 紙塩 | 身に和紙や布巾をかけ、その上から塩を振る | 鯛、ヒラメなど繊細な白身。ゆっくり塩が入り、塩辛くならない |
自由水を抜く ― 時間は大きさと脂で変える
塩で外へ出てくるのは、自由水です。タンパク質に結びついていない、細胞の中で自由に動ける水で、菌も使える水です。この水と一緒に、血の残りや、トリメチルアミンという生臭さの成分が抜けます。自由水が減ると水分活性(第2章)が下がり、菌が使える水が減るので、日持ちがよくなります。表13-1にまとめたように、振り塩は30cmほどの高さから振り、立て塩で締めるときは5〜10%の濃さを使うこともあります。
時間に一律の正解はありません。目安は、鯛やヒラメの振り塩で15〜30分、サバのべた塩で1〜3時間、コハダは大きさによって20分から1時間半ほどです(光り物は第16章)。この幅を決めるいちばんの要素が脂です。脂は塩にも水にも溶けないので、塩水が中へしみる道をふさぎ、水が抜けるのも遅くなります。同じ魚でも季節と個体で脂は変わります。職人は腹の厚みや、皮をむいたときの脂の光り方を見て、その日の塩の量と時間を決めます。締まったかどうかは、表面が締まり、指で押すと弾力が返ってくることで見ます。
13.5 酢締めと酢洗い
塩締めのあとに酢に漬けるのが、酢締めです。酢は、身の中で三つの仕事をします。
- 身を白くする 酢の強い酸で、表面のタンパク質が固まり、身が白くなります。熱で卵の白身が白くなるのと同じことを、酸で起こしています。内側には生の層が残り、漬ける時間が長いほど白い層は厚くなります。
- 菌を増えにくくする 殺し尽くすのではなく、増えにくくするだけです。
- 小骨を柔らかくする 骨のカルシウムを溶かし出し、抜ききれない小骨を柔らかくします。
漬ける前に、表面の塩を酢でさっと洗います。これを酢洗いといいます。真水で洗うと、水を抜いた身が一気に水を吸い戻し、締めた意味がなくなります。酢洗いなら、表面に残った塩と酢の酸が表面を締めるので、水を吸い戻しにくくなります。酢洗いに使った酢は塩と汚れを含むので、本漬けの酢とは必ず分けます。光り物を酢締めで出すときのくわしい時間と注意は、第16章で学びます。
酢が身の中でしていること
食酢の酸の強さは、pHで2.5〜3前後です。pHは酸の強さを表す数字で、小さいほど酸が強くなります。魚の筋肉のタンパク質は、この強い酸に触れると形がほどけ、固まります。これが白くなる理由です。
菌を増えにくくするしくみは、こうです。酢の主な成分の酢酸は、分子の形のまま菌の中に入り込み、菌の中の酸を強めて、働きを止めます。酢飯と同じ原理です(第6章)。多くの食中毒菌は、pHが下がるほど増えにくくなります。ただし、pH4.6以下で増えなくなるのはボツリヌス菌の話です。サルモネラのように、pH4前後まで増える菌もあります。酢だけに頼らず、温度と時間も合わせて守ります。
小骨が柔らかくなるのは、骨の主な成分のリン酸カルシウムから、酢酸がカルシウムを溶かし出すからです。コハダ、サヨリ、小アジのように小骨を抜ききれない魚は、漬けている間に骨ごと食べられるようになります。酢洗いで表面が締まるのも、塩と酸の組み合わせの働きです。塩のない身を酸に浸けると、身はむしろ膨らみます。
酢の選び方と時間
酢締めには、まろやかな米酢を基本にします。キレを出したいときは、穀物酢やアルコール酢を合わせます(第8章)。酢は5℃前後に冷やして使います。白くなる変化が穏やかに進み、身が危険温度帯に置かれません。時間はコハダで10〜30分、サバで30分〜1時間を中心に、大きさと脂で前後させます。脂の乗ったサバは、塩と同じ理屈で長めにします。酢に昆布を一枚入れて、酸味の角を丸める店もあります。酢から上げた身は、ペーパーに包んで冷蔵庫で数時間から一晩置きます。酢が中まで均一に回り、酸味が落ち着きます。
13.6 昆布締め
昆布締めは、塩を当てた白身魚を昆布で挟み、冷蔵庫で寝かせて、昆布の旨味を身に移す方法です。魚の旨味の中心はイノシン酸です(第10章)。昆布の旨味の中心はグルタミン酸です。この二つを一緒に味わうと、旨味は何倍にも強く感じられます。これを旨味の相乗効果といいます(第20章)。この効果は身の中ではなく、食べたときに舌の上で起きます。淡白な白身ほど、効果がはっきり出ます。
乾いた昆布は、身の水も吸います。塩と同じように身を締めますが、塩より穏やかで、旨味を足しながら締めます。
昆布は、酢か酒を含ませた布巾で拭いて、しなやかにしてから使います。水で湿らせると、表面のぬめりが出てべたつき、水が身に入ります。時間は、薄くそいだ身で2〜4時間、サクのままなら半日から一晩が目安です。長すぎると身が飴色に染まって締まりすぎ、昆布の香りが勝ちます。目安を過ぎたら昆布から外し、ペーパーに包んで冷蔵します。生の魚を寝かせる仕事なので、衛生は熟成(第10章)と同じように厳しく管理します。
相乗効果の強さと、昆布の選び方
イノシン酸は、ATPが分解してできる核酸系の旨味です。グルタミン酸は、アミノ酸系の旨味です。この二つは舌の同じ受け手に働き、互いの感じ方を高め合います。二つの割合が一対一に近いとき最も強く、7〜8倍になるとされます。本検定では「核酸系とアミノ酸系の組み合わせ」が問われます。「アミノ酸系どうし」は誤りです。
昆布の種類でも仕上がりが変わります。真昆布は上品で癖がなく、鯛やヒラメなど繊細な白身に向きます。利尻昆布は澄んだ旨味で、やや硬めです。羅臼昆布は旨味も香りも濃いのですが、色が出やすく、身が黄色く染まりやすくなります。水で湿らせたときに出るぬめりは、アルギン酸という成分です。時間は、鯛やヒラメは短め、癖のあるカワハギやスズキは長めが合います。
13.7 熱を使う下処理 ― 湯霜・霜降り・焼き霜
生で出す寿司にも、表面だけに熱を入れる下処理があります。目的は、表面のタンパク質を固めて薄い守りの膜を作り、中は生のまま保つことです。
湯霜(ゆしも)は、湯引きともいい、身や皮に湯をかけるか、湯にくぐらせる方法です。筋肉のタンパク質は、ミオシンが40〜50℃、アクチンが65〜70℃付近で変わります。そのため70〜80℃の湯なら、表面は数秒から数十秒で白く固まります。皮のコラーゲンは熱で縮み、さらに熱を加えるとゼラチンになって柔らかくなります。魚のコラーゲンは、牛や豚より低い温度で変わります。
- 白子 70〜80℃の湯に数十秒くぐらせます。白子を包むごく薄い膜が固まって破れにくくなり、生臭さの成分が熱で飛び、中はとろりと生のまま残ります。熱すぎると中まで固まり、ぬるすぎると膜が固まらず崩れます。
- 鯛の皮(松皮造り) 皮を上にして布巾をかけ、熱い湯を回しかけて、すぐ氷水に取ります。皮が縮んで波打ち、硬くて噛み切りにくかった皮が柔らかくなって、皮の下の脂の旨味も食べられるようになります。
- ヅケの前の湯霜 マグロのサクの表面に湯をかけて氷水に取り、それからヅケの地に漬けます。固まった表面が醤油のしみ込みを抑え、中まで塩辛くなるのを防ぎます(第14章)。
霜降りは、骨やアラ、貝を熱湯にくぐらせ、表面の血やぬめりを固めて洗い落とす方法です。主に煮物や出汁の前の仕事です。焼き霜は炙りのことで、皮目や脂の多い部分に直火を当て、表面だけに焼き色を付けます。皮を柔らかくし、脂を溶かし、焼いた香ばしさを加えます(第14章)。
湯霜も焼き霜も、熱を当てたらすぐ氷水に取ります。理由は三つです。一つ目は、余熱を止めるためです。放っておくと、表面の熱が中へ伝わり続け、生で残したい中まで火が入ります。二つ目は、表面を締めて歯切れをよくするためです。三つ目は衛生で、表面が10〜60℃の危険温度帯にある時間を数秒に縮めます。氷水から上げたら、すぐにペーパーで水気を拭きます。長く浸けると水が身に入り、守りの膜の意味が薄れます。
13.8 飾り包丁と隠し包丁
ネタの表面に細かく包丁を入れるのが飾り包丁で、見える切り込みです。裏側や内側に入れる見えない切り込みを、隠し包丁といいます。どちらも見た目のためだけではなく、味に三つの働きをします。
- 繊維を断つ イカ、アジやコハダの皮、タコの身は噛み切りにくいものです。繊維を横切る向きに切り込みを入れれば、歯の仕事を包丁が先に済ませ、歯切れがよくなります。イカに格子に包丁を入れるのはこのためです(第17章)。
- 醤油がからむ 切り込みの分だけ表面が広がります。平らな面では醤油が流れ落ちますが、切り込みにはたまります。
- 味を感じやすくする 切り込みから旨味や甘みが溶け出しやすくなり、舌に触れる面が増えます。同じネタでも、旨味と甘みを強く感じやすいとされます。
深さは身の厚みの三分の一から半分、間隔は2〜5mmが目安です。深すぎると握ったときに崩れ、浅すぎると効き目がありません。コハダの皮目の飾り包丁は、皮の縮みを防ぎ、握ったときに身が反らないようにする役目も兼ねています。
この章のまとめ
- 真水は浸透圧で細胞に入り込み、身を水っぽくする。身が出る前は真水の流水で腸炎ビブリオを落とし、身が出たあとは立て塩か酢で洗う。立て塩約3%は海水に近い濃さで、魚の体液と同じ濃さではない。
- すき引きは身に力をかけずに鱗を除く。内臓と血は早く除く。血合い骨は頭の方向へ斜めに抜き、皮は包丁を動かさずに引き、光り物は銀皮を身に残す。
- 塩締めは浸透圧で水と臭みを抜いて身を締める。脂の多い魚ほど強く長く当て、塩は真水ではなく酢で洗う。
- 酢締めは身を白くし、菌を増えにくくし、小骨を柔らかくするが、アニサキスは死なない。昆布締めはイノシン酸とグルタミン酸の相乗効果を生かす。
- 脂は塩と水がしみる道をふさぐので、脂の乗った個体ほど塩を強く長く、酢にも長く漬ける。(一級)
- 湯霜・焼き霜は表面だけを固めて中を生に保ち、すぐ氷水で余熱を止める。飾り包丁は繊維を断ち、醤油をからませ、味を感じやすくする。(一級)
確認問題
問1 立て塩について、正しいものはどれか。
a 約3%にするのは、魚の体液と同じ濃さだからである。
b 約3%は海水に近い濃さで、魚の体液より濃いので、身に水を吸わせない。
c 身が出たあとは、立て塩より真水で浸け置きするほうがよい。
d 腸炎ビブリオは塩水に弱いので、鱗を取る前から立て塩で洗う。
e 塩は銘柄によらず重さが同じなので、大さじで量ってよい。
答え:b
約3%は海水に近い濃さで、魚の体液(食塩にして約1%)より濃い液です。そのため水が細胞に押し入らず、身が水っぽくなりません。a は誤りで、体液と同じ濃さではありません。c は誤りで、身が出たあとは真水をかけず、浸け置きもしません。d は誤りで、腸炎ビブリオは真水に弱いので、身が出る前は真水の流水で洗います。e は誤りで、塩の重さは銘柄で大きく違うので、秤で量ります。
問2 塩締めと酢締めについて、正しいものはどれか。
a 塩締めのあとは、真水でよく洗って塩を落とす。
b 酢でしっかり締めれば、アニサキスは死ぬ。
c 酢締めは、酢の酸で表面のタンパク質を固めて白くし、菌を増えにくくし、小骨を柔らかくする。
d 酢洗いに使った酢は、そのまま本漬けに使うのがよい。
e 塩締めのいちばんの目的は、菌を殺すことである。
答え:c
酢締めの三つの働きは、身を白くすること、菌を増えにくくすること、小骨を柔らかくすることです。a は誤りで、真水で洗うと身が水を吸い戻すので、酢で洗います。b は誤りで、アニサキスは酢では死にません。d は誤りで、酢洗いの酢は塩と汚れを含むので分けます。e は誤りで、塩締めの主な目的は水と臭みを抜いて身を締めることで、菌を減らす働きはおまけ程度です。
問3 同じ大きさの、脂の乗ったサバと脂の少ないサバを、同じ時間だけ塩締め・酢締めした。起きることとして正しいものはどれか。
a 脂の乗ったサバのほうが塩と酢が深く入り、締まりすぎる。
b 脂は塩と水がしみる道をふさぐので、脂の乗ったサバは締まりが浅くなり、塩を強め・酢を長めにする必要がある。
c 脂はタンパク質の変化を速めるので、脂の乗ったサバのほうが早く白くなる。
d 脂の量は塩と酢のしみ方に関係せず、仕上がりは同じになる。
e 脂の乗ったサバは、塩を使わず酢だけで締める。
答え:b
脂は塩にも水にも溶けず、塩水や酢が身の中へしみる道をふさぎます。そのため脂の乗った個体ほど水が抜けるのも白くなるのも遅く、同じ時間では締まりが浅くなります。職人は脂の乗りを見て、塩を強く長く当て、酢にも長く漬けます。

