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すし検定

目次 第8章 合わせ酢と調味
    1. 序章本書の使い方 ― 二級と一級の範囲
  1. 第I部 食の安全

    1. 第1章世界に広がる寿司と衛生の現実
    2. 第2章微生物と腐敗のしくみ
    3. 第3章寿司屋で起きる食中毒
    4. 第4章洗浄・消毒・異物混入を防ぐ
    5. 第5章温度管理と在庫管理
    6. 第6章なぜ素手で握れるのか
  2. 第II部 シャリ

    1. 第7章米を知る ― 米と炊飯
    2. 第8章合わせ酢と調味
      1. 8.1 酢とは何か ― 酢酸発酵と酸度
      2. 8.2 酢の種類と性格
      3. 8.3 合わせ酢の三つの材料 ― 酢・塩・砂糖
      4. 8.4 合わせ酢の仕込みと保存
      5. 8.5 塩と砂糖の種類一級
    3. 第9章シャリ切りと温度
  3. 第III部 魚を知る

    1. 第10章魚の死後に起きること ― 死後硬直・熟成・腐敗
    2. 第11章目利きと仕入れ
    3. 第12章冷凍と解凍
    4. 第13章下処理 ― 塩・酢・昆布・皮・骨
  4. 第IV部 ネタ

    1. 第14章マグロ
    2. 第15章白身魚
    3. 第16章光り物
    4. 第17章海老・蟹・イカ・タコ
    5. 第18章貝類
    6. 第19章煮物・玉子・ウニ・イクラ
  5. 第V部 調味料と薬味

    1. 第20章醤油・煮切り・ツメ・出汁と旨味
    2. 第21章わさび・海苔・ガリ・茶
  6. 第VI部 技術と道具

    1. 第22章包丁と砥石
    2. 第23章おろし方と切り付け
    3. 第24章握りと巻き
  7. 第VII部 歴史と職人の心得

    1. 第25章寿司の歴史 ― 屋台から世界へ
    2. 第26章カウンターに立つ ― 接客・おもてなしと職人の責任
  8. 第VIII部 経営

    1. 第27章お金の流れ ― 原価・歩留まり・値決め一級
    2. 第28章仕入れ・在庫・ロス一級
    3. 第29章開業の準備一級
    4. 第30章お客を集め、常連を育てる一級
    5. 第31章人と店の仕組み一級
  9. 付録 資料編

    1. 付録A覚えておきたい数字と温度・時間の早見表
    2. 付録B食中毒一覧表
    3. 付録C寿司ことばと用語集
    4. 付録D旬のカレンダー
    5. 付録E出題範囲と出題の目安

朗読は本文・コラム・まとめを読みます。表・図・確認問題は読みません。再生中は段落を押すと、そこから聴けます。

第II部 シャリ

第8章

合わせ酢と調味

シャリの個性は、合わせ酢で決まります。酢・塩・砂糖の三つは、味を付けるだけの材料ではありません。シャリの水分、日持ち、硬くなる速さまで左右します。この章では、酢の造り方と酸度の読み方、三つの材料の役割、店の配合を理由をもって決める考え方を学びます。

この章で学ぶこと

  • 酢の酸度を読み、酢を替えるときに量を計算し直せる
  • 米酢・穀物酢・アルコール酢・赤酢の性格と使い分けを説明できる
  • 合わせ酢の酢・塩・砂糖の役割と、配合の考え方を説明できる
  • 赤酢の色と香りを生むメイラード反応と、塩・砂糖が粒の数で働くしくみを説明できる(一級)
  • 粗塩と焼き塩の違いと、それぞれに向く使い道を説明できる(一級)

8.1 酢とは何か ― 酢酸発酵と酸度

酢は、酒に含まれるアルコールを、酢酸菌(さくさんきん)という菌が酢酸に変えてできる調味料です。酢酸菌は、アルコールを酸素で酸化して酢酸を作ります。この変化を酢酸発酵といいます。

米酢なら、まず米から酒を造ります。米を麹(こうじ)で糖に変え、酵母がその糖をアルコールにします。できた酒に酢酸菌を加えると、酢になります。何を原料にした酒か、どう造ったかが、そのまま酢の個性になります。

酢の主な成分は酢酸です。ほかに、酢酸以外の酸、アミノ酸、糖、香りの成分が少しずつ含まれます。この「少しずつ」の違いが、旨味やコク、香りの差になります。

酸度を読む

酢のラベルには酸度が書いてあります。酸度は、酢 100 ml に含まれる酸を、酢酸に換算した重さ(g)です。酸度 4.5% なら、100 ml の中に 4.5 g の酸があるという意味です。

日本の市販の酢は、酸度 4.2〜4.5% 程度が一般的です。業務用には、酸度 10〜15% の高酸度の酢もあります。高酸度の酢をそのまま使うと、米が酸で締まりすぎ、ツンとした刺激だけが立ちます。

だから、酢を替えるときは必ず酸度を見ます。そして、酸の量が同じになるように計算し直します。考え方は、いまの量にいまの酸度を掛け、新しい酢の酸度で割る、というものです。

  1. いまの酸の量 酸度 4.5% の酢を 200 ml 使っているとします。200 に 4.5 を掛けて 900 です。
  2. 新しい酢の量 新しい酢の酸度が 5% なら、900 を 5 で割って 180 です。
  3. 答え 酸度 5% の酢 180 ml で、もとの酢 200 ml と同じ酸の量になります。

酢の強さと、シャリの酸性

酢は強い酸性です。酸性の強さはpH(ピーエイチ)という数字で表します。小さいほど酸性が強くなります。合わせ酢を打ったシャリは、おおむね pH 4.0〜4.5 になります。

この酸性が、菌を増えにくくします。ただし、酢は菌を殺すのではありません。増えにくくするだけです。これを静菌(せいきん)といいます。時間がたてば、酢飯も安全ではなくなります(第6章・第9章)。

もう一つ覚えておきたいのは、酢酸が飛びやすいことです。温めると、湯気と一緒に逃げていきます。この性質は、合わせ酢の仕込みとシャリ切り(第9章)で何度も出てきます。

酢の規格と、海外の酢で水分を補う

日本では、醸造酢の日本農林規格(JAS)が、酢の名前と酸度の下限を決めています。酸度の下限は、穀物酢が 4.2%、果実酢が 4.5%、そのほかの醸造酢が 4.0% です。アルコール酢は、この「そのほかの醸造酢」に入ります。

原料の量にも決まりがあります。穀物酢と米酢は、酢 1 L あたり、穀物または米を 40 g 以上使ったものです。玄米などから造る米黒酢は、1 L あたり米 180 g 以上を使い、熟成で褐色か黒褐色になったものです。

酢そのものの pH は 2.5〜3 程度です。

酸度の高い酢に替えて量を減らすと、そのぶん合わせ酢の水分も減ります。たとえば 200 ml を 180 ml に減らせば、20 ml 足りなくなります。この差は湯で足すと、シャリの水加減が変わりません。

8.2 酢の種類と性格

寿司で使う主な酢は、米酢、穀物酢、アルコール酢、赤酢の四つです。米酢はまろやかで、白いシャリの基本です。穀物酢は軽く、すっきりしています。アルコール酢は旨味が少なく、酸味が鋭い酢です。赤酢は褐色で、コクと旨味があります。

表8-1 寿司で使う主な酢
種類原料性格主な使い道
米酢米まろやか。ほのかな甘みと旨味白いシャリの基本。白身・貝に合う
穀物酢米・小麦・トウモロコシなど軽く、すっきり合わせ酢の土台、ブレンド
アルコール酢醸造アルコール旨味は少なく、酸味が鋭いキレを出す。脂の強い青魚を締める
赤酢(粕酢)長く寝かせた酒粕褐色。コクと旨味がある江戸前のシャリ。マグロ・光り物・穴子

米酢と穀物酢

米酢(こめず)は、米を主な原料にした酢です。米から来るアミノ酸と糖が残るので、酸味がまろやかで、ほのかな甘みがあります。香りも穏やかです。白身や貝のような淡い味のネタの邪魔をしないので、最も広く使われます。

穀物酢は、米・小麦・トウモロコシなど、いくつかの穀物から造る酢です。米酢より軽く、酸味はやや鋭く、すっきりしています。値段が手頃で品質も安定しているので、合わせ酢の土台に使う店も多くあります。

アルコール酢

アルコール酢は、醸造アルコールを酢酸発酵させた酢です。穀物から来る成分がほとんどないので、旨味やコクは少なく、酸味が鋭く澄んでいます。

使いどころは二つあります。一つは、米酢や赤酢に少し混ぜて、酸味のキレを出すことです。もう一つは、サバやイワシのような脂の強い青魚を締めることです。脂に負けない鋭い酸味で、臭みを抑えながら身を締めます(第16章)。アルコール酢だけで合わせ酢を作ると、酸味がとがって平板になります。

アルコール酢は「殺菌力が強い」と言われることがあります。しかし、酢が菌を抑える力は、主に酸度で決まります。同じ酸度なら、アルコール酢だけが特別に強いわけではありません。

赤酢(粕酢)

赤酢(あかず)は、酒粕から造る酢で、粕酢(かすず)ともいいます。日本酒を搾った後の酒粕を、1〜3 年、長いものは 5 年以上寝かせます。それを水で溶き、酢酸発酵させて造ります。

寝かせているあいだに、酒粕のアミノ酸と糖が結びついて、褐色になります。同時に、甘い香りと旨味が生まれます。味噌や醤油が茶色くなるのと同じ変化です。

赤酢は酸味がまろやかに感じられ、コクがあります。そのため、江戸前の赤酢のシャリは、砂糖を使わない配合が伝統とされます。砂糖で丸めなくても、赤酢そのものが丸いからです。赤酢のシャリは淡い茶色に色づき、マグロやコハダ、穴子のような味の強いネタと特によく合います。

赤酢の色と香り ― メイラード反応

赤酢の色と香りを生むのは、メイラード反応です。アミノカルボニル反応ともいいます。アミノ酸と糖が結びつき、褐色の色素と、たくさんの香りの成分ができる反応です。この褐色の色素をメラノイジンといいます。

酒粕にはアミノ酸と糖がたっぷり含まれています。それが常温で、年単位の時間をかけてゆっくり反応します。味噌や醤油の色、パンの焼き色も同じ反応です。パンは高温で数分、赤酢は常温で何年、という違いがあるだけです。

赤酢の酸度は 4.5% 前後で、米酢と大きくは変わりません。それでもまろやかに感じるのは、酒粕から来るアミノ酸と糖が、酸味を包むからです。

酒粕は、酒造りで発酵を終えた後の原料です。そのため赤酢は、米を糖に変える工程と、アルコール発酵の工程が要りません。米酢は、米、糖化、アルコール発酵、酢酸発酵の順に進みます。赤酢は、酒粕、長い熟成、水で溶いて酢酸発酵、の順に進みます。

米酢の造り方 米 麹で糖化 酵母で アルコール発酵 酢酸菌で 酢酸発酵 米酢 淡い黄色 赤酢(粕酢)の造り方 酒粕 長く熟成 1〜3 年以上 メイラード反応 褐色・旨味 水で溶き 酢酸発酵 赤酢 褐色 酒粕は発酵を終えた原料なので、糖化とアルコール発酵の工程が要らない
図8-1 米酢と赤酢の造り方。赤酢の色と香りは、熟成のあいだのメイラード反応で生まれます。

アルコール酢と黒酢をもう少し詳しく

アルコール酢は、発酵で造る醸造酢の一種です。氷酢酸を水で薄めた合成酢とは違います。菌を抑える力は、主に酢酸の量(酸度)と pH で決まります。ですから、同じ酸度なら他の酢と大きな差はありません。ただし、高酸度の製品を選べば、そのぶん菌を抑える力も強くなります。

本検定でよく問われるのは、穀物酢とアルコール酢の使い分けです。アルコール酢は、旨味は少ないが、鋭く純度の高い酸味を持ちます。その酸味でキレを出し、脂の強い魚を締めます。ここを押さえておけば十分です。

黒酢は、玄米や大麦を原料に、壺の中で 1〜3 年かけて発酵・熟成させた酢です。熟成のあいだにメイラード反応で黒褐色になります。アミノ酸がとても多く、酸味は柔らかです。酢飯の主役にすることは少ないのですが、赤酢や米酢に少し加えて、深みを出す店があります。

8.3 合わせ酢の三つの材料 ― 酢・塩・砂糖

合わせ酢(すし酢)は、酢・塩・砂糖を合わせたもので、シャリの味を決めます。三つとも、味のためだけに入っているのではありません。それぞれに、味のほかの役目があります。

酢 ― 酸味と、菌を増えにくくする働き

酢は、酸味と香りで米の甘みを引き立てます。同時に、シャリを酸性にして菌を増えにくくします。8.1 で見たとおり、これは殺すのではなく、増えにくくする静菌です。

酢を入れすぎると、酸が立ち、米が硬く締まり、ネタの味を壊します。

塩 ― 味の輪郭

塩は、シャリの味に輪郭を作ります。塩が足りないシャリは、酸っぱいのにぼやけた味になります。

塩には、水を引き出す力もあります。青菜に塩を振ると、水が出てきます。これが浸透圧(しんとうあつ)の働きです。握った寿司の中では、塩を含んだシャリが、ネタの余分な水分をわずかに引き出します。そして、ネタの味を締めるとされます。塩が米粒の表面を引き締めるとも言われますが、炊いた米では、はっきり確かめられていません。

砂糖 ― しっとり感と照り

砂糖には、水を抱え込む性質があります。合わせ酢の砂糖は、米粒の水を抱えて逃がさず、シャリの乾燥を防ぎます。

また、冷めたご飯が硬くなる変化を遅らせます。この変化を老化といいます(第7章・第9章)。さらに、米粒の表面に照りを出し、酸味のカドを丸めます。

ただし、入れすぎるとシャリの甘さが前に出ます。すると、ネタの繊細な味を覆ってしまいます。赤酢の店が砂糖を使わないのは、赤酢に糖とアミノ酸のコクがすでにあるからです。白い酢の店では、砂糖の量が店の味を決めることになります。

配合の考え方

合わせ酢の配合に、ただ一つの正解はありません。米 1 升は約 1.5 kg で、炊き上がると約 3.3 kg になります。この米 1 升に対して、酢は 180〜220 ml、塩は 30〜45 g、砂糖は 0〜120 g です。この幅の中で、店ごとに決まります。

大きく分けると、三つの型があります。江戸前の赤酢の店は、砂糖を使わず、塩をしっかり効かせます。関東の白い酢の店は、酸味と甘みのつり合いをとります。関西の押し寿司は、砂糖を多くして甘く柔らかくします。

表8-2 米 1 升(約 1.5 kg)に対する合わせ酢の配合例
様式酢塩砂糖性格
江戸前・赤酢赤酢 180〜220 ml35〜45 gなしコクと塩味。マグロ・コハダ・穴子など味の強いネタに
関東・白酢米酢 180 ml30〜35 g30〜60 g酸と甘みのつり合い。幅広いネタに
関西・押し寿司米酢 180〜200 ml30〜40 g80〜120 g甘く柔らかい。時間をおいても硬くなりにくい

関西の寿司は、作ってから時間をおいて食べるものが多くあります。だから、砂糖の水を抱える力と、硬くなるのを遅らせる力が必要でした。

配合は、ネタとの相性で決めます。脂の強いネタが多い店は、酸と塩を立てます。白身や貝が中心の店は、酸を穏やかにします。

配合はグラムと ml で記録し、毎回同じ秤で量ります。「大さじ」や「カップ」は使いません。塩の粒の大きさや砂糖の種類で、同じ一杯でも重さが変わるからです。味見で決めるのは、最後の微調整だけです。

酢・塩・砂糖をもう一歩深く ― 粒の数で考える

塩と砂糖の働きの差は、水に溶けたときの粒の数で説明できます。

塩、つまり塩化ナトリウムは、水に溶けると二つに分かれます。ナトリウムイオンと塩化物イオンです。しかも塩の分子は、砂糖の分子よりずっと小さく軽いものです。そのため同じ重さで比べると、溶けた塩の粒の数は、砂糖の 10 倍以上になります。

浸透圧は、この粒の数で決まります。浸透圧とは、濃さの違う液が細胞の膜を挟んで接したとき、薄い側から濃い側へ水が移ろうとする力です。粒の多い塩は、浸透圧を生む力がはるかに強いのです。

熱い米に塩を含む合わせ酢を打つと、米粒の表面の余分な水分が引き出される、と説明されることがあります。表面が引き締まり、ベタつきが抑えられる、という説明です。しかし、炊いた米は熱で細胞の膜が壊れています。塩も米粒の中へ入っていきます。ですから、生の魚を塩で締めるような、はっきりした脱水は起きにくいのです。この効果は確かめきれていません。

確かなのは、ネタとの関係です。握りの中で、塩を含むシャリは、ネタに触れる面からネタの余分な水分をわずかに引き出します。そしてネタの味を締め、輪郭を与えるとされます。

砂糖、つまりショ糖の分子には、水と結びつく部分がたくさんあります。だから水を抱え込みます。さらに、炊いたデンプンのあいだに砂糖が入り込みます。すると、デンプンどうしが再びくっついて硬く固まるのを、じゃまします。これが、砂糖が老化を遅らせるしくみです。米粒の表面に砂糖の薄い層ができると、光を反射して照りが出ます。

酢には、米粒の表面のタンパク質をわずかに変化させて引き締め、粒立ちをよくする働きもあるとされます。また、冷蔵庫のない江戸で握り寿司の商売が成り立った一因も、酢の静菌の働きにあったと考えられています。

ネタと季節で配合を変える

配合は、店のネタに合わせて決めます。脂の強いマグロやブリが中心の店は、酸と塩を立てて脂を切ります。白身や貝が中心の店は、酸を穏やかにします。光り物を多く握る店は、ネタ自身が酢で締まっているので、そのぶんシャリの酸を抑えます。

季節でも変えます。夏は酸と塩をやや強めに、冬はやや抑えてまろやかに、という店が多くあります。

米によっても変えます。米の年数が変われば、酢の吸い方が変わります。秋に新米へ切り替わる時期は、酢の吸いが鈍ります。そこで、酢を 1 割増やすか、塩を 1 割減らします。

海外で「甘いシャリ」が好まれる市場では、砂糖を増やす前に疑ってみます。客の求める甘さは、実は塩味の不足や、酸のカドのことではないか、ということです。

8.4 合わせ酢の仕込みと保存

合わせ酢は、次の順で仕込みます。どの手順にも理由があります。

  1. 量る 酢は ml、塩と砂糖は g で量ります。大さじやカップは使いません。
  2. 溶かす 酢に塩と砂糖を加えて溶かします。温めるなら、弱火で 50〜60℃ 程度までにします。沸騰させてはいけません。酢酸は飛びやすく、煮立てると酸味と香りが抜け、量まで減ります。火を使わず、常温で一晩置いて溶かす店も多くあります。
  3. 寝かせる 1 日以上置くと、酸味のカドが取れて味がなじみます。
  4. 保存する ガラス、ホーロー、樹脂の容器に入れ、直射日光を避けて涼しい場所に置きます。容器には仕込んだ日付を書きます(第5章)。

アルミ、鉄、銅の容器は使いません。酸で傷み、金属が溶け出すからです。

合わせ酢は pH が低く、塩も入っているので、常温で日持ちします。ただし、昆布や出汁を加えたものは傷みやすくなります。冷蔵し、1 週間以内に使い切ります。

白酢と赤酢のブレンド、昆布を入れる仕込み

赤酢だけのシャリは、色が濃く旨味が強いので、ネタを選びます。米酢だけのシャリは軽く、淡いネタに合いますが、マグロには少し弱くなります。

そこで多くの店が、赤酢と米酢を混ぜて使います。比率は、赤酢と米酢が一対一から、七対三くらいのあいだです。混ぜる比率を変えると酸の量も変わるので、酸度から計算し直します。白身にはやや甘めの白いシャリ、マグロや光り物には砂糖のない赤酢のシャリ、と二種類を使い分ける店もあります。

表8-3 赤酢と米酢をブレンドする配合例(米 1 升あたり)
様式酢塩砂糖性格
赤酢と米酢のブレンド合わせて 180〜200 ml35〜40 g0〜30 g色と旨味をほどほどに。二種のシャリを使い分ける店も

合わせ酢に昆布を一切れ入れ、1〜2 日寝かせて旨味を移す店もあります。ただし、入れたままにするとヌメリと雑味が出ます。昆布は 2 日以内に取り出します。

8.5 塩と砂糖の種類

塩の主な成分は塩化ナトリウムです。しかし、造り方によって、結晶の大きさ、含まれる水分、にがりの量が違います。にがりは、海水から塩をとった残りに多い成分で、主なものは塩化マグネシウムです。この違いが、塩の働き方を変えます。

粗塩

粗塩(あらじお)は、海水を煮詰めて作る、結晶の大きな塩です。水分とにがりを含み、しっとりしています。

粒が大きいので、表面に振っても一気には溶けません。ゆっくり溶けながら、長い時間、浸透圧を働かせ続けるとされます。表面を急に塩辛くせず、中の余分な水分を時間をかけて引き出します。だから魚の塩締め(第13章・第16章)に向く、というのが職人の説明です。にがりのマグネシウムは、わずかな苦味を加えます。タンパク質を引き締める働きもあります。

焼き塩と精製塩

焼き塩は、塩を高温で焼いて水分を飛ばしたものです。焼くと、湿気を吸うにがりの成分が、湿気を吸いにくい形に変わります。そのため、サラサラと乾いていて粒が細かく、素早く均一に溶けます。苦味が少なく、塩味が素直です。

精製塩は、塩化ナトリウムが 99% 以上の塩で、焼き塩に近い性質です。安定して量れます。

合わせ酢に溶かす塩、握る直前の振り塩、ネタに添える塩には、焼き塩や精製塩が向きます。均一に溶け、量を正確に量れるからです。藻塩や岩塩は風味を付ける塩で、合わせ酢の基本には使いません(第20章)。

本検定で問われる粗塩と焼き塩の使い分けは、次のとおりです。粗塩は、粒が大きく水分を含み、ゆっくり溶けて浸透圧を長く保つとされます。そのため、表面を急に塩辛くせず、中の余分な水分を引き出します。焼き塩は、乾いて細かく、均一に速く溶けます。

表8-4 粗塩と焼き塩のちがい
種類粒と水分溶け方向く使い道
粗塩粒が大きい。水分とにがりを含み、しっとりゆっくり溶け、浸透圧が長く続くとされる魚の塩締め
焼き塩粒が細かい。乾いてサラサラ素早く均一に溶ける合わせ酢、振り塩、ネタに添える塩

砂糖の種類

上白糖は、粒が細かく溶けやすい砂糖です。転化糖を含むので、しっとりした甘さになり、合わせ酢に最もよく使われます。グラニュー糖は、ショ糖の純度が高く、すっきりした甘さで雑味がありません。三温糖やきび糖は精製の度合いが低く、カラメルから来るコクと色があります。

砂糖の種類で、甘さの質は変わります。しかし、水を抱える働きと、老化を遅らせる働きは、どれもほぼ同じです。

この章のまとめ

  • 酢は、アルコールを酢酸菌が酢酸に変えてできます。酸度は酢 100 ml 中の酸の重さで、酢を替えたら酸の量が同じになるよう量を計算し直します。
  • 米酢はまろやかで白身・貝に合い、穀物酢は軽く、アルコール酢は鋭い酸でキレを出して青魚を締めます。赤酢はコクがあり、江戸前では砂糖を使わない配合が伝統とされます。
  • 酢は菌を殺さず、増えにくくするだけです(静菌)。合わせ酢は沸騰させず、金属の容器を避け、仕込み日を書いて保存します。
  • 配合は米 1 升に酢 180〜220 ml、塩 30〜45 g、砂糖 0〜120 g の幅で、ネタとの相性で決め、重さで量って記録します。
  • 赤酢の色と香りは、アミノ酸と糖のメイラード反応でできるメラノイジンによります(一級)。
  • 塩は粒の数が多く浸透圧が強い。砂糖は水を抱え、デンプンが固まり直すのを妨げて老化を遅らせます(一級)。
  • 粗塩はゆっくり溶けて塩締めに向くとされ、焼き塩は均一に速く溶けて合わせ酢や振り塩に向きます(一級)。

確認問題

問1 酸度 4.5% の米酢 200 ml で作っていた合わせ酢を、酸度 5% の酢に替える。酸の量を同じにするには、新しい酢を何 ml 使えばよいか。
a 160 ml
b 180 ml
c 200 ml
d 222 ml
e 250 ml

答え:b

いまの量 200 に酸度 4.5 を掛けると 900 です。これを新しい酢の酸度 5 で割ると 180 になります。酸度の高い酢をそのままの量で使うと、酸が立ちすぎます。酢を替えるときは、必ず酸度を見て計算し直します。

問2 合わせ酢と酢の働きについて、正しいものはどれか。
a 酢は菌を殺すので、酢飯は何時間置いても安全である
b アルコール酢は、同じ酸度でも他の酢より菌を抑える力がずっと強い
c 合わせ酢は、よく溶けるように沸騰させてから使う
d 酢は菌を増えにくくする(静菌)。合わせ酢は沸騰させず、金属の容器を避けて保存する
e 配合は大さじとカップで量れば、毎回同じ味になる

答え:d

酢は菌を殺すのではなく、増えにくくするだけです。時間がたてば酢飯も安全ではなくなります。酢酸は飛びやすいので、合わせ酢は沸騰させません。アルミ・鉄・銅の容器は酸で傷み、金属が溶け出します。b は誤りで、菌を抑える力は主に酸度で決まります。e も誤りで、塩の粒の大きさで同じ一杯の重さが変わるので、重さで量ります。

問3 赤酢(粕酢)の褐色と甘い香りを生む変化として、正しいものはどれか。
a 酢酸菌が酢酸を作るときに出す色素
b 酒粕のアミノ酸と糖が長い時間をかけて結びつくメイラード反応と、それでできるメラノイジン
c 酒粕の脂が空気で酸化する変化
d 熟成中に増えたカビの色素
e 仕上げに加えるカラメルの色

答え:b

赤酢は、酒粕を 1〜3 年、長いものは 5 年以上寝かせてから造ります。そのあいだに、酒粕に多いアミノ酸と糖が結びつくメイラード反応(アミノカルボニル反応)が常温でゆっくり進みます。この反応で褐色の色素メラノイジンと、たくさんの香りの成分ができます。味噌や醤油の色、パンの焼き色と同じ反応です。