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すし検定

目次 第16章 光り物
    1. 序章本書の使い方 ― 二級と一級の範囲
  1. 第I部 食の安全

    1. 第1章世界に広がる寿司と衛生の現実
    2. 第2章微生物と腐敗のしくみ
    3. 第3章寿司屋で起きる食中毒
    4. 第4章洗浄・消毒・異物混入を防ぐ
    5. 第5章温度管理と在庫管理
    6. 第6章なぜ素手で握れるのか
  2. 第II部 シャリ

    1. 第7章米を知る ― 米と炊飯
    2. 第8章合わせ酢と調味
    3. 第9章シャリ切りと温度
  3. 第III部 魚を知る

    1. 第10章魚の死後に起きること ― 死後硬直・熟成・腐敗
    2. 第11章目利きと仕入れ
    3. 第12章冷凍と解凍
    4. 第13章下処理 ― 塩・酢・昆布・皮・骨
  4. 第IV部 ネタ

    1. 第14章マグロ
    2. 第15章白身魚
    3. 第16章光り物
      1. 16.1 光り物とは何か
      2. 16.2 光り物に共通する仕事
      3. 16.3 コハダ
      4. 16.4 サバ
      5. 16.5 アジ・サヨリ・キス・サンマ・イワシ
      6. 16.6 薬味 ― 生姜と葱を乗せる理由
      7. 16.7 海外の光り物
    4. 第17章海老・蟹・イカ・タコ
    5. 第18章貝類
    6. 第19章煮物・玉子・ウニ・イクラ
  5. 第V部 調味料と薬味

    1. 第20章醤油・煮切り・ツメ・出汁と旨味
    2. 第21章わさび・海苔・ガリ・茶
  6. 第VI部 技術と道具

    1. 第22章包丁と砥石
    2. 第23章おろし方と切り付け
    3. 第24章握りと巻き
  7. 第VII部 歴史と職人の心得

    1. 第25章寿司の歴史 ― 屋台から世界へ
    2. 第26章カウンターに立つ ― 接客・おもてなしと職人の責任
  8. 第VIII部 経営

    1. 第27章お金の流れ ― 原価・歩留まり・値決め一級
    2. 第28章仕入れ・在庫・ロス一級
    3. 第29章開業の準備一級
    4. 第30章お客を集め、常連を育てる一級
    5. 第31章人と店の仕組み一級
  9. 付録 資料編

    1. 付録A覚えておきたい数字と温度・時間の早見表
    2. 付録B食中毒一覧表
    3. 付録C寿司ことばと用語集
    4. 付録D旬のカレンダー
    5. 付録E出題範囲と出題の目安

朗読は本文・コラム・まとめを読みます。表・図・確認問題は読みません。再生中は段落を押すと、そこから聴けます。

第IV部 ネタ

第16章

光り物

光り物は、傷みの速い青魚を塩と酢で「締めて」、安全に、しかも生よりおいしくする仕事です。江戸前の寿司職人の技術そのものと言えます。この章では、第13章で学んだ下処理を、コハダ・サバ・アジなど魚ごとの実際の仕事として学びます。

この章で学ぶこと

  • 光り物が傷みやすい理由と、塩と酢で「締める」理由を説明できる
  • 立て塩・酢洗い・皮引きの理由と、脂の量で塩と酢の時間を変える理由を説明できる
  • コハダとシメサバの仕込みの流れと、アニサキス・ヒスタミンへの正しい備えを説明できる
  • アジ・サヨリ・キス・サンマ・イワシの旬と扱いの違い、生姜と葱を乗せる理由を説明できる
  • 脂質の酸化・トリメチルアミン・酢締めの化学から、光り物の仕事の理屈を説明できる(一級)

16.1 光り物とは何か

光り物は、銀色に光る皮を残して握る青魚や小魚のことです。コハダ・サバ・アジ・サヨリ・キス・サンマ・イワシ、そしてコハダの子のシンコなどを指します。

皮が光るのは、皮と身の境目に銀皮(ぎんかわ)という層があるからです。銀皮は、グアニンという物質の小さな結晶が重なった層です。この層が鏡のように光をはね返します。銀皮を傷つけずに残すことが、光り物の見た目の命です。

光り物の多くは、とても傷みの速い魚です。理由は四つあります。一つ目は、脂が空気に触れて酸化しやすく、すぐに古い油のような匂いが出ることです。二つ目は、時間とともに生臭い匂いが増えることです。三つ目は、身を分解する酵素の働きが強く、やわらかくなるのが速いことです。四つ目は、サバやイワシなどでは、温度の管理を誤るとヒスタミンができることです。

ヒスタミンは、青魚の身に多い成分が、細菌の働きで変わってできる物質です。食べると顔が赤くなったり、頭痛やじんましんが出たりします。一度できると、加熱しても、酢に漬けても、冷凍しても壊れません(第3章)。

こうした傷む速さに対する江戸前の答えが、「締める」仕事です。塩は身の水分を抜いて締めます。酢は酸で細菌と酵素の働きを抑え、身を白く固め、小骨をやわらかくします。締めは殺菌ではありません。傷む速さを遅らせる仕事です。

四つの劣化を化学で見る

青魚の脂には、DHA や EPA のような多価不飽和脂肪酸が多く含まれます。体によいと言われる脂ですが、分子の中に酸素と結びつきやすい部分がたくさんあります。そのため空気中の酸素と反応しやすく、脂質酸化によって短い時間で「古い油」の匂いを出します。

海の魚の体には、トリメチルアミンオキシドという匂いのない成分があります。魚が死ぬと、細菌の酵素がこれをトリメチルアミンに変えます。これが「魚臭さ」の主な原因の一つで、鮮度が落ちるほど増えます。ただし、もとになる成分の量は魚の種類で違い、コノシロ・イワシ・サンマ・サバではむしろ少ないとされます。青魚の臭みには、脂の酸化が大きく関わっていると考えられます。

青魚は、死んだ後に自分の身を分解する酵素、つまり自己消化の酵素の働きが強い魚です。そのため身がやわらかくなるのが速く進みます。また、筋肉にヒスチジンというアミノ酸が多く含まれます。常温に置くなど温度の管理を誤ると、細菌がこれをヒスタミンに変えます。冷蔵の温度でも、長く置けばできることがあります。

つまり光り物では、臭み・酸化・軟化・ヒスタミンの四つの劣化が、同時に、しかも速く進みます。塩は水分を抜き、細菌が使える水を減らします。酢は pH を下げて細菌と酵素の働きを抑え、タンパク質を固め、臭みの成分を中和します。どちらも、この速さを遅らせるための手段です。

16.2 光り物に共通する仕事

身は立て塩で洗う

光り物をおろした後、身を真水で洗ってはいけません。約3%の塩水、つまり立て塩(たてじお)で洗います。真水は魚の細胞の中の液よりずっと薄いので、浸透圧の働きで水が細胞に流れ込みます。細胞は水ぶくれになり、身が水っぽく崩れて、旨味も流れ出ます。

約3%の塩水は、海水に近い濃さです。真水のように水が細胞に流れ込むことがないので、身を水っぽくせずに、表面の汚れ・血・ぬめりを洗い流せます。ただし、魚の体液と同じ濃さではありません。体液の濃さは、海水のおよそ3分の1です。

一方、鱗や内臓など、身が出る前の外側は、真水の流水でよく洗います。海の食中毒菌である腸炎ビブリオは、真水に弱いからです。まな板や器具も真水で洗います(第3章・第4章・第13章)。

塩で締める ― 脂が多いほど長く

身に塩を振って置くと、浸透圧で身の水分が引き出され、身が締まります。このとき、脂の乗った魚ほど塩が入りにくくなります。脂は水をはじくので、塩と水の出入りをさえぎる壁になるからです。雨がっぱが水をはじくのと同じです。

そこで職人は、同じ種類の魚でも脂の乗りを見て時間を変えます。脂の多い魚には、塩も酢も長く当てます。脂の少ない小さな魚に同じ時間を当てると、塩辛く硬くなります。

塩は酢で洗う ― 酢洗い

塩締めの後、表面の塩を落とすときも真水は使いません。酢でさっと洗います。これを酢洗いといいます。せっかく抜いた水分が、真水に当てると今度は逆に身へ戻り、水っぽくなるからです。酢は水を戻さず、身を締める方向に働きます。酢洗いに使った酢は捨て、本漬けには新しい酢を使います。

酢で締める

酢に漬けると、酸の働きで身のタンパク質が固まり、表面から白く濁っていきます。同時に、たくさんある小骨がやわらかくなります。コハダの小骨を抜かずに食べられるのは、このためです。今の好みは、表面が白く締まり、中心に生の透明感が残る程度です。中まで真っ白にすると、酸っぱくパサつきます。

皮は身を押さえて引く

アジやサバの薄皮を引くときは、身を押さえて、皮のほうを引きます。頭側の皮の端をつまみ、もう一方の手の指か包丁の背で身をまな板に押さえ、皮だけを尾のほうへ引きます。銀皮は皮と身の境目にあるので、身を動かすと銀皮が皮の側について剥がれてしまいます。身を固定して皮だけを動かせば、銀皮が身に残り、美しい銀色の模様になります。

締めても生もの

酢で締めても、生ものであることは変わりません。締めた魚は水気を拭き、紙で包んで0〜4℃で保管し、店で期限を決めて守ります。「酢で締めたから常温でよい」は誤りです。

塩と酢の理屈をもう一歩

塩が入った目安は、塩が溶けて滴り始め、身の表面が締まり、指で押すと弾力が返ってくる状態です。脂の多い魚では、塩が水をはじかれて溶けずに残ります。これも長く置くべき合図です。

酢による白い濁りは、白濁(はくだく)と呼びます。これは加熱したときに身が白くなるのと同じ種類の変化で、表面から内側へ進みます。どこまで進んだかは、身を切った断面で確かめられます。

小骨がやわらかくなるのは、酸が骨のカルシウムを溶かし出すからです。また、臭みのもとのトリメチルアミンは、アルカリの性質をもつ成分です。酢の酸はこれを中和して、揮発しにくい塩(えん)に変えます。これが「酢で臭みが消える」ことの化学です。

保管の期限は店の流儀によりますが、一般的な目安があります。コハダは翌日から3日目まで、シメサバは当日から翌日、長くても3日です。酢で締めた魚を常温に置くことは、海外の暑い店で最も多い事故の原因になっています。

16.3 コハダ

コハダは、コノシロという魚の若いものです。江戸前寿司の象徴とも言える魚で、大きさによって名前が変わります。いちばん小さいのがシンコで、次がコハダ、ナカズミ、そして大きくなるとコノシロと呼ばれます。シンコは夏に出回り、走りには驚くほどの高値が付きます。身がしっかりして脂が乗るのは、秋から冬のコハダです。

仕込みの流れは次のとおりです。鱗を取り、頭を落として内臓を出します。立て塩で洗いながら、腹側から包丁を入れて開き(腹開き)、中骨と腹骨をすき取ります。塩を振り、酢で洗い、新しい酢に漬けます。水気を拭いて、冷蔵庫で寝かせます。酢から上げたばかりは酸味がとがっているので、翌日以降に使います。皮目に飾り包丁を入れると、小骨の感触が消え、シャリとのなじみもよくなります。

表16-1 コハダの呼び名と、塩・酢の時間の目安(脂の乗りで前後する)
呼び名大きさ塩の時間酢の時間
シンコ4〜6 cm数分〜十数分数分
コハダ7〜10 cm30分〜1時間10〜30分
ナカズミ11〜15 cm1時間前後20〜40分
コノシロ15 cm超1時間以上30分〜1時間

魚が大きいほど、塩も酢も長くなります。シンコの塩は数分から十数分、コハダは30分から1時間が目安です。ただし時間はあくまで出発点です。塩は表面の締まりと弾力で、酢は断面の白い層の深さで見極めます。

コハダの仕込みを細かく見る

シンコは初夏から夏、6〜8月ごろに出回ります。コハダは一年を通して入荷がありますが、いちばんよいのは秋から冬です。主な産地は、有明海(佐賀・熊本)、浜名湖、三河湾、東京湾などです。

  1. 下処理 鱗を包丁の先で落とし、頭を落として腹を斜めに切り、内臓をかき出します。立て塩で血と汚れを洗い、水気を拭きます。
  2. 開く 腹側から中骨に沿って包丁を入れ、背の皮一枚を残して開きます。中骨をすき取り、腹骨を薄くすき取ります。
  3. 塩を振る ざるに皮を下にして並べ、身の側に塩を振ります。脂の多いものには多く、小さなものには薄く振ります。塩をたっぷりまぶすべた塩で締める店もあり、流儀が分かれます(第13章)。脂の乗った大きなものは1時間以上置きます。
  4. 酢洗い 酢で表面の塩をさっと洗い流します。真水は使いません。
  5. 酢に漬ける 新しい酢に漬けます。断面の白濁が表面から2〜3 mm入り、中心に透明感が残る程度で上げます。
  6. 寝かせる 水気を拭き、皮を上にして並べ、紙で包んで冷蔵します。
  7. 切り付けと飾り包丁 大きさに合わせて、1尾付け、半身付け、シンコは2〜4枚付けにします。皮目に斜めや格子の飾り包丁を入れます。

握り方は大きさで変わります。シンコは小骨をそのままにして、2〜4枚付けにします。コハダは半身か1尾付けにします。ナカズミは半身にして、小骨を抜くか骨切りをします。コノシロはそぎ切りにして小骨を抜き、焼き物にも使います。

見極めの要点は三つです。まず塩の入り方は、表面の締まり、押したときの弾力、中骨を抜いた後の骨の感触で判断します。次に酢の入り方は、身を少し曲げたときの反りと、断面の白濁の深さで見ます。そして最後に、翌日に食べて確かめます。数値は出発点で、答えは翌日の味にしかありません。

味は日を追って変わります。翌日には酢が身になじみ、塩と酢と脂が一つの味になって食べごろを迎えます。3日目には酢の香りが抜けて、旨味が前に出てきます。この変化を、店の味として組み立てます。シンコの季節は仕込みにいちばん時間がかかります。

16.4 サバ

サバは「サバの生き腐れ」と言われるほど傷みが速く、ヒスタミンの事故も多い魚です。マサバは秋から冬に脂が乗ります。シメサバは、この魚を安全においしく食べるための技術として発達しました。

  1. 三枚におろす 頭を落として内臓を出し、立て塩で血を洗い、三枚におろします。内臓はできるだけ早く抜きます。
  2. べた塩 バットに塩を敷いて身を置き、身が隠れるほど塩で覆います。これをべた塩といいます。時間は1〜3時間です。脂の多いものは長く、小さいものや夏のサバは短くします。
  3. 酢洗い 塩を酢で洗い流します。真水は使いません。
  4. 酢に漬ける 新しい酢に30分〜1時間ほど漬けます。もっと長く漬ける店もあります。
  5. 骨を抜く 腹骨を薄くすき取り、小骨を骨抜きで抜きます。
  6. 薄皮を引く 頭側の皮の端をつまみ、身を押さえて皮だけを尾へ引きます。透明な薄皮が剥がれ、銀皮の模様が身に残ります。
  7. 寝かせる 紙で包み、冷蔵庫で一晩置いて酢をなじませます。

サバの種類と、シメサバの仕立ての幅

マサバの旬が秋から冬なのに対し、ゴマサバは夏が旬です。ノルウェー産のタイセイヨウサバは脂が多く、冷凍で安定して入ります。

酢に漬ける時間は、店の流儀で30分から数時間まで幅があります。表面だけが白く、中心に赤みが残る「レア」な仕立てから、中までしっかり締める昔の仕立てまであります。昆布をいっしょに入れる店もあります。腹骨と小骨を、塩の前に処理する店もあります。

松前やバッテラで旨味が増すのは、旨味の相乗効果のためです。昆布の旨味であるグルタミン酸と、サバの旨味であるイノシン酸を同時に味わうと、旨味がずっと強く感じられます(第15章)。

16.5 アジ・サヨリ・キス・サンマ・イワシ

アジ

マアジは夏が旬です。三枚におろして立て塩で洗い、腹骨をすきます。尾の付け根にある硬いうろこをゼイゴといいます。包丁を寝かせて、尾から頭のほうへそぎ取ります。皮は頭のほうから引き、小骨を抜きます。今は鮮度のよいアジを生で握ることが多く、生姜と葱を乗せます。軽く締めるなら、塩は10〜20分、酢は数分から10分ほどと短くし、生の歯ごたえを残します。

サヨリ

サヨリは春が旬の、細く透き通った魚です。関東では2〜4月ごろで、海域によって前後します。腹の内側にある黒い膜は、苦味と臭みのもとになり、見た目も黒ずみます。必ずこすり取ります。身が薄いので、塩は数分、酢はくぐらせる程度にするか、生のまま握ります。

キス・サンマ・イワシ

キスは夏、サンマは秋が旬です。イワシは梅雨どきと秋に旬があります。イワシはサバと並んで、光り物の中でも特に傷みの速い魚です。生で握るなら、その日のうちに使い切ります。

魚ごとの細かい仕事

アジ 湾の中に住みついた、黄色みの強い「黄アジ」が、脂が乗って上とされます。包丁で細かく叩いて生姜や葱と合わせるたたきも、光り物の仕立ての一つです。身の繊維を断つことで、臭みのもとが薬味と混ざりやすくなります。

サヨリ 皮の表面の黒い薄い膜も剥ぎます。昆布締めにして、旨味を補うのもよい方法です。

キス シロギスは、淡白な白身を銀皮ごと握ります。旨味が淡いので昆布締めが向き、軽く酢で締めることもあります。

サンマ 旬は9〜10月で、脂は20%を超えることもあります。北海道や三陸の鮮度のよいものは、皮を引いて生で握り、生姜と葱を乗せます。脂の強いものは、塩と酢で締めると脂が切れます。口の先の黄色と身の張りが、鮮度の目安です。

イワシ マイワシは、梅雨どき(6〜7月)の「入梅イワシ」が脂が乗ります。秋(9〜10月)にも旬があります。酵素の働きと脂の酸化がともに強い魚です。指で中骨に沿って開く手開きにし、皮も手で剥きます。生なら生姜を多めに乗せます。酢で締めることもあります。

表16-2 光り物の魚ごとの旬・仕込み・薬味の目安
魚旬主な仕込み塩・酢の目安薬味特に注意する点
コハダ通年、秋〜冬塩締め→酢締め、翌日以降塩30分〜1時間、酢10〜30分わさび大きさと脂で時間を変える
サバ秋〜冬(マサバ)べた塩→酢締め、薄皮引き塩1〜3時間、酢30分〜数時間わさび、生姜アニサキス、ヒスタミン
アジ夏生、軽い締め、たたき塩10〜20分、酢数分〜10分生姜・葱ゼイゴ、皮引き
サヨリ春生、軽い締め、昆布締め塩数分、酢はくぐらせるわさび、柑橘腹の黒い膜を取る
キス夏昆布締め、軽い酢締め塩数分〜10分わさび、柑橘身が薄い
サンマ秋生、塩締め→酢締め塩20〜30分、酢10〜20分生姜・葱脂が多い、アニサキス
イワシ梅雨、秋生(当日)、酢締め塩10〜20分、酢数分生姜多め・葱傷みが特に速い

この表は、魚ごとの旬と、塩と酢の時間、合う薬味をまとめたものです。生で握る魚には生姜と葱、締めた魚にはわさびが基本です。

16.6 薬味 ― 生姜と葱を乗せる理由

白身には柑橘と塩、光り物には生姜と葱。この組み合わせには理由があり、二つは目的が逆です。白身の薬味は、淡い旨味を引き立てるためのものです(第15章)。光り物の薬味は、匂いを隠すためのものです。

生姜の辛味と葱の香りは、強い香りで、青魚の生臭さや酸化した脂の匂いを感じにくくします。これをマスキング(覆い隠すこと)といいます。柑橘や酢の酸は、生臭さのもとになる成分を中和して、匂いそのものを減らします。だから酢で締めた光り物は、わさびだけで足りることが多いのです。生で握るアジ・サンマ・イワシには、生姜と葱が要ります。

薬味は臭みを隠す道具であって、鮮度の悪さを隠す道具ではありません。わさびや生姜にも菌を抑える働きはありますが、あくまで補助です。安全は、温度と時間の管理で守ります(第5章)。

薬味が効く成分

生姜の辛味の成分はジンゲロールです。加熱や乾燥によって、ショウガオールという成分もできます。葱では、硫化アリルの仲間の成分が同じように働きます。これらの強い香りと辛味が、トリメチルアミンや酸化した脂の匂いを感じにくくします。これは感じ方の上での効果です。一方、柑橘や酢の酸は、アルカリの性質をもつトリメチルアミンを中和し、揮発しにくくします。こちらは匂いの成分そのものを減らす、化学の上での効果です。

16.7 海外の光り物

海外でも、サバはマッケレル、イワシはサーディンとして手に入ります。問題は、流通の途中の温度です。サバとイワシは、流通の温度が一度でも切れると、最も危険な魚になります。

世界の青魚と締めの知恵

北欧のニシン(ヘリング)の塩漬けや酢漬け、地中海のアンチョビは、塩と酸で青魚を保存します。江戸前の締めと同じ原理に立った食べ物です。

青魚は、船の上で氷に入れられなかった時点で、また市場の常温の台に数時間置かれた時点で、ヒスタミンの危険が取り返しのつかない段階に進みます。市場で氷に埋まっていない青魚や、目が落ちくぼみ腹がやわらかい青魚は買いません。

船の上で凍らせた冷凍サバなら、冷凍によってアニサキスの問題も解決します。酢で締めるので、冷凍による食感の低下もほとんど分かりません。解凍は冷蔵庫で行います。解凍した後は生のサバと同じ速さで傷むと考え、その日のうちに塩をします。

この章のまとめ

  • 光り物は銀皮を残して握る青魚・小魚。傷みが速いので塩と酢で締める。締めは殺菌ではなく、傷む速さを遅らせる仕事。
  • 身は約3%の立て塩(海水に近い濃さ。体液と等張ではない)で洗う。塩締めの後は酢で洗う。脂の乗った魚ほど塩も酢も長く当てる。
  • 皮は身を押さえて引き、銀皮を身に残す。締めた魚も0〜4℃で保管し、期限を決める。
  • シメサバの塩と酢ではアニサキスは死なない。確実なのは−20℃以下で24時間以上の冷凍。ヒスタミンは一度できると消えないので10℃以下を切らさない。
  • 白身の薬味は旨味を引き立て、光り物の生姜と葱は匂いを隠す。薬味は鮮度の悪さを隠す道具ではない。
  • 青魚の劣化は脂質の酸化、トリメチルアミンなどの臭み、強い自己消化、ヒスタミンの四つ。酢締めはタンパク質を固め、カルシウムを溶かして小骨をやわらかくし、トリメチルアミンを中和する(一級)。

確認問題

問1 生のサバからシメサバを作るときの考え方として、正しいものはどれですか。
a 酢に長く漬ければアニサキスは死ぬので、酢の時間を延ばす
b べた塩で3時間置けば、アニサキスは死ぬ
c 生姜とわさびを多めに添えれば、食中毒は防げる
d アニサキスは塩でも酢でも死なない。確実なのは、魚の中心が−20℃に達してから24時間以上の冷凍である
e ブラックライトで光らなければ、身の奥にもアニサキスはいない

答え:d

アニサキスは塩でも酢でもわさびでも死にません。シメサバの塩と酢は傷む速さを遅らせる仕事で、寄生虫の対策にはなりません。ブラックライトで光るのは表面から約0.5 mmまでの虫だけなので、見つからなくても安全とはいえません。

問2 光り物の仕込みについて、正しいものはどれですか。
a 立て塩の約3%は魚の体液と同じ濃さなので、身を傷めない
b 塩締めの後は、真水でよく洗って塩を落とす
c 脂の乗った魚ほど塩が入りやすいので、塩の時間を短くする
d 薄皮は、皮を押さえて身のほうを引くと銀皮がきれいに残る
e 塩締めの後は酢で洗う。真水で洗うと、抜いた水が身に戻って水っぽくなる

答え:e

立て塩の約3%は海水に近い濃さで、体液と同じ濃さではありません(体液は海水の約3分の1)。脂は水をはじくので、脂の乗った魚ほど塩が入りにくく、塩も酢も長く当てます。皮は身を押さえて皮のほうを引きます。身を動かすと銀皮が皮の側について剥がれます。

問3 コハダを酢で締めると小骨をそのまま食べられる理由として、正しいものはどれですか。
a 酢が小骨のタンパク質を分解して溶かすから
b 酢の酸が、骨のカルシウムを溶かし出すから
c 塩締めで骨の水分が抜け、もろくなるから
d 酢がトリメチルアミンを中和するから
e 冷蔵庫で寝かせる間に、自己消化の酵素が骨を分解するから

答え:b

酢の酸は骨のカルシウムを溶かし出すので、小骨がやわらかくなります。トリメチルアミンの中和は、臭みが消える理由です。酢締めではほかに、タンパク質が固まって身が白く濁り、pH が下がって細菌と酵素の働きが抑えられます。