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すし検定

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目录 第24章 握りと巻き ― 手返しとシャリ玉の構造
    1. 序章本書の使い方と一級の位置づけ
  1. 第I部 食の安全

    1. 第1章世界に広がる寿司と衛生の現実
    2. 第2章微生物と腐敗のしくみ
    3. 第3章寿司屋で起きる食中毒
    4. 第4章洗浄・消毒・異物混入防止の科学
    5. 第5章温度管理と在庫管理
    6. 第6章なぜ素手で握れるのか
  2. 第II部 シャリの科学

    1. 第7章米を知る
    2. 第8章合わせ酢と調味
    3. 第9章シャリ切りと温度
  3. 第III部 魚を知る

    1. 第10章魚の死後に起きること ― 死後硬直・熟成・腐敗
    2. 第11章目利きと仕入れ
    3. 第12章冷凍と解凍の科学
    4. 第13章下処理の科学 ― 塩・酢・昆布・皮・骨
  4. 第IV部 ネタ各論

    1. 第14章マグロ
    2. 第15章白身魚
    3. 第16章光り物
    4. 第17章海老・蟹・イカ・タコ
    5. 第18章貝類
    6. 第19章煮物・玉子・ウニ・イクラ
  5. 第V部 調味料と薬味

    1. 第20章醤油・煮切り・ツメ・出汁と旨味
    2. 第21章わさび・海苔・ガリ・茶
  6. 第VI部 技術と道具

    1. 第22章包丁と砥石
    2. 第23章おろし方と切り付け
    3. 第24章握りと巻き ― 手返しとシャリ玉の構造
      1. 24.1 握りの目的とシャリ玉の構造
      2. 24.2 手返しの種類と手数
      3. 24.3 形・わさび・煮切り・軍艦
      4. 24.4 巻物
      5. 24.5 提供 ― 順序・速さ・向き
      6. 24.6 よくある失敗と直し方、練習法
  7. 第VII部 寿司の歴史と職人の心得

    1. 第25章寿司の歴史
    2. 第26章提供・接客と職人の責任
  8. 付録 資料編

    1. 付録A温度・時間 早見表
    2. 付録B食中毒一覧表
    3. 付録C用語集
    4. 付録D出題分野と出題の目安

第VI部 技術と道具

第24章

握りと巻き ― 手返しとシャリ玉の構造

握りは、ネタとシャリが口の中で同時にほどけ、温度と味が一つになるように作る食べ物である。そのために職人は、シャリ玉の内部に空気の層を残し、手数を最小にして体温を伝えず、ネタの性質に合わせて形と量を変える。この章では、シャリ玉の構造、手返しの種類と手数を減らす理由、巻物の海苔と巻きすの扱い、提供の順序と速さを学ぶ。一級では、外硬内軟の構造、手数を減らす物理的・衛生的理由、海苔の表裏、手の温度とシャリの温度が問われる。

この章の到達目標

  • シャリ玉の外硬内軟の構造が、口の中でほどける食感を生む仕組みを説明できる
  • シャリの量をネタとの比率で判断し、10〜20g の幅の中で店の方針に合わせて決められる
  • 本手返し・小手返し・立て返しなどの手返しの違いと、手数を減らす理由を説明できる
  • わさびの位置と量、煮切り・塩・柑橘の使い分けを、ネタごとに判断できる
  • 海苔の表裏と巻きすの使い方を理解し、細巻き・太巻き・裏巻きを衛生的に巻いて切れる
  • 提供の順序・速さ・温度を組み立て、握りを最良の状態で客の口に届けられる
  • よくある失敗の原因を構造から特定し、直し方と練習法を説明できる

24.1 握りの目的とシャリ玉の構造

握りの目的は、ネタとシャリを口の中で同時にほどけさせることにある。シャリが先に消えればネタだけが残り、ネタが先に消えれば米だけを噛むことになる。両者が同じ速さで崩れ、人肌のシャリがネタの脂を溶かし、酢飯の酸がネタの旨味を引き立て、一つの味になって喉を通る。この一体感を作る要素が、シャリ玉の内部構造、シャリの量、握りの圧力、ネタの厚み(第23章)、温度(第9章・第14章)である。

外硬内軟

良いシャリ玉の構造を外硬内軟と呼ぶ。外側の米粒は互いに適度に結着して薄い壁を作り、形が崩れず、箸でつまんでも醤油を付けても壊れない。内側の米粒は互いに密着せず、粒と粒の間に空気の層を含んでいる。口に入れて舌で押すと、外側の壁が破れ、内側の空気の層が崩れて米粒が一粒ずつ離れ、ハラリとほどける。これが理想の食感であり、「握る」と言いながら実際には外側だけを締めて中は締めないことが握りの本質である。

握り過ぎたシャリ玉は、内部の空気が押し出され、米粒同士が全面で密着して団子になる。口の中でほどけず、塊のまま噛むことになり、ネタだけが先に消える。逆に締めが足りないシャリ玉は、外側の壁ができておらず、持ち上げた瞬間や醤油を付けた瞬間に崩れる。シャリ切りで米粒を潰さず表面の糊化デンプンで粒を薄く覆った状態(第9章)が、外側で結着し内側で離れる、この二つの性質を同時に成り立たせる。

シャリの量

一貫のシャリの量は 10〜20g の幅に収まる。江戸前の伝統的な握りや、品数の多いおまかせを出す店では 10〜13g と小さく、回転寿司や持ち帰りでは 16〜20g と大きい。この幅の中で量を決める基準は、絶対値ではなくネタとの比率である。目安として、ネタの重さとシャリの重さがほぼ同じか、ネタがやや重いときに一体感が出る。ネタが 15g ならシャリは 12〜15g である。脂の強いネタは、脂がシャリを包み込むようにややシャリを増やし、酢締めの光り物は酸が重なるのでシャリを減らし、貝やイカのように噛む回数の多いネタはシャリをやや増やして噛む時間を揃える。シャリの量は、ネタを切ってから決めるものであり、先に決めてネタを合わせるものではない。

24.2 手返しの種類と手数

手返しとは、左手の上でシャリとネタを合わせ、返して形を整えるまでの一連の手の動きである。流派によって手順と手数が異なる。

本手返しは江戸前の古典的な手返しで、左手のネタの上にシャリを乗せ、左手の親指でシャリを押さえて馴染ませ、両手を同時に返して寿司を右手の指の上に移し、左手で被せて取り、左手の上で転がしてネタを上にし、両脇を締める。寿司の六面すべてを一度ずつ整えるので形が最も美しく、ネタとシャリの密着が良い。反面、手数が 5〜6 手と多く、習得に時間がかかり、手の中にある時間が長い。小手返しは左手の中で寿司を横に転がして返す簡略形で、手数は 3〜4 手。速く、自然な動きで、現在最も多くの職人が使う。右手を添えて寿司を横に転がして返す横手返しや、左手一つで重みと反動を利用して返す方法は小手返しの変形で、ネタの大きさや形で使い分ける。立て返し(縦返し)は、左手の指の付け根にネタを置き、その上にシャリを乗せて形を作り、左手を被せるように返す方法で、シャリが土台となってネタを支えるので、大きなネタや柔らかいネタが崩れない。

表24-1 手返しの種類
手返し手数利点欠点向くネタ
本手返し5〜6 手六面が整い形が最も美しい。密着が良い手の中にある時間が長い。習得が難しいコハダ・アジなどの光り物、白身、形の不揃いなネタ
小手返し3〜4 手速い。動きが自然。体温が伝わりにくい側面の整えが甘くなりやすいマグロ・イカ・タコなど平らで安定したネタ全般
横手返しなど3〜4 手小手返しの変形。ネタの形に合わせやすい返しが不安定になると形が揃わない大きさの違うネタ
立て返し4〜5 手シャリが土台になりネタが崩れない。見栄えが良い硬いネタは一体感が出ない大きなネタ、柔らかいネタ、煮穴子、ウニ

手数を減らす理由

どの手返しでも、職人は手数を減らそうとする。理由は三つある。第一に体温である。職人の体温は約 36℃、手のひらの表面も 30℃ 前後あり(第6章)、ネタの脂が溶け始める温度より高い。手数が増えて手の中にある時間が長くなるほど、ネタの表面の脂が溶け出し、艶が失われ、脂がシャリにくっついて滑り、ネタの鮮度が落ちる。トロで顕著だが、白身でも表面がぬるくなれば歯応えが失われる。第二にシャリの温度である。人肌に保ったシャリは、手の中にある時間が長いほど手の温度と室温に引かれて設計した温度から外れる。第三に衛生である。手が食材に触れる回数が増えるほど、手から食材への菌の移行の機会が増える。手酢・手水(第6章)は手の表面を弱酸性に保つが、手数そのものを減らすことが最も確実である。

手を冷やすことも同じ目的である。脂の強いネタを握る前に、氷水に指先を浸けて手の温度を下げる職人は多い。手水は冷たい水を使い、営業中に替える。手水に酢を加える理由(タンパク質とデンプンの変性でベタつきを防ぎ、弱酸性で菌の付着を抑える)は第6章で学んだ。手水は指先を湿らせる程度にとどめ、びしょ濡れの手で握ればシャリが水を吸って崩れる。

握りの一連の動作

  1. 手水 右手の指先を手水に浸け、両手に薄く広げる。濡らし過ぎない。
  2. シャリを取る 右手の指先でシャリを一貫分取り、手のひらの中で軽く転がして俵の形にまとめる。ここでは握らない。量は目で見て、手の中で確かめる。
  3. ネタを取る 左手でネタを取り、指の付け根に横向きに置く。皮目・表面を下にする。
  4. わさび 右手の人差し指でわさびを取り、ネタの中央に塗る。
  5. シャリをのせる 右手のシャリをネタの上にのせ、左手の親指でシャリの中央を軽く押してくぼみを作る。くぼみはネタとシャリの間に空気を抜き、密着させる。
  6. 返す 選んだ手返しで寿司を返し、ネタを上にする。
  7. 形を整える 右手の親指と人差し指で両脇(長辺)を締め、次に手前と奥(短辺)を軽く押さえ、人差し指でネタの上を軽くなでて密着させる。向きを 180 度変えて反対側も同じに整える。

左手は土台で、寿司を支え、転がし、形の基準を作る。右手は調整で、量を取り、わさびを付け、締める。力を入れるのは右手の指先だけで、左手は包むだけである。速さを求めるより先に、毎回同じ量、同じ形、同じ圧力で握れる正確さを身に付ける。速さは正確さの反復から後で生まれる。手数を減らそうとして形が揃わなければ本末転倒である。

24.3 形・わさび・煮切り・軍艦

握りの形は大きく三つに分かれる。俵型は側面が丸く、全体が米俵のように膨らんだ形で、口当たりが柔らかく、小手返しで自然にできる。舟形は底が平らで上に向かって狭まり、ネタが舟に乗ったように見える形で、ネタの反りが美しく出る。箱型は側面を垂直に締めた角張った形で、本手返しや立て返しで六面を整えると得られ、客の前に並べたときに揃って見える。どの形でも、底は平らに、ネタの両端はシャリの両端より 2〜3mm ずつ出て、シャリが見えない程度に覆うのが基本である。ネタの端がシャリの端と揃うか、わずかにシャリが出ると、貧相に見える。

わさびはネタとシャリの間に置く。上に乗せるのではなく間に挟む理由は第21章で学んだとおり、揮発性の辛味と香りを封じ込め、菌が増えやすい境界に辛味成分(AITC)の静菌作用を補助的に働かせるためである。一貫に挟む量での効果は補助的なもので、温度管理と手洗いに代わるものではない。量は、ネタの脂と厚みで決める。脂の強いトロ、匂いの強い光り物にはやや多く、淡白な白身、甘みで食べるイカ・貝・甘海老には少なく、煮穴子や玉子には使わない店が多い。客が「さび抜き」と言わない限り、わさびの量を決めるのは職人の判断であり、ネタの味を消す量は多過ぎる。目安は米粒二〜三粒分から小豆一粒分までの範囲である。

煮切り(第20章)は刷毛でネタの表面に薄く一回だけ塗る。塗る量は、表面が光る程度で、垂れてシャリに染みれば多過ぎる。煮切りを塗った握りは、客が醤油を付けずにそのまま食べられる。白身の一部、イカ、貝、車海老、甘海老などは、煮切りの代わりに塩と柑橘(スダチ・カボス・レモン)で出すと、醤油で消える繊細な旨味と甘みが対比で立つ(第15章)。塩は指先でごく少量を振り、柑橘は果汁を一滴から二滴絞る。

軍艦は、シャリ玉の周りに帯状の海苔を巻き、上にイクラ・ウニ・ネギトロなど形の定まらないネタを乗せる形である。海苔は幅 3〜3.5cm の帯(全形を六つに切ったものが目安)にし、シャリの周りを一周して少し重なる長さで、ザラザラした裏面を内側(シャリ側)にして巻き、巻き終わりを米粒一つで留める。海苔はシャリの水分を吸って数十秒で湿り始めるので、軍艦は巻いたらすぐネタを乗せ、すぐ出す。作り置きの軍艦は海苔がしんなりして噛み切れず、磯の香りが消える。手巻きも同じで、海苔の歯切れが命であり、巻いた瞬間に手渡す。

24.4 巻物

巻きすと海苔

巻きすは竹ひごを糸で編んだ道具で、竹の皮側(平らでなめらかな面)と内側(丸みのある面)がある。平らな皮側を上にして海苔を置き、糸の結び目を奥(向こう側)にすると、巻き終わりで結び目が邪魔にならない。使用後はぬるま湯で米粒を落とし、竹の隙間に残ったシャリをブラシでかき出し、完全に乾かす。隙間に米が残ればカビと菌の温床になる。

海苔には表(なめらかで艶のある面)と裏(ザラザラした面)がある。巻物ではザラザラした裏面をシャリ側(内側)に向ける。裏面の粗い繊維がシャリの水分と表面の粘りをつかみ、米粒をしっかり保持して型崩れを防ぐアンカー効果(錨のように固定する働き)を生むと説明される。表の艶のある面が外側に出て見栄えも良い。逆に置くと、滑らかな表面がシャリを滑らせ、巻いたときに芯がずれ、切ったときに海苔とシャリが離れる(第21章)。海苔の大きさは全形(約 21 × 19cm)が太巻き一本分、半切(全形を長辺で半分に切ったもの)が細巻き一本分である。海苔は使う直前に袋から出し、軽く炙って香りを立て(第21章)、湿気のある場所に放置しない。

細巻き・太巻き・裏巻き

細巻きは半切の海苔に具を一種類だけ巻く江戸前の基本の巻物で、鉄火(マグロ)、かっぱ(きゅうり)、干瓢、新香(沢庵など漬物)が代表である。手順は、海苔の裏面を上にして巻きすの手前に揃えて置き、シャリ約 80g を手前から広げ、奥の端 1.5〜2cm に余白を残す。シャリは押し付けず、米粒を海苔の上に置くように広げる。押し付ければ海苔がシャリの水分を吸ってしんなりし、海苔の歯切れが失われる。具は中央よりやや手前に一直線に置き、わさびを塗るものは具の下に。巻きすの手前を持ち上げ、具を指で押さえながら、海苔の手前の端をシャリの奥の端に着地させるつもりで一気に巻き、巻きすの上から軽く締めて角を作る。

太巻きは全形の海苔に玉子焼き・干瓢・椎茸・おぼろ・きゅうり・穴子など複数の具を巻く。シャリは 180〜220g、奥の余白は 3〜4cm 取る。具は重いものを手前、崩れやすいものを奥に置き、巻き込むときに手前の具を芯にして一回転させ、残りの海苔で二重目を巻く。巻きすで全体を締め、両端からはみ出した具とシャリを整える。裏巻きは海苔の全面にシャリを広げ、裏返してシャリを外側にして巻く方法で、海外で生まれたカリフォルニアロールが代表である。シャリが巻きすに付くので、巻きすをラップで包んでから使う。海苔が内側になるため海苔の歯切れは失われ、外側のシャリに胡麻や飛び子をまぶして食感を補う。

巻く力は「海苔が割れず、芯がずれない」範囲で最小にする。強く巻けば米粒が潰れて団子になり、海苔が破れる。弱ければ切ったときに崩れる。巻き上がりを巻きすで締めるとき、上から押すのではなく、巻きすの手前と奥を軽く引き合って四辺を整える。巻き終わりの海苔は、シャリの水分で自然に貼り付くので、水を付ける必要はない。

切り方と衛生

巻物は、巻いた直後に切る。細巻きは半分に切り、二本を揃えてさらに三等分して六切れに、太巻きは八切れにする。包丁は柳刃か、よく切れる薄い包丁を使い、一切れごとに濡れ布巾で刃を拭き、刃に付いたシャリと海苔の欠片を落とす。切る動作は引き切り(第23章)で、刃の重みで海苔を切り、一動作で下まで引く。押せば海苔がちぎれ、シャリが潰れて断面が崩れる。切り口が潰れていれば、刃が鈍いか、刃が濡れていないか、押しているかのいずれかである。

巻物の衛生で注意するのは海苔を触る手である。海苔は乾いた食材であり、濡れた手で触れば湿って破れ、同時に手の水分とともに菌が移る。海苔は乾いた手で袋から出し、巻きすに置いてから手水を使う。巻きすに付いた米粒は細菌の栄養であり、営業中は一本巻くごとに布巾で拭き、営業後は洗って乾かす。細巻きを何本もまとめて巻いて切り置きすることは、第5章の切り置き禁止と同じ理由で避ける。巻物は注文ごとに巻き、巻いたら切り、切ったら出す。

表24-2 巻物の種類と目安
巻物海苔シャリ奥の余白切り数要点
細巻き半切(裏面を内側)約 80g1.5〜2cm6具は一種類。シャリを押し付けない
太巻き全形(裏面を内側)180〜220g3〜4cm8重い具を手前、崩れる具を奥。一回転で芯を作る
裏巻き全形または半切(海苔が内側)120〜150gなし6〜8巻きすをラップで包む。胡麻などで食感を補う
軍艦帯 3〜3.5cm 幅(全形の 6 切が目安)12〜15g——巻いたらすぐ出す。海苔が湿る前に
手巻き全形の 1/4〜1/220〜30g——巻いた瞬間に手渡す

24.5 提供 ― 順序・速さ・向き

握りは握ってから 10 秒以内に客の口に入るのが理想である。人肌のシャリは室温で冷め始め、ネタの表面はシャリと手の温度でぬるくなり、軍艦の海苔は湿り、煮切りはシャリに染みる。10 秒を過ぎるごとに、職人が設計した温度差と食感の差が失われていく。だから職人は客の食べる速さを見て、客が前の一貫を飲み込む直前に次を握り始める。客が話し込んでいれば握るのを待ち、同席の二人が同時に食べ終わるように速さを合わせる。

握りの順序は、味の弱いものから強いものへ、が基本である。淡白な白身や貝から始め、赤身、光り物、脂の強いトロや炙り、煮穴子と進み、玉子や干瓢巻きなどの甘いもので締める。酢締めの光り物は口を切り替える位置に、脂の強いものは中盤から後半に置く。同じ系統を続けず、白身の次に貝、赤身の次にイカのように食感を交互にすると飽きない。ただしこれは原則であり、客の様子を見て変える。酒を飲む客には塩と柑橘で出すネタを先に、子どもには玉子を早く、脂の苦手な客にはトロを薄く。おまかせの一席全体の組み立て、客との会話、アレルギーの聞き取りは第26章で扱う。

置き方は、客から見てネタが手前、長辺が左右になるように、客が右手で取れば自然に醤油の皿に向く向きで置く。カウンターでは職人の正面ではなく客の正面、客の手が届く位置に、げた(寿司台)や皿の中央から客側に寄せて置く。箸でも手でも取れるように、握りの底は乾いた面に置き、濡れた皿には置かない。醤油の案内は、煮切りを塗って出す店では「そのままどうぞ」と一言添える。醤油を付ける店では、ネタの端に少し付けること、シャリを醤油に浸けると崩れて醤油を吸い過ぎることを、聞かれたときに答えられるようにしておく。海外の客はシャリ側を醤油に浸けがちなので、最初の一貫で煮切りを塗って出し、やり方を見せる店もある。

24.6 よくある失敗と直し方、練習法

シャリが崩れる
外側の壁ができていない。原因は、締めが弱い、手水が多くてシャリが水を吸った、シャリが冷えて老化し粒が結着しない、シャリが乾いて表面の糊化層が失われた、のいずれかである。直し方は、両脇を締める動作を一度しっかり入れること、手水を減らすこと、シャリの温度と保湿(第9章)を見直すことである。
ネタが落ちる
ネタとシャリが密着していない。シャリをネタにのせたとき親指でくぼみを作っていない、ネタの表面が濡れている、硬いネタに隠し包丁がない、シャリが丸過ぎてネタとの接触面が小さい、が原因である。ネタの水気を拭き、くぼみで空気を抜き、硬いネタには隠し包丁を入れ、仕上げに人差し指でネタの上を軽くなでて密着させる。
シャリが硬い団子
握り過ぎである。力が強いか、手数が多くて圧力をかけている時間が長いか、シャリを取るときに手の中で丸めて既に締めている。シャリを取るときは「置く」だけにし、締めるのは仕上げの一瞬だけにする。練習では、握ったシャリ玉を箸で持ち上げて崩れず、舌で押して一粒ずつ離れるかを毎回確かめる。
形が揃わない
シャリの量が毎回違うか、締める位置が毎回違う。量は、秤で 10 回取って誤差が ±1g に収まるまで繰り返す。締める位置は、右手の親指と人差し指が触れる場所を毎回同じにし、180 度回して反対側も同じ回数だけ締める。
わさびが多い
ネタの味が消え、客の鼻に抜ける。わさびを取る指の面積を小さくし、ネタの中央に点で置く。脂の少ないネタでは半分にする。客の「さび抜き」の要望は必ず守り、間違えたら握り直す。

練習は、まずシャリだけで行う。一日 100 個、量を揃えて俵にまとめ、両脇を締めて底を平らにし、全部を並べて高さと幅が揃っているかを見る。次にネタに見立てた薄い板や布巾の切れ端で返しの動作を覚え、最後に実際のネタで握る。練習のシャリは温度が下がれば握りの感覚が変わるので、人肌を保ったものだけを使い、冷めたものは廃棄する。鏡の前で手の動きを見る、動画で自分の手数を数えるのも効果がある。手数が 6 手を超えていれば、どの動作が余分かを一つずつ削る。

この章のまとめ

  • 握りの目的は、ネタとシャリが口の中で同時にほどけ、温度と味が一体になること。シャリの量・圧力・ネタの厚み・温度の全部がそのためにある。
  • 理想のシャリ玉は外硬内軟。外側の米粒は結着して壁を作り、内側は密着せず空気の層を含む。握るのは外側だけ、短く。握り過ぎは団子、緩過ぎは崩れ。
  • シャリの量は 10〜20g の幅の中で、ネタとの比率で決める。脂の強いネタはやや多く、酢締めは少なく、噛むネタはやや多く。
  • 手返しは本手返し(5〜6 手、形が最も美しい)、小手返し(3〜4 手、速い)、立て返し(シャリが土台)など。手数を減らすのは、体温(約 36℃)で脂が溶けて劣化し、シャリの温度が狂い、手から菌が移る機会が増えるから。手を冷やし、手水は薄く。
  • わさびはネタとシャリの間に、量はネタの脂と匂いで決める。煮切りは薄く一回。白身・イカ・貝・海老は塩と柑橘でも出す。軍艦と手巻きは海苔が湿る前にすぐ出す。
  • 巻物は巻きすの平らな面を上に、海苔のザラザラした裏面をシャリ側に(アンカー効果)。シャリは押し付けず、奥に余白を残し、最小の力で巻き、一切れごとに濡れ布巾で刃を拭いて引き切る。海苔は乾いた手で扱う。
  • 提供は握ってから 10 秒以内。順序は淡白から濃厚へ、甘いもので締める。客の様子で変える。置き方は客の正面に、取りやすい向きで。
  • 失敗は構造から原因を特定する。崩れは壁、落ちるのは密着、団子は圧力と時間、不揃いは量と締める位置。練習はシャリだけで量と形を揃えることから。

確認問題

問1 理想的な握りのシャリ玉の構造と握り方について、正しいものはどれか。
a 全体を均一に固く締め、内部まで米粒を密着させることで、箸で持っても崩れず醤油を吸わない握りになる
b 外側の米粒は適度に結着して壁を作り、内側は米粒同士が密着せず空気の層を含む。握るのは外側だけで、短く、強く締めない
c 外側を緩く、内側を固く締めると、口に入れた瞬間に外側がほどけて食感が良い
d シャリは冷蔵庫で冷やしておくと米粒が締まって結着しやすく、崩れにくい握りになる
e 握る時間が長いほど米粒の表面のデンプンが馴染み、ほどけやすくなる

答え:b

外硬内軟の構造である。米粒の表面の糊化デンプン層は接触面で結着するため、圧力がかかる外側だけが壁になり、圧力の届かない内側は点で触れ合うだけで空気を残す。a は団子、c は構造が逆で成り立たない。d は冷えたシャリが老化して結着しにくく崩れやすい事実に反し、e は圧力をかける時間が長いほど内部まで密着して団子になる事実に反する。