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すし検定

目次 第7章 米を知る
    1. 序章本書の使い方と一級の位置づけ
  1. 第I部 食の安全

    1. 第1章世界に広がる寿司と衛生の現実
    2. 第2章微生物と腐敗のしくみ
    3. 第3章寿司屋で起きる食中毒
    4. 第4章洗浄・消毒・異物混入防止の科学
    5. 第5章温度管理と在庫管理
    6. 第6章なぜ素手で握れるのか
  2. 第II部 シャリの科学

    1. 第7章米を知る
      1. 7.1 デンプンの科学 ― アミロースとアミロペクチン
      2. 7.2 新米と古米 ― ブレンドの理由
      3. 7.3 洗米 ― 「研ぐ」から「洗う」へ
      4. 7.4 浸水とザル上げ
      5. 7.5 水 ― 硬水と軟水
      6. 7.6 炊飯 ― 糊化のメカニズムと火加減
      7. 7.7 デンプンの老化 ― 冷めたご飯が硬くなる理由
    2. 第8章合わせ酢と調味
    3. 第9章シャリ切りと温度
  3. 第III部 魚を知る

    1. 第10章魚の死後に起きること ― 死後硬直・熟成・腐敗
    2. 第11章目利きと仕入れ
    3. 第12章冷凍と解凍の科学
    4. 第13章下処理の科学 ― 塩・酢・昆布・皮・骨
  4. 第IV部 ネタ各論

    1. 第14章マグロ
    2. 第15章白身魚
    3. 第16章光り物
    4. 第17章海老・蟹・イカ・タコ
    5. 第18章貝類
    6. 第19章煮物・玉子・ウニ・イクラ
  5. 第V部 調味料と薬味

    1. 第20章醤油・煮切り・ツメ・出汁と旨味
    2. 第21章わさび・海苔・ガリ・茶
  6. 第VI部 技術と道具

    1. 第22章包丁と砥石
    2. 第23章おろし方と切り付け
    3. 第24章握りと巻き ― 手返しとシャリ玉の構造
  7. 第VII部 寿司の歴史と職人の心得

    1. 第25章寿司の歴史
    2. 第26章提供・接客と職人の責任
  8. 付録 資料編

    1. 付録A温度・時間 早見表
    2. 付録B食中毒一覧表
    3. 付録C用語集
    4. 付録D出題分野と出題の目安

第II部

シャリの科学

米と酢

第II部 シャリの科学 ― 米と酢

第7章

米を知る

寿司の味の半分はシャリで決まり、シャリの出来の半分は炊く前に決まっている。米の品種と年数、洗米の水温、浸水、水質、火加減は、すべてデンプンという一つの物質の振る舞いに帰着する。この章では米粒の中で何が起きているかを理解し、「なぜその手順なのか」を説明できるようになる。一級では手順の暗記ではなく、背後の物理と化学が問われる。

この章の到達目標

  • アミロースとアミロペクチンの違いから、寿司に向く米の条件を説明できる
  • 古米をブレンドする理由と、新米を使うときの水加減を説明できる
  • 洗米・浸水・ザル上げで米粒に起きていることを述べ、失敗の原因を特定できる
  • 硬水が炊き上がりに与える影響と、海外での対策を説明できる
  • 糊化(アルファ化)と老化(ベータ化)を、温度と水分の条件とともに説明できる

7.1 デンプンの科学 ― アミロースとアミロペクチン

精白米の約 75% はデンプンである。デンプンはブドウ糖が多数つながった高分子で、つながり方で二種類に分かれる。アミロースはブドウ糖が一本の鎖のように直線状につながった分子で、炊いても互いに絡みにくく、米粒どうしがほぐれやすい性質を生む。アミロペクチンは鎖が枝分かれして房のように広がった巨大な分子で、炊くと枝どうしが絡み合い、粘りと弾力を生む。この二つの比率が米の食感をほぼ決める。

日本で主食にするうるち米はアミロースを約 17〜20% 含み、残りがアミロペクチンである。もち米はアミロースをほとんど含まず(ほぼ 0%)、アミロペクチンだけで構成されるため強い粘りと伸びが出る。粘りが強すぎて団子状に結着し口でほどけないため、寿司には向かない。逆にアミロースが 20〜30% と多い長粒種(インディカ米の多く)は炊くとパラパラと離れ、握ってもシャリ玉にならない。寿司米に求められるのは、形を保つ粘りと一粒ずつほどけるアミロースを併せ持つ、中間の領域である。本検定で問われる「うるち米はもち米よりアミロースが多く、そのアミロースが適度なほぐれやすさを生む」という理屈は、この分子構造の話である。

寿司に向く品種の考え方

品種は銘柄の知名度ではなく三つの性質で選ぶ。粘りすぎないこと。粒がしっかりして「立つ」こと、つまり炊いても潰れず、合わせ酢を打って切っても形を保つこと。そして冷めても硬くなりにくいこと。シャリは人肌で食べるものだから、冷めたときの食感が本番である。コシヒカリは粘りと甘みが強いが、水を控え古米を混ぜれば寿司にも広く使われる。ササニシキはアミロースがやや多く粒離れがよく、あっさりした味が酢とぶつからないため江戸前の職人に好まれてきた。ハツシモは大粒で粒がしっかりし、ななつぼしは粘りと硬さのバランスがよく、どちらも冷めても食味が落ちにくい。反対に、ミルキークイーンのような低アミロース米(アミロース 10% 前後)は寿司には粘りすぎる。

表7-1 米の種類とアミロース含有量の目安
種類・品種アミロース炊き上がり寿司への適性
もち米ほぼ 0%強い粘りと伸び向かない(団子になる)
低アミロース米(ミルキークイーン等)約 10%もちもち、柔らかい向かない(粘りすぎる)
コシヒカリ約 17〜18%粘りと甘みが強い水を控え、古米を混ぜて調整
ササニシキ・ハツシモ・ななつぼし・日本晴約 19〜20%粒が立ち、ほぐれやすい向く(冷めても硬くなりにくい)
長粒種(インディカ米の多く)約 20〜30%パラパラ向かない(握れない)

最終的には自店の合わせ酢とネタに合わせて決める。米と酢は一対で考える(第8章)。

7.2 新米と古米 ― ブレンドの理由

米は収穫後、玄米の水分を約 15% まで乾燥させて保管されるが、月日とともに脂質・デンプン・タンパク質や酵素が少しずつ変化し(古米化)、米粒の組織は硬くなる。保管中に水分もわずかに抜けるが、硬くなる主な原因はこの成分の変化である。収穫した年の米を新米、翌年の新米が出るまでの前年産米を古米と呼ぶ。

新米は胚乳が柔らかく水を吸いやすい。通常の水加減で炊くと吸水しすぎて柔らかくベタつき、粒が潰れやすい。さらに、炊き上がった後に合わせ酢を吸い込む余地(吸水余力)が小さく、酢が米粒の中に入らず表面に残って、酢の味だけが浮いた水っぽいシャリになりやすいとされる。古米は逆である。細胞組織が硬くなっているため、炊いても粒が立ち、形が崩れにくい。炊飯時の吸水率も新米より高くなることが知られ、この吸水余力の大きさから、合わせ酢を内部までしっかり吸い込み、味が一体化してベタつかないと職人は説明する。本検定で問われる「あえて古米をブレンドする理由」は、この吸水余力と硬さである。

ただし古米は、保管が悪いと糠層の脂質が酸化して古米臭が出る。組織が硬いぶん吸水に時間がかかるので、低温倉庫(15℃ 以下)で保管されたものを選び、浸水時間を新米より長めに取る。ブレンド比は新米 7:古米 3 から 5:5 まで店により幅があり、配合を変えたら浸水時間と水加減を必ず見直す。新米だけで炊くなら、水を通常より 5〜10% 減らして炊き上がりの水分を抑え、合わせ酢を吸う余地を作る。

精米と保管

玄米の表面を覆う糠層は脂質を多く含み、酸化と臭いの主な原因になる。一般の白米は玄米の重さの約 90〜92% まで削ったもので、寿司米ではさらに磨いて 88〜90% にする店もある。磨くほど糠臭と雑味が減るが、削りすぎると粒が割れやすい。精米後は脂質の酸化が始まり、2〜3 週間を過ぎると味が落ちるので、精米日の近いものを少量ずつ仕入れる。

保管の敵は温度・湿気・虫・酸化の四つである。15℃ 以下が理想で、夏場の厨房(30℃ 超)に袋のまま置けば 1 か月で味が落ちる。水分が多い(目安として 16% 超)とカビが生えやすく、虫(コクゾウムシ等)は 20℃ 以上で活発になる。密閉容器に移して 15℃ 以下で保管し、米びつは空になるたびに洗って乾かし、新しい米を古い米の上に継ぎ足さない(第5章の先入れ先出しと同じ原則)。

7.3 洗米 ― 「研ぐ」から「洗う」へ

洗米の目的は、米の表面に残った糠と、精米時に出たデンプンの微粉を取り除くことである。かつての精米は粗く、米どうしをこすり合わせる「研ぐ」作業が必要だった。現代の精米機は糠層をほぼ完全に除くので、強く研ぐと米粒が割れ、割れ目からデンプンが溶け出してベタつく。だから今は「研ぐ」のではなく「洗う」と考える。

乾いた米は、最初に触れた水を最も勢いよく吸う。第一に、最初の水には糠の臭いが溶け出しているから、長く置くと糠臭まで米の中に吸い込まれる。最初の水は注いだら 10 秒以内に捨てる。第二に、最初の水の温度と状態はそのまま米の中に入る。ここで温水を使うと吸水が一気に進み、糠の臭いや濁り水まで米が吸い込むうえ、水を含みすぎた米粒の表層が崩れてデンプンが溶け出し、炊き上がりがベタつく原因になる。ただし、デンプンの糊化(アルファ化)が始まるのは 60℃ 前後からで、炊飯器も 40〜50℃ の湯で吸水させているから、ぬるま湯で表面が糊化するわけではない(熱湯なら別である)。本検定で問われる「洗米に温水を使ってはいけない理由」はこれである。

  1. 計量 米は重さで量る。1 升は約 1.5 kg。
  2. 最初の水 たっぷりの冷水を一気に注ぎ、2〜3 回かき混ぜて 10 秒以内に捨てる。
  3. 洗う 米がひたる程度の水で、指を立てて軽く円を描くように 10〜20 回かき回し、白く濁ったら捨てる。水を替えて 2〜3 回。うっすら濁る程度で止め、透明になるまで洗わない。
  4. すすぐ さっと流水ですすぎ、最初の水から 3〜5 分以内に終える。長くかけるほど米は濁り水を吸い、割れる。

冷水で、短時間で、優しく。それが結論である。

7.4 浸水とザル上げ

浸水は米粒の中心まで水を行き渡らせる工程である。デンプンの糊化には水と熱の両方が要る。浸水不足の米を炊くと、表面は水と熱を得て先に糊化するが、糊化した表面のデンプンは硬い膜のようになり、内側への水と熱の通り道を塞ぐ。結果として芯に水が届かず、中心が生のまま残る。これが「生煮え」の正体で、本検定で問われる「浸水不足で加熱時に起こる現象」である。

米の吸水は最初が速く、常温の水では浸水後 30 分で急速に進み、約 2 時間でほぼ飽和(重さの約 20〜25% 増)する。水温が低いほど吸水はゆっくり進み、逆に高い水温で長く浸すと米粒の表層が崩れて食味が落ちる。だから浸水は冷水で行い、時間で調整する。目安は夏(水温 25℃ 前後)で 30 分〜1 時間、冬(水温 5〜10℃)で 1〜2 時間。古米はさらに 30 分長く取る。6 時間を超える浸水は、常温では水が傷むので必ず冷蔵庫(5℃ 以下)で行う。

ザル上げの意味と危険

ザル上げは米粒の外側の水を切って水加減を正確にするためだが、ここに落とし穴がある。ザル上げのまま長時間放置すると、表面が急激に乾燥して収縮し、水を含んで膨らんだ内部との差で米粒に亀裂が入る。これを胴割れという。胴割れした米を炊くと、亀裂から内部のデンプンが過剰に流出し、炊き上がりがベタつき、粒が崩れる。本検定で問われる「ザル上げの長時間放置のリスク」はこれである。ザル上げは 15〜30 分で釜に移すのが目安で、夏の乾いた厨房ではさらに短くし、固く絞った濡れ布巾をかけて乾燥を防ぐ。水加減は、寿司用は硬めに炊くので、ザル上げした米の重さの 1.0〜1.1 倍が出発点になる。米はすでに浸水で約 20〜25% の水を吸っているから、普通炊きより少ない水で足りる。自店の基準を記録し、炊き上がりを見て修正する。

7.5 水 ― 硬水と軟水

米は重さの 2 割以上の水を吸うから、水の質はそのままシャリの質になる。最も影響が大きいのは硬度で、水 1 L に溶けているカルシウムとマグネシウムの量を炭酸カルシウム換算の mg/L で表す。WHO の区分では 0〜60 mg/L が軟水、60〜120 mg/L が中程度の硬水、120〜180 mg/L が硬水、180 mg/L 以上が非常な硬水である。日本の水道水は多くが硬度 100 mg/L 未満(水道の水質管理目標値は 10〜100 mg/L)で、WHO の区分では軟水から中程度の硬水にあたる。

硬水で炊くと、硬くパサついた炊き上がりになる。米の細胞壁にはペクチンという多糖類があり、カルシウムイオンはペクチンどうしを橋渡しするように結合(架橋)して組織を硬くする、と説明される。細胞壁が硬くなると水が内部に浸透しにくくなり、糊化が進みにくい。ただしこの架橋の仕組みは豆や野菜で確かめられたもので、イネ科の米は細胞壁のペクチンが少なく、米でどこまで効いているかは確かめきれていない。マグネシウムなどは苦味も加える。本検定で問われる「硬水が炊き上がりに与える影響」の答えはここにある。軟水は水が素直に米に入り、ふっくら炊ける。pH はほぼ中性の水が基本で、弱アルカリ性ではやや柔らかく、酸性では硬めに炊ける。

7.6 炊飯 ― 糊化のメカニズムと火加減

生の米のデンプンはベータデンプンと呼ばれ、アミロースとアミロペクチンの分子が水素結合で規則正しく密に結晶し、水も消化酵素も入り込めない硬い構造をしている。ここに水と熱が加わると、分子間の水素結合が切れ、生じた隙間に水分子が入り込み、デンプンは水を抱えて膨らむ(膨潤)。結晶構造はほどけ、柔らかく粘りのあるアルファデンプンに変わる。この変化が糊化(アルファ化)で、本検定で問われるメカニズムは「水と熱で分子間の水素結合が切れ、隙間に水が入り、膨潤して柔らかくなる」という一文に尽きる。米デンプンの糊化はおよそ 60℃ 前後から始まり、完全に糊化させるには 98℃ 以上を 20 分程度保つ必要がある。

水+熱 60〜98℃ 冷却+時間 0〜4℃で最速 生米 ベータデンプン 結晶で水が入らない 炊きたて アルファデンプン 膨潤して柔らかい 冷めたご飯 老化デンプン 再結晶して硬い 糊化(アルファ化) 老化(ベータ化) シャリの老化は温め直しても戻せない。人肌(35〜37℃)に保って遅らせる(第9章)
図7-1 デンプンの糊化と老化。糊化には水と熱の両方が要り、老化は 0〜4℃ で最も速く進む。

火加減と「カニ穴」

火加減は、沸騰までを速めに、沸騰後はデンプンを煮崩さない程度に強く、というのが寿司店に多い考え方である(一般の炊飯では、吸水と糊化が始まる沸騰までの温度上昇期は 10 分程度が適当とされる)。沸騰までが遅いと、米のアミラーゼ(デンプン分解酵素)が働く温度帯に長く留まってデンプンが糖に変わり、甘みは増すが、粒の立ちは弱くなるとされる。粒が立つシャリには速めの沸騰が合う。

よく炊けた釜のご飯の表面には直径数 mm の穴がいくつも開いている。これをカニ穴という。カニ穴は、強い火力で釜底に発生した水蒸気の気泡が米の層を押し分けて激しく上昇し、表面に抜け出た通り道である。つまり釜全体が勢いよく沸騰し、底から上まで蒸気が通った証拠であり、火力が弱かったり、水が多すぎたりするとカニ穴はできにくい。本検定で問われる「カニ穴の形成メカニズム」はこの蒸気の通り道である。

蒸らしと釜

火を止めた直後は米粒の表面に水が残り、内部の糊化も完全ではない。蓋をしたまま 10〜15 分置くと、余熱と蒸気で芯まで糊化が進み、表面の余分な水分が米に吸われる。蒸らしすぎると合わせ酢を打つ適温を逃すので、10 分前後にとどめて熱いうちに飯台へ移す(第9章)。

ガス釜は直火で短時間に強い対流を起こせるため粒の立ったシャリに向き、多くの寿司店が選ぶ。IH 炊飯器は温度制御が正確で再現性が高い。圧力式は沸点を 100℃ 以上に上げて短時間で芯まで糊化させるが、柔らかくなりやすいので水を減らす。羽釜は蓄熱性と対流が強く、カニ穴が最もよく出る。昆布や酒を少量入れる店もあるが、昆布はヌメリ成分(アルギン酸)で粘りが増すことがあり、入れるなら沸騰前に取り出す。

炊き上がりの見極め

表面にカニ穴があり、米粒の輪郭がはっきり見え、水の膜がない。しゃもじで返したとき底に水の層がなく、米が塊で持ち上がらずふわりと崩れる。一粒をつぶして芯がなく、噛んで甘みとわずかな弾力がある。柔らかすぎれば水と浸水時間を減らし、芯が残れば浸水時間を増やす。カニ穴が出なければ炊く量を減らす。釜の容量の 6〜8 割が最も対流がよく、満杯では米が自重で潰れる。

7.7 デンプンの老化 ― 冷めたご飯が硬くなる理由

糊化したアルファデンプンは、時間が経つと分子が再び水素結合で結びつき、水を追い出して硬く結晶化する。これを老化(ベータ化)という。老化は糊化の逆方向への変化で、冷めたご飯が硬くボソボソになる現象の正体である。最も速く進むのは 0〜4℃、つまり冷蔵庫の温度帯である。この温度では分子の動きがほどよく遅く、水も凍っていないため、分子が並び直して結晶化しやすい。冷蔵庫に入れたご飯が翌日に硬くパサつくのはこのためである。−18℃ 以下の冷凍では老化は進みにくく、60℃ 以上の保温でも遅いが乾燥と黄変が進む。老化は水分 30〜60% で最も速く、ご飯の水分(約 60%)はこの範囲にある。

シャリを人肌(35〜37℃)に保つ理由の一つは、この老化を遅らせるためである。老化したデンプンは再加熱すればある程度は再び糊化して柔らかくなるが、シャリを温め直せば酢酸が飛び、表面だけが過剰に糊化してベタつくので、シャリとしては元に戻せない。だからシャリは「人肌で保ち、人肌のうちに使い切る」。砂糖が老化を遅らせる理由は第8章、温度管理は第9章で扱う。

この章のまとめ

  • デンプンは直鎖のアミロース(ほぐれ)と枝分かれのアミロペクチン(粘り)からなる。寿司米はアミロース 17〜20% のうるち米で、粒が立ち、冷めても硬くなりにくい品種を選ぶ。古米は古米化で組織が硬く、吸水余力が大きいので合わせ酢をよく吸うとされる。新米は水を 5〜10% 減らす。
  • 洗米は冷水で 3〜5 分以内。最初の水は 10 秒以内に捨てる。温水は吸水を速めすぎ、糠臭とベタつきの原因になる。
  • 浸水は芯まで水を通すため。不足すると表面だけ糊化して膜を作り、芯が残る。ザル上げは 15〜30 分で釜へ。長く置くと胴割れする。
  • 硬水で炊くとパサつく(カルシウムがペクチンと架橋して組織を硬くするためと説明される)。海外では軟水器・RO 水・硬度 60 mg/L 以下の水を使う。
  • 糊化は 60℃ 前後から始まり、98℃ 以上で 20 分。強火で沸いた蒸気の通り道がカニ穴になる。蒸らしは 10 分前後で、熱いうちに飯台へ。
  • 老化は 0〜4℃ で最も速い。老化したシャリは温め直してもシャリとしては戻らないので、人肌(35〜37℃)に保って使い切る。

確認問題

問1 浸水を十分に行わずに炊飯したとき、米粒に起こる現象として正しいものはどれか。
a 内部のデンプンが先に糊化し、表面が硬く残る
b 表面のデンプンが先に糊化して膜を作り、内部への水と熱の浸透を妨げるため芯が残る
c アミロースが流出して全体がベタつく
d 胴割れが起きて米粒が崩れる
e カニ穴が多くでき、水っぽく炊き上がる

答え:b

浸水不足の米は表面だけが水を持つため、表面が先に糊化して膜となり、内部への水と熱の通り道を塞いで芯が残る。d の胴割れはザル上げの長時間放置で起きる別の現象である。