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すし検定

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Contents 第5章 温度管理と在庫管理
    1. 序章本書の使い方と一級の位置づけ
  1. 第I部 食の安全

    1. 第1章世界に広がる寿司と衛生の現実
    2. 第2章微生物と腐敗のしくみ
    3. 第3章寿司屋で起きる食中毒
    4. 第4章洗浄・消毒・異物混入防止の科学
    5. 第5章温度管理と在庫管理
      1. 5.1 温度の基本 ― 品温と庫内温度は違う
      2. 5.2 仕込みと営業中の品温管理
      3. 5.3 冷蔵庫の原則 ― 先入れ先出しと配置
      4. 5.4 消費期限と賞味期限
      5. 5.5 納品と検品 ― 段ボールは厨房に入れない
      6. 5.6 テイクアウトと配達 ― 店を出た後も店の責任
      7. 5.7 記録と HACCP の考え方
    6. 第6章なぜ素手で握れるのか
  2. 第II部 シャリの科学

    1. 第7章米を知る
    2. 第8章合わせ酢と調味
    3. 第9章シャリ切りと温度
  3. 第III部 魚を知る

    1. 第10章魚の死後に起きること ― 死後硬直・熟成・腐敗
    2. 第11章目利きと仕入れ
    3. 第12章冷凍と解凍の科学
    4. 第13章下処理の科学 ― 塩・酢・昆布・皮・骨
  4. 第IV部 ネタ各論

    1. 第14章マグロ
    2. 第15章白身魚
    3. 第16章光り物
    4. 第17章海老・蟹・イカ・タコ
    5. 第18章貝類
    6. 第19章煮物・玉子・ウニ・イクラ
  5. 第V部 調味料と薬味

    1. 第20章醤油・煮切り・ツメ・出汁と旨味
    2. 第21章わさび・海苔・ガリ・茶
  6. 第VI部 技術と道具

    1. 第22章包丁と砥石
    2. 第23章おろし方と切り付け
    3. 第24章握りと巻き ― 手返しとシャリ玉の構造
  7. 第VII部 寿司の歴史と職人の心得

    1. 第25章寿司の歴史
    2. 第26章提供・接客と職人の責任
  8. 付録 資料編

    1. 付録A温度・時間 早見表
    2. 付録B食中毒一覧表
    3. 付録C用語集
    4. 付録D出題分野と出題の目安

第I部 食の安全 ― 寿司職人の第一の責務

第5章

温度管理と在庫管理

細菌の増殖を左右する最大の要因は温度と時間である(第2章参照)。この章ではその原理を店の日常に落とし込む。冷蔵庫、まな板、つけ場、納品口、持ち帰りの袋――魚が通るすべての場所で、品温を何度に何分間保つかを決め、記録する方法を学ぶ。ここが寿司店の事故の大半を分ける現場である。

この章の到達目標

  • 危険温度帯と保存温度の数値を根拠とともに説明し、品温を測って管理できる
  • 小出し・切り置き禁止・即時冷蔵の理由を科学的に説明できる
  • 先入れ先出しと日付表示を、仕込み品・自家製調味料まで含めて運用できる
  • 消費期限と賞味期限を区別し、納品・テイクアウト・記録の義務を実行できる

5.1 温度の基本 ― 品温と庫内温度は違う

生食用の魚介類は、日本の食品衛生法の規格基準で「10℃以下で保存すること」と定められ、冷凍品は −15℃以下である。これは法律の最低線であり、実務の目標はもっと低い。生鮮魚は 0〜4℃、サクの短期保管では −1〜1℃のチルド帯(0℃前後の、凍る直前の低温。このうち水が凍る 0℃から魚肉が凍り始める −1〜−2℃までの凍らない温度域を、とくに氷温帯という)が理想である。魚肉は塩分やアミノ酸を含むため真水より低い温度まで凍らない。

反対に細菌がよく増える温度帯を危険温度帯(10〜60℃。米国 FDA の Food Code は 5〜57℃〔41〜135°F〕を用いる)と呼ぶ。中でも 20〜40℃は多くの食中毒菌の最適温度に重なり、増殖が最も速い。腸炎ビブリオは条件が揃えば 10 分前後で 2 倍になる(第3章参照)。

室温に置いた瞬間から品温は上がる

熱は温度差に比例した速さで高い側から低い側へ流れる。4℃のサクを 25℃の厨房に出せば、その瞬間から品温は上がり始める。薄く切ったネタほど体積に対する表面積が大きく、早く温まる。1 貫分に切った切り身の表面は、室温のまな板の上で数分のうちに 10℃を超えると考えてよい。菌が付いているのはその表面である。

ここで重要なのが、品温(食材そのものの温度)と庫内温度(冷蔵庫内の空気の温度)は別物だという理解である。温度表示が 3℃でも、入れたばかりの魚の芯は 10℃を超えていることがある。空気は熱を伝えにくく、魚は水の塊で熱容量が大きいからである。管理すべきは品温であり、芯温計を刺して測る。

冷蔵庫の中の空気を動かす

業務用冷蔵庫は、冷やした空気をファンで循環させて品物を冷やす。詰め込みすぎが危険なのは通り道が塞がれて冷えない場所ができるからで、吹き出し口の前に物を置かず、庫内容積の 7 割程度までを目安にする。扉を開けるたびに冷気は床へ流れ出すので、何を取るか決めてから開け、即座に閉める。温かいものをそのまま入れると庫内全体の温度が上がり、隣の生魚の品温まで上げる。しかし「冷めるまで室温に置く」のも誤りで、それは危険温度帯に長く置くことである。正しいのは急冷(浅いバットに薄く広げ、氷水に当てるなどして短時間で温度を下げること)である。厚生労働省の大量調理施設衛生管理マニュアルは、加熱後に冷却する食品を「30 分以内に中心温度 20℃付近、または 60 分以内に 10℃付近まで下げる」よう求めている。

5.2 仕込みと営業中の品温管理

必要な分だけ小出しにする

仕込みの基本は小出しである。冷蔵庫から出すのは今から手を付ける分だけとし、仕込み終わったものから順に戻す。まな板の上に魚がある時間を秒単位で削るつもりで作業を組む。長く作業台に置かざるを得ないときは、氷を敷いた二重のバットの上で品温を 10℃以下に保つ。ただし氷を身に直接当ててはならない(5.3 参照)。

仕込み済みを室温に放置してはならない理由

仕込みを終えた具材は、水分と栄養が豊富で、表面は切り口だらけで、品温は室温に近づいている。細菌にとってこれ以上ない条件である。危険温度帯では菌は時間とともに指数関数的に増え、1 時間目にはわずかに見えた増え方が、2 時間目、3 時間目には爆発的になる。「あとですぐ使うから」と調理台の端に置いたまま 1 時間、というのが事故の典型である。仕込みが終わった瞬間に冷蔵庫へ入れる。加熱したものも例外ではない。芽胞を作る菌(第2章参照)は加熱を生き残り、冷めていく 60℃から 10℃の間に発芽して増える。煮穴子やツメを鍋のまま一晩室温に置くのは、毒素を作る菌に十分な時間を与える。

つけ場での切り置きは最も危険な行為

営業中のつけ場で最も危険なのは、ピークタイムを見越してあらかじめまな板の上に数十貫分のネタを切り並べておくことである。切り置きされたネタは、切った瞬間から室温と照明にさらされ、増えた切り口から水分と旨味を失い、酸化し、同時に菌が増え始める。忙しさへの備えは切り置きではなく、サクの状態での下ごしらえ、ネタケース内の配置、動線の整理で行う。切るのは注文を受けてから、1 貫ずつが原則である。切り置きは衛生と味を同時に捨てる行為である。

ネタケースと温度戻し

つけ場のネタケース(カウンターに置く冷蔵ショーケース)は、設定が 5℃前後でも、ガラス面や照明の近く、開閉の多い側は温度が高くなりやすい。入れるのは数時間のうちに出る分だけとし、生の魚と加熱済みのものを分け、底に直接置かず、ラップや笹で乾燥を防ぎ、営業後は空にして冷蔵庫へ移す。冷えすぎたネタの温度を提供直前にわずかに戻す技術(第23章参照)は、「室温に置いておくこと」ではない。切ってからまな板の上で数十秒から長くても数分、表面を 1〜2℃戻す秒〜分単位の仕事であり、その名を借りてサクを置いたままにするのは切り置きと同じである。

5.3 冷蔵庫の原則 ― 先入れ先出しと配置

先入れ先出し(FIFO)

先入れ先出し(FIFO。First In, First Out。先に入れたものを先に使う在庫管理の原則)は冷蔵庫管理の背骨である。人は手前にあるものから取る。新しいものを手前に置けば奥の古いものはいつまでも残り、気付いたときには期限を過ぎている。だから古いものを手前、新しいものを奥に置き、納品や仕込みのたびに奥のものを手前に引き出してから新しいものを奥へ入れる。FIFO には日付がいる。すべての容器に入庫日(または仕込み日)と消費期限を明記する。マスキングテープに「品名・日付・担当」を書くだけでよい。日付のないものは新旧が判断できない。

適用範囲を間違えてはならない。FIFO は仕入れた魚だけのものではなく、仕込み済みのネタ(締めたコハダ、ヅケ、茹でた海老)と自家製の調味料(ツメ、煮切り、ガリ、合わせ酢)にも徹底して適用する。「酢や醤油が入っているから腐らない」は誤りである。ツメは糖とゼラチン質を多く含み、カビや酵母が育つ。煮切りは加熱してあるが、使うたびに刷毛や箸から菌が入る。ガリは比較的もつがカビは生える。合わせ酢も日付がなければ何か月前のものか分からなくなる。

上段と下段 ― 滴りは下に落ちる

生の魚介は下段、加熱済み・そのまま食べるものは上段に置く。理由は重力である。生魚のドリップには腸炎ビブリオやサルモネラなどの菌が含まれうる。これが下に置いた煮穴子や玉子焼きに滴れば、加熱で菌を減らした意味が失われる。容器は蓋付きを使い、蓋がなければラップで密閉する。ラップは乾燥を防ぐだけでなく、滴りと落下物を物理的に止める膜である。

氷の使い方 ― 直に当てない

氷は溶けて 0℃の真水になる。腸炎ビブリオは真水に弱いから(第3章参照)、洗い流すこと自体は衛生の面で良い。しかし身を真水に浸けておくと、浸透圧の差で細胞に水が入り込み、身は水っぽく白くなり、旨味は流れ出す(第13章参照)。だから氷を身に直接当てず、溶けた水に身を浸けない。穴あきバットを氷のバットに重ねて水を落とす、氷を袋に入れる、身をラップで包んでから乗せる、のいずれかで隔てる。皮と鱗に守られた丸の魚は氷に直接乗せてよい。氷は毎日作り替える。

5.4 消費期限と賞味期限

日本の食品表示には二種類の期限がある。消費期限は安全に食べられる期限で、弁当、生麺、生肉、刺身など、品質が急速に劣化する食品に付けられる。賞味期限はおいしく食べられる期限で、調味料、缶詰、乾物、冷凍食品など傷みにくい食品に付けられ、過ぎてもすぐに食べられなくなるわけではない。

対応も違う。消費期限は安全の限界であり、1 日でも過ぎたものは即座に廃棄する。「加熱すれば大丈夫」「匂いが変わっていない」は通用しない。黄色ブドウ球菌の毒素のように加熱で壊れないものがあり(第3章参照)、菌が増えていても匂いが変わらない段階がある。賞味期限は品質の目安で、直ちに捨てる義務はないが、期限内に使い切れる在庫量にとどめる。どちらの期限も未開封で、表示どおりの保存方法を守った場合のものであり、開封した瞬間に意味を失う。開封日を書く。

自家製品の期限は店で決めて記録する

ツメ、煮切り、ガリ、締めた魚には誰も期限を印字してくれない。期限は店が決める。根拠は、保存温度、加熱の有無、酸(pH)、塩分、糖分、水分、容器の密閉、そして使うたびに外から菌が入る機会の多さである。酸と塩が強く加熱してあるものは長く、加熱していない生のものは当日限りに近い。決めた期限は衛生管理計画に書き、ラベルに反映し、守る。不安があれば短くする。表5-1 は一般的な目安であり、店の条件で短くなることはあっても長くはしない。

表5-1 自家製品の期限の決め方(冷蔵 4℃以下・密閉容器の場合の目安)
品目守っている要素目安
合わせ酢酸(pH 3 前後)・塩・糖1 か月程度
ガリ酸・糖・湯通し2〜4 週間。カビが出たら全量廃棄
煮切り塩分・加熱1〜2 週間。刷毛は毎日洗う
ツメ糖・加熱1〜2 週間。使うたびに火を入れるなら延びる
締めたコハダ・サバ塩・酸・脱水当日〜翌日。店により 2〜3 日
ヅケ・切り付けたネタ塩分のみ/なし当日限り

5.5 納品と検品 ― 段ボールは厨房に入れない

食材の衛生は店の扉の前で始まる。納品されたものは受け取ったその場で検品する。見るのは温度・鮮度・包装・異物の四つである。

  1. 温度 冷蔵品は品温計を刺し、10℃以下(店の基準は 5℃以下が望ましい)を確かめる。冷凍品は −15℃以下。袋の中にドリップが凍り付いていれば、途中で解けて再凍結した疑いがある。温度を外れたものは受け取らない。
  2. 鮮度 目、鰓、体表の張り、腹の硬さ、匂い(第11章参照)。サクは切り口の色とドリップの量。
  3. 包装 破れ、汁漏れ、氷の有無。
  4. 異物 箱の中と食材の表面に、虫、ごみ、破片がないか。

検品が終わったらすぐに店の容器に移し替え、冷蔵庫に入れる。

段ボールと床

段ボールは厨房に入れない。理由は二つある。第一に虫である。段ボールの波状の隙間はゴキブリの卵や成虫の隠れ場所になり、倉庫やトラックから店に運ばれてくる。第二に菌である。段ボールの底はトラックの荷台、市場の床、店の前の地面に置かれてきた。床には排水、靴底、ごみ由来の大腸菌群などがいる。床に置いた箱を調理台に乗せれば、床の菌を調理台に移すことになる。段ボールは搬入口で開け、中身を店の清潔な容器に移し、箱は厨房に入れずに処分する。

同じ理由で食材を床に直接置かない。スノコ(床から荷物を離すための簀の子状の台)やラック、台車で高さを確保する。FDA Food Code は保管について床から 15 cm(6 インチ)以上を求めており、水はねや掃除の跳ね返りを避けるため日本でも同程度以上を目安にする(厚生労働省の大量調理施設衛生管理マニュアルは、食品の取り扱いを床面から 60 cm 以上で行うよう定めている)。搬入の動線は「外→搬入口→冷蔵庫」とし、段ボールが調理区画を横切らないようにする。

5.6 テイクアウトと配達 ― 店を出た後も店の責任

持ち帰りの寿司は、客の手に渡った瞬間から温度管理が店の手を離れる。だからこそ渡す前にできることをすべて行い、客に守ってもらうことを伝える。店が果たすべき責任は二つである。保冷剤を適切に配置して 10℃以下を維持すること、そして「製造から何時間以内にお召し上がりください」という消費期限を明確に伝え、明記することである。注文を受けてその場で詰める持ち帰りは食品表示基準の表示義務の対象外とされるが、法の義務がなくても書いて渡す。生食用鮮魚介類の保存基準が 10℃以下である以上、折詰の中の魚も同じ温度で守るべきである。

保冷剤は上に置く。冷たい空気は下に沈むため、上に置いた保冷剤は中身全体を冷やすが、底に置けば底面しか冷えない。保冷剤は「冷えているものを冷たく保つ」ものであり、詰める前にネタと器を冷やしておく。製造時刻を箱に記し、「○時間以内」を明記する。夏場に保冷なしで 2 時間を超える持ち帰りは引き受けないなど、断る基準も先に決めておく。気温 30℃を超える日や長距離の持ち帰りには保冷バッグを必須にし、生ものを減らして加熱したネタ中心の内容を提案する。配達では車内の温度と到着までの時間を把握し、保冷ボックスを使う。

5.7 記録と HACCP の考え方

HACCP(ハサップ。Hazard Analysis and Critical Control Point、危害要因分析重要管理点。工程ごとに危害を洗い出し、重要な工程を決めて管理・記録する手法)は世界の食品衛生の標準である。日本では 2018 年 6 月の食品衛生法改正で原則としてすべての食品等事業者に HACCP に沿った衛生管理が制度化され、2020 年 6 月に施行、1 年の経過措置を経て 2021 年 6 月に完全施行された。個人経営の寿司店も例外ではない。

ただし小規模な飲食店に求められるのは分厚い計画書ではない。「HACCP の考え方を取り入れた衛生管理」として、業界団体が作成し厚生労働省が確認した手引書に沿い、衛生管理計画を作る、実施する、記録して保存するの三つを行えばよい。計画は「一般衛生管理」(手洗い、清掃、消毒、健康管理、害虫対策)と「重要管理」(温度と時間)の二本立てで、寿司店の重要管理はこの章の内容そのものである。

  • 冷蔵庫・冷凍庫・ネタケースの温度(開店前と閉店後の 1 日 2 回以上)
  • 納品時の品温と検品結果、加熱するものの中心温度と冷却に要した時間
  • シャリを炊いた時刻、酢を合わせた時刻、廃棄した時刻(第6章・第9章参照)
  • 仕込み品・自家製調味料の仕込み日と期限、従業員の健康状態と手洗いの実施

記録には二つの役割がある。一つは証拠である。事故や疑いが生じたとき、記録があれば原因の特定と自店の潔白の証明ができる。もう一つは気付きの道具である。毎日温度を書いていると「閉店後の温度が 1℃高い」といった変化に気付き、冷蔵庫の故障を事故の前に見つけられる。衛生を一人の注意力に頼らず、温度・時間・順序を決めて書き出す標準化(手順と基準を文書にし、全員が同じやり方で行うこと)が要る。職人の技は標準化できないが、衛生は標準化できるし、しなければならない。

海外で店を構えれば、保健所の検査官が予告なく訪れる。検査官が見るのは職人の経歴ではなく記録である。温度記録簿が今日の分まで書かれているか、容器に日付があるか、酢飯の pH の記録があるか(第6章参照)。海外では「書いてなければやっていない」と判断される。検査官への対応は、言い訳ではなく記録簿を開いて見せることである。

冷凍 冷蔵 危険温度帯 10〜60℃ 20〜40℃で増殖が最も速い 加熱・保温(60℃以上) −30 −20 0 10 20 40 60 80 100℃ −20℃・24時間:アニサキス 35〜37℃:人肌のシャリ 10℃以下:生食用魚介の法定保存温度 0〜4℃:生鮮魚(チルドは −1〜1℃) 85〜90℃・90秒:ノロウイルス
図5-1 寿司店の温度の目盛り。75℃・1 分以上の加熱で一般の食中毒菌は死ぬが、芽胞と耐熱毒素は残る。人肌のシャリは危険温度帯の中にあり、だからこそ酸と時間で守る(第6章)。−20℃・24 時間は厚生労働省が示すアニサキスの予防法で、法令上の保存基準ではない。

この章のまとめ

  • 生食用魚介は法で 10℃以下、実務は 0〜4℃。危険温度帯は 10〜60℃。
  • 管理すべきは庫内温度ではなく品温。熱いものは急冷してから入れる。
  • 仕込みは小出し。仕込み済みは即冷蔵。つけ場での切り置きは最も危険。
  • 先入れ先出し。古いものを手前。仕込み品と自家製調味料にも日付。生魚は下段、加熱済みは上段。氷は身に直接当てない。
  • 消費期限は過ぎたら即廃棄。賞味期限は品質の目安。開封後は無効。
  • 納品は温度・鮮度・包装・異物を検品。段ボールは厨房に入れず、スノコで床から離す。
  • テイクアウトは保冷剤で 10℃以下を保ち、「何時間以内」を明記して伝える。
  • HACCP に沿った衛生管理は原則すべての食品等事業者の義務。小規模な店は「HACCP の考え方を取り入れた衛生管理」で、計画・実施・記録。

確認問題

問1 冷蔵庫の温度表示は 3℃なのに、サクに芯温計を刺すと 9℃だった。最も適切な判断はどれか。
a 法定の 10℃以下なので問題はない
b 表示は庫内の空気の温度であり、品温は遅れて追従する。品温で管理し、配置と開閉を見直す
c 魚は内部で発熱するので 9℃以下にはならない
d 芯温計の故障なので表示を信じる
e 冷凍庫に移して芯まで凍らせる

答え:b

庫内温度は空気の温度、品温は食材そのものの温度であり、一致しない。a は法の最低線を実務の目標と取り違えており、e はサクが解凍品であれば再冷凍の禁止(第12章)にも反する。

問2 自家製の煮切り醤油の管理として最も適切なものはどれか。
a 塩分が高く腐らないので日付は不要である
b 加熱してあるので常温の棚に置き、なくなるまで使う
c 仕込み日を記し、冷蔵し、古いものから使い、店で決めた期限を過ぎたら廃棄する
d 新しく作ったものを手前に置き、古いものは奥へ送る
e 匂いが変わるまでは安全なので匂いで判断する

答え:c

先入れ先出しと日付表示は自家製調味料にも徹底する。煮切りは加熱済みだが、使うたびに刷毛や箸から菌が入る。d は FIFO の向きが逆、e は菌が増えても匂いが変わらない段階があるため誤りである。