付録
付録B
寿司ことば
寿司の仕事で使う言葉を集めました。B.1 は本書に出てくる用語を五十音順に並べ、やさしく説明したものです。B.2 は寿司屋で昔から使われてきた職人の符丁(仲間うちの言葉)とその語源、B.3 は季節や大きさで呼び名が変わる魚の名前です。言葉の由来には、はっきりしないものが少なくありません。諸説あるものは、そう書いてあります。
B.1 本書の用語(五十音順)
漢字の言葉は( )に読みを示し、主に扱う章を末尾に書きました。語源を B.2 や B.3 で扱う言葉には「→B.2」のように示しています。
あ行
- 赤酢(あかず)
- 酒粕から造る酢。粕酢(かすず)ともいいます。赤茶色で、まろやかな旨味があります。江戸の握り寿司の酢飯を支えた酢で、合わせ酢に砂糖を入れない店もあります。(第7章・第18章)
- 赤身(あかみ)
- マグロの身のうち、脂の少ない部分。色が濃く、鉄分の風味と酸味があります。背側の中心にある、筋の少ない最上の部分を天身(てんみ)といいます。(第10章)
- 上がり(あがり)
- 寿司屋で出す熱いお茶。粉茶を使うことが多い。熱いお茶が口に残った脂を流し、お茶の渋みのもと(カテキン)がタンパク質と結びついて口の中をさっぱりさせ、次の一貫の味がよく分かるようになります。→B.2(第15章)
- アニサキス
- サバ・アジ・イワシ・サンマ・カツオ・サケ・イカなどにいる寄生虫の幼虫。長さ 2〜3 cm の白い糸のような姿で、魚が死ぬと内臓から身に移ることがあります。−20℃で 24 時間以上の冷凍(魚の中心が −20℃になってから数える)か、70℃以上または 60℃で 1 分の加熱で死にます。酢・塩・わさび・醤油では死にません。(第2章・第9章)
- 炙り(あぶり)
- ネタの表面だけを直火で焼く仕事。焼き霜ともいいます。皮の下の脂が溶け、香ばしさが加わり、中は生のまま残ります。(第9章・第10章)
- 活け締め(いけじめ)
- 生きている魚の脳を壊して即死させ、血を抜く締め方。魚が暴れて疲れないので死後硬直が遅れ、生臭さと傷みも抑えられます。さらに背骨の中の神経にワイヤーを通して壊すのが神経締め。網や氷の中でそのまま死なせるのは野締めといい、鮮度が早く落ちます。(第8章)
- 江戸前(えどまえ)
- もとは江戸の前の海(江戸湾、いまの東京湾)と、そこで獲れた魚のこと。のちに、締める・煮る・漬けるなどの仕事をして酢飯と合わせる、握り寿司の流儀を指すようになりました。(第18章)
- エンガワ
- ヒラメやカレイのひれを動かす筋肉の部分。よく動くので脂とコラーゲンが多く、コリコリした歯ごたえがあります。一尾から取れる量はわずかです。(第11章)
- 黄色ブドウ球菌(おうしょくぶどうきゅうきん)
- 人の鼻や皮膚、手の傷にいる菌。食べ物の中で増えるときに毒素を作り、この毒素は加熱しても壊れません。防ぐ柱は、手洗いと傷の管理で菌を付けないことと、10℃以下に保って増やさないことの二つです。(第2章・第3章)
- おまかせ・お好み
- おまかせは、職人が順番と内容を決めて出す出し方。お好みは、お客様が一貫ずつ注文する出し方です。(第19章)
か行
- ガリ
- 生姜の甘酢漬け。6〜8 月に出回る新生姜が原料に向きます。辛味と酸味で口の中を切り替える口直しの役をします。お客様が直接口にするものなので、盛るときは手でつかまず、専用の箸かトングを使います。→B.2(第15章)
- 危険温度帯(きけんおんどたい)
- 多くの食中毒菌が増える 10〜60℃の温度。30〜40℃付近でいちばん速く増えます。食べ物をこの温度に置く時間を、できるだけ短くします。(第1章・第4章)
- 切り付け(きりつけ)
- サクから、握りに乗せる一切れを切り出すこと。柳刃包丁の長い刃を使い、手前に一度で引く「引き切り」で切ります。(第17章)
- 軍艦(ぐんかん)
- シャリの周りを帯状の海苔で囲み、上にイクラ・ウニなど形の定まらないネタを乗せた握り。海苔はシャリの水分ですぐ湿るので、巻いたらすぐに出します。→B.2(第17章)
- ゲソ
- イカの足(腕)。塩もみで吸盤の硬い輪を落とし、さっと茹でて、ツメを塗って握るか炙ります。→B.2(第12章)
- 交差汚染(こうさおせん)
- 生の魚や汚れた手・器具から、菌やアレルギーの原因になる食材が、別の食べ物に移ること。器具を分けるか、作業と作業の間に洗浄と消毒をはさんで防ぎます。(第3章)
- 昆布締め(こぶじめ)
- 塩をした白身を昆布ではさんで寝かせる仕事。昆布が余分な水分を吸って身を締め、昆布の旨味(グルタミン酸)と魚の旨味(イノシン酸)が合わさって、旨味が強くなります。(第9章・第11章)
- 古米・新米(こまい・しんまい)
- その年に収穫した米が新米、次の新米が出るまでの前の年の米が古米です。古米は保管のあいだに米の成分(脂質・デンプン・タンパク質など)が少しずつ変わって粒が硬くなり、炊いても粒が立ってベタつきにくいとされます。新米に古米を混ぜて使う店があります。(第6章)
さ行
- 先入れ先出し(さきいれさきだし)
- 古いものから先に使う決まり。古いものを手前、新しいものを奥に置き、容器には日付を書きます。仕入れた魚だけでなく、仕込んだネタや、自家製のツメ・煮切り・ガリ・合わせ酢にも当てはめます。(第4章)
- サク
- おろした身を、切り付けしやすい長方形の塊に切り分けたもの。この作業をサク取りといいます。(第17章)
- 三枚おろし(さんまいおろし)
- 魚を上の身・下の身・中骨の三枚に分ける、基本のおろし方。体の平たいヒラメやカレイは五枚おろしにします。(第17章)
- 次亜塩素酸ナトリウム(じあえんそさんなとりうむ)
- 塩素系の消毒剤で、ノロウイルスにも効きます。まな板やダスターには 200 ppm、嘔吐物の処理には 1,000 ppm に薄めて使います。金属をさびさせ、酸性の洗剤と混ぜると有毒なガスが出ます。(第2章・第3章)
- 死後硬直(しごこうちょく)
- 魚が死んだあと、しばらくして身が硬くなること。やがて硬さがほどけ、そのあと熟成が進みます。活け締めと低温で始まりが遅れます(ただしマダイなど一部の魚は、締めてすぐ 0℃に冷やすと、かえって早まります)。(第8章)
- シャリ
- 寿司飯(酢飯)のこと。→B.2(第6章・第7章)
- シャリ切り(しゃりきり)
- 炊きたての米を飯台に広げ、熱いうちに合わせ酢を打ち、切るように混ぜて冷ますこと。(第7章)
- 熟成(じゅくせい)
- 締めた魚を 0〜4℃(できれば 0〜2℃)で清潔に寝かせ、魚自身の酵素の働きで旨味を増やし、身を柔らかくすること。菌が増える腐敗とは別のものです。アンモニアのようなにおいや苦味が出たら、熟成ではなく腐敗です。(第1章・第8章)
- 消費期限・賞味期限(しょうひきげん・しょうみきげん)
- 消費期限は「安全に食べられる期限」で、寿司・刺身・弁当など傷みやすいものに付けます。1 日でも過ぎたら捨てます。賞味期限は「おいしく食べられる期限」で、酢・醤油・乾物など日持ちするものに付けます。(第4章)
- すき引き(すきびき)
- 包丁を寝かせて、うろこを皮の表面ごと薄くそぎ取る方法。身が割れにくく、うろこの根元の汚れごと取れます。(第9章)
- 酢締め・塩締め(すじめ・しおじめ)
- 塩締めは、魚に塩を当てて水分を抜き、身を締めること。そのあと酢に漬けるのが酢締めで、コハダやサバが代表です。締めは菌を殺す処理ではなく、傷むのを遅らせる処理です。アニサキスは酢でも塩でも死にません。(第9章・第11章)
- 生食用・加熱用(せいしょくよう・かねつよう)
- 生食用は、生で食べるための国の基準(菌の数、洗う水、10℃以下での保存など)を満たした魚介に付く表示です。「加熱用」と書かれた貝や魚を生で出してはいけません。(第12章)
- 洗浄・消毒(せんじょう・しょうどく)
- 洗浄は、洗剤と水と力で汚れを落とすこと。消毒は、残った菌を熱や薬で殺すか減らすことです。順番は必ず「洗剤で洗う→すすぐ→消毒する→乾かす」。汚れの上から消毒しても、菌まで届きません。(第3章)
た行
- 立て塩(たてじお)
- 塩分約 3%の塩水(水 1 L に塩 30 g)。海水(約 3.4%)に近い濃さで、真水と違って身に水を吸わせずに、汚れや血を洗い落とせます。魚の体液と同じ濃さではありません(魚の体液は海水の約 3 分の 1)。(第9章)
- 血合い(ちあい)
- 魚の体の横の線(側線)にそって走る、暗い赤色の身。においが出やすく、色も早く変わります。(第10章・第11章)
- 腸炎ビブリオ(ちょうえんびぶりお)
- 海水にすむ菌で、夏の魚介で食中毒を起こします。真水に弱く、4℃以下では増えません。いちばん増えやすい条件では 8〜10 分で倍になります。(第2章)
- ヅケ
- マグロなどを、醤油を合わせた地(漬け地)に漬けた仕事。冷蔵庫のない江戸時代に、マグロを保存する工夫として生まれました。→B.2(第10章)
- つけ場・つけ台(つけば・つけだい)
- つけ場は、職人が寿司を握るカウンターの内側の仕事場。つけ台は、お客様の前で握りを置く台です。お客様が帰るたびに清潔なダスターで拭きます。→B.2(第19章)
- ツメ
- 穴子や煮貝に塗る、甘く濃いたれ。穴子の煮汁に醤油・砂糖・みりんを加えて煮詰めて作ります。「煮詰め」を縮めた呼び名です。継ぎ足して使いますが、常温に置きっぱなしにせず、毎日火を入れ、冷めたら冷蔵します。(第13章・第14章)
- 手返し(てがえし)
- 手の上でシャリとネタを合わせ、返して形を整える一連の動き。手数が多いほど手の熱がネタに移るので、少ない手数で握ります。(第17章)
- 手酢(てず)
- 握るときに手を湿らせる酢水。手水(てみず)に酢を加えたものです。米粒が手につくのを防ぎ、手の表面を弱い酸性に保って菌が付きにくくします。(第5章・第17章)
- 特定原材料(とくていげんざいりょう)
- 食品表示でアレルギーの表示が義務になっている 9 品目。えび・かに・くるみ・小麦・そば・卵・乳・落花生・カシューナッツ(カシューナッツは 2026 年 4 月に追加)。醤油や煮切りには小麦が入っています。(第2章・第19章)
- トロ
- マグロの脂の多い部分。腹側の、頭に近いところほど脂が厚くなります。とくに脂の多い腹の皮に近い部分を大トロ、脂と赤身のつり合いがよい部分を中トロと呼び分けます。(第10章)
な行
- なれずし
- 塩漬けの魚を米と一緒に漬け込み、乳酸発酵させた保存食で、寿司のいちばん古い形です。乳酸の酸で魚を守ります。米は発酵のためのもので、食べません。鮒ずしが代表です。(第5章・第18章)
- 煮切り(にきり)
- 醤油に酒やみりんを加えて火にかけ、アルコールを飛ばした寿司用の醤油。角が取れてまろやかになります。職人が刷毛で握りに塗ります。(第14章)
- ネタ
- 寿司の上に乗せる魚介や玉子などの材料。→B.2
- ノロウイルス
- 冬に多い食中毒のウイルス。二枚貝や、感染した人の手から広がります。10〜100 個というわずかな量でうつります。85〜90℃で 90 秒以上の加熱と次亜塩素酸ナトリウムで対処し、アルコールは効きにくいので、手は二度洗いで流します。(第2章・第3章)
は行
- HACCP(はさっぷ)
- 原材料を受け取ってから提供するまでの工程で起こりうる危険を前もって考え、とくに管理する点と基準を決め、記録で確かめる衛生管理のやり方。日本では 2021 年 6 月から、原則としてすべての食品等事業者に義務づけられています。(第4章)
- 早ずし(はやずし)
- 発酵させる代わりに、酢を飯に混ぜて作る寿司。江戸時代に広まりました。一晩で作れることから「一夜ずし」とも呼ばれました。(第18章)
- 飯台(はんだい)
- シャリ切りに使う、浅く広い木の桶。木が余分な水分を吸い、乾くと吐き出します。使う前に湿らせ、使った後はよく洗って完全に乾かします。(第7章)
- 光り物(ひかりもの)
- 皮の銀色を残して握る青魚・小魚。コハダ・サバ・アジ・サヨリ・キス・サンマ・イワシなど。傷みが速いので、塩と酢で締めることが多いネタです。→B.2(第11章)
- 引き切り(ひききり)
- 柳刃包丁の長い刃を使い、手前に一度引いて切る切り方。身をつぶさないので切り口がなめらかで、ドリップも出にくくなります。(第17章)
- ヒスタミン
- マグロ・カツオ・サバなど赤身の魚に多い成分(ヒスチジン)が、菌の働きで変わってできる物質。一度できると、加熱しても冷凍しても壊れません。冷蔵でも長く置けばできることがあります。食べてから 1 時間以内に顔が赤くなる、じんましんが出るなどの症状を起こします。(第2章)
- 人肌(ひとはだ)
- 握るときのシャリのちょうどよい温度で、約 35〜37℃。冷蔵庫に入れたご飯は硬くなるので、シャリは冷やしません。(第7章)
- 品温(ひんおん)
- 食べ物そのものの温度。冷蔵庫の中の空気の温度(庫内温度)とは違います。冷蔵庫の表示が 3℃でも、入れたばかりの魚の芯は 10℃を超えていることがあります。芯温計を刺して測ります。(第4章)
- 腐敗(ふはい)
- 菌が魚のタンパク質などを分解して、いやなにおいの物質を作ること。熟成とは別のもので、腐敗した魚は使えません。(第1章・第8章)
- 細巻き・太巻き(ほそまき・ふとまき)
- 細巻きは、半分に切った海苔(半切)に具を一種類だけ巻いたもの。鉄火(マグロ)・かっぱ(きゅうり)・干瓢・新香(漬物)が代表です。太巻きは、全形の海苔に玉子焼き・干瓢・椎茸など何種類もの具を巻いたものです。→B.2(第17章)
ま行・や行・わ行
- ミョウバン
- ウニの形を保つために使う食品添加物。多すぎると苦味や渋みがウニに移ります。ミョウバンを使わない塩水ウニもあります。(第13章)
- メト化(めとか)
- マグロの赤い色が茶色くくすむこと。色のもとの色素(ミオグロビン)に含まれる鉄が酸化して起きます。一度茶色くなると、元の赤には戻りません。低温に保ち、空気と光をさえぎって遅らせます。(第10章)
- 湯霜(ゆしも)
- 魚の皮や身に熱湯をかけ、すぐ氷水で冷やす仕事。表面だけを固め、皮を柔らかくし、臭みを飛ばします。マダイの皮に熱湯をかける松皮造りもその一つです。(第9章・第11章)
- わさび(本わさび・西洋わさび)
- 本わさびは日本原産の植物で、根茎をおろして使います。西洋わさび(ホースラディッシュ)は別の植物で、海外で「わさび」として売られている粉やチューブの多くはこちらです。辛味はおろして細胞が壊れたときに生まれ、3〜5 分でいちばん強くなります。→B.2(第15章)
B.2 職人の符丁と寿司屋ことば
符丁(ふちょう)とは、同じ仕事をする仲間のあいだだけで通じる言葉です。寿司屋の符丁には、仕事を手早く進めるための短い言葉や、お客様の前で言いにくいことを伝えるための言葉があります。いまでは「シャリ」「ネタ」「ガリ」のように、一般の人も使うようになった言葉もあります。由来がはっきりしない言葉が多いので、ここでは広く知られている説を紹介し、説が分かれるものは「諸説あります」と書きました。
- シャリ(舎利)
- 酢飯のこと。白い米粒を、お釈迦様の遺骨である仏舎利(ぶっしゃり)にたとえたという説がよく知られています。古いインドの言葉(サンスクリット語)で米を表す言葉から来たという説もあり、諸説あります。
- ネタ
- 寿司の上に乗せる材料。材料を意味する「たね(種)」を逆さに読んだ言葉とされます。
- ガリ
- 生姜の甘酢漬け。噛んだときの「ガリッ」という音から、とされます。
- あがり(上がり)
- お茶。芸者の世界(花柳界)で淹れたてのお茶を「上がり花」と呼んだ言葉が、寿司屋の符丁になったとされます。食事の最後に出るお茶だから、という説もあり、語源には諸説あります。
- むらさき(紫)
- 醤油。醤油の色が紫がかって見えることから、という説がよく知られていますが、諸説あります。
- なみだ(涙)・さび
- わさび。つんと鼻に抜けて涙が出ることから「なみだ」。「さび」はわさびを縮めた言い方で、わさびを入れない握りを「さび抜き」といいます。
- ギョク(玉)
- 玉子焼き。「玉」の字を音で読んだ言葉です。
- ゲソ(下足)
- イカの足。脱いだ履物を意味する「下足(げそく)」を縮めた言葉とされます。
- おてもと(お手元)
- 箸のこと。
- つけ場
- 職人が握る、カウンター内側の仕事場。寿司を握ることを「つける」ということから、とされます。マグロの「ヅケ」(漬け)とは別の言葉です。
- ヅケ(漬け)
- 醤油の地に漬けたマグロなど。「漬ける」から来た言葉です。江戸時代、マグロは傷みやすいので醤油に漬けて使いました。
- 光り物
- 皮が銀色に光る魚。皮の内側に結晶の層があり、鏡のように光を反射するので光って見えます。
- 軍艦
- 海苔でぐるりと囲んだ握り。横から見た形が軍艦に似ていることからの名です。握りの中では新しい形で、昭和に入ってから生まれたという話がよく知られています。
- 鉄火(てっか)
- マグロを使った巻物(鉄火巻き)や丼(鉄火丼)。マグロの赤を、熱して真っ赤になった鉄にたとえたという説と、博打の場(鉄火場)で手を汚さずに食べられるように作られたという説があり、諸説あります。
- かっぱ(河童)
- きゅうり。きゅうりが河童の好物とされることから、という説がよく知られています。きゅうりの切り口が河童の頭の皿に似ているから、という説もあり、諸説あります。
- お愛想(おあいそ)
- お勘定。もとは店の側が使う言葉で、「愛想のないことで申し訳ありません」という気持ちで勘定書きを出したことから、などといわれます。本来はお客様が使う言葉ではないとする考え方もありますが、語源と使い方には諸説あります。
- 兄貴・弟(あにき・おとうと)
- 先に仕入れたネタが兄貴、後から仕入れた新しいネタが弟。「兄貴から使って」のように、お客様の前で「古い」と言わずに、先入れ先出しを伝える言葉です。
- 片思い(かたおもい)
- アワビ。アワビは巻貝の仲間で、殻が片側にしかないことから、「磯のアワビの片思い」ということわざになぞらえた言い方です。
- ヤマ
- 品切れ。「ネタがヤマになった」のように使います。由来ははっきりしません。
B.3 魚の呼び名と季節のことば
寿司屋では、同じ魚でも大きさや季節によって呼び名が変わります。名前を知っていると、魚の状態と旬が一緒に覚えられます。月ごとの旬は付録Cにまとめました。
- 出世魚(しゅっせうお)
- 大きくなるにつれて名前が変わる魚。昔、人が出世するたびに名を改めたことになぞらえた呼び名とされます。コハダ(シンコ→コハダ→ナカズミ→コノシロ)、スズキ(セイゴ→フッコ→スズキ)、ブリ(下の寿司ばなし)などがあります。
- シンコ(新子)
- コハダの幼魚で、長さ 4〜6 cm。初夏から夏に出回り、出始めには極端な高値が付きます。身が薄いので、塩も酢もごく短い時間で締めます。
- 桜鯛・紅葉鯛(さくらだい・もみじだい)
- 春、産卵の前に体の色が桜色に冴えたマダイが桜鯛。秋、産卵の疲れから回復して再び脂が乗ったマダイが紅葉鯛です。
- 麦わらダイ(むぎわらだい)
- 初夏、産卵を終えて身が痩せたマダイ。味が落ちる時期です。麦を刈り入れるころであることからの名とされます。イサキでは反対に、梅雨時の旬を「麦わらイサキ」と呼びます。
- 寒平目・猫またぎ(かんびらめ・ねこまたぎ)
- 晩秋から冬の、脂の乗ったヒラメが寒平目。夏の産卵後のヒラメは、猫もまたいで通るほど味が落ちるという意味で「猫またぎ」と呼ばれます。
- 寒ブリ(かんぶり)
- 12〜2 月の、脂がいちばん乗ったブリ。春に産卵すると脂が抜けます。
- 初鰹・戻り鰹(はつがつお・もどりがつお)
- 4〜5 月の初鰹は脂が少なくさっぱりし、9〜10 月の戻り鰹は脂が乗ります。
- 入梅イワシ(にゅうばいいわし)
- 梅雨時(6〜7 月)の、脂が乗ったイワシ。
- 梅雨穴子(つゆあなご)
- 梅雨時の穴子。身が柔らかく脂が穏やかで、煮穴子に向きます。
- 新イカ(しんいか)
- スミイカ(コウイカ)の小さな子。晩夏(8〜9 月)に出回ります。
- 夏マグロ(なつまぐろ)
- 産卵で脂が抜けた夏のクロマグロ。赤身の酸味が立ちます。腐って酸っぱいのではありません。

