付録
付録A
覚えておきたい数字
本書に出てくる温度・時間・濃さの数字のうち、二級で必ず覚えておきたいものを集めました。数字は、条件と一緒に覚えてください。「−20℃」だけでは現場で使えません。「魚の中心が −20℃になってから 24 時間以上」と覚えて、はじめて役に立ちます。
表の「意味」の欄の終わりに、その数字の性格を【 】で示しました。【基準】は、法令や国の基準・指針・呼びかけに基づく数字です。【知見】は、科学的に分かっていることです。【目安】は、職人の経験や幅のある目安で、魚の大きさ・脂・季節・店のやり方で変わります。【目安】の数字は丸暗記するより、なぜその数字なのかを「本書の章」の欄の章で確かめてください。
A.1 温度
冷たいほうから順に並べました。冷凍・冷蔵・危険温度帯・加熱の四つの区切りを、一本の温度計の目盛りとして思い浮かべると覚えやすくなります。
| 数字 | 意味 | 覚え方のコツ | 本書の章 |
|---|---|---|---|
| −60℃以下 | 超低温冷凍。遠洋で獲ったマグロを船の上で凍らせ、長く保存する温度。脂の酸化や色の変化(メト化)がほぼ止まり、寄生虫も死ぬ。【知見】 | ふつうの冷凍庫(−18℃)より 40℃以上も低い、「マグロ船の温度」。 | 第9章・第10章 |
| −20℃で 24 時間以上 | アニサキスを殺す冷凍の条件。厚生労働省の呼びかけで、法令上の義務ではない。確実にするには、魚の中心が −20℃に達してから数える。【基準】 | 「マイナス 20 で、まる 1 日」。酢・塩・わさび・醤油では死なない。海外の基準は A.4 を参照。 | 第2章・第9章 |
| −18℃以下 | 家庭用や一般の業務用冷凍庫の標準の温度。菌は増えないが、死なない。脂の酸化はゆっくり進み、冷凍焼けが起きる。【知見】 | 「−18℃と −20℃は別物」。ふつうの冷凍庫には、アニサキス対策の −20℃に届かないものが多い。 | 第4章・第9章 |
| −5〜−1℃ | 最大氷結晶生成帯。身の中の水が氷になる温度帯。ここをゆっくり通ると大きな氷の結晶が細胞を壊し、解凍したときにドリップ(旨味を含んだ汁)が出る。【知見】 | 「さっと通り過ぎる帯」。急速冷凍・急速解凍は、この帯を短い時間で通すため。 | 第9章 |
| 0〜4℃ | 冷蔵と熟成の温度。同時に、炊いたご飯(デンプン)がいちばん早く硬くなる温度帯でもある。【知見】 | 「魚にはよく、シャリには悪い」。シャリを冷蔵庫に入れない理由。 | 第7章・第8章 |
| 4℃以下 | 腸炎ビブリオが増えない温度。厚生労働省は、生食用の魚介を 4℃以下で保存するよう指導している。冷やしても菌は死なない。【基準】 | 法令の線は 10℃、腸炎ビブリオを増やさない線は 4℃。「理想は 4℃以下、少なくとも 10℃以下」。 | 第2章・第4章 |
| 10℃以下 | 生食用の魚介を保存する温度の上限(法令の基準)。持ち帰りの寿司も 10℃以下を保つ。【基準】 | 本書でいちばん大事な数字。現場では余裕を見て、ネタケースや冷蔵庫を 5℃以下に合わせる店が多い(目安)。 | 第4章・第19章 |
| 10〜60℃ | 危険温度帯。多くの食中毒菌が増える温度。30〜40℃付近でいちばん速く増える。【知見】 | 「10 から 60 は危ない帯」。夏の台所に置きっぱなしの弁当を思い出す。 | 第1章・第4章 |
| 24〜30℃ | マグロの脂(トロ)が溶ける温度の目安とされる。【目安】 | 冷たいシャリでは脂が溶けきらない。トロに人肌のシャリを合わせる理由。 | 第10章 |
| 35〜37℃ | シャリの「人肌」。職人の体温(約 36℃)とほぼ同じ。【目安】 | 「自分の体温」と覚える。ご飯が硬くなるのを遅らせ、ネタの脂を口の中で溶かす。手数が多いと、この体温がネタを傷める。 | 第7章・第17章 |
| 70℃以上/60℃で 1 分 | アニサキスを殺す加熱の条件。【基準】 | 「70 ならすぐ、60 なら 1 分」。 | 第2章 |
| 中心 75℃で 1 分以上 | 食べ物の中心を加熱する基準。一般的な食中毒菌を殺す。【基準】 | 「中心 75 で 1 分」。ただし熱に強い菌の殻(芽胞)と、加熱で壊れない毒素には効かない(100℃の行を参照)。 | 第1章・第2章 |
| 80℃で 5 分以上 | 包丁・まな板などの器具の熱湯消毒。【基準】 | 必ず先に洗剤で汚れを落とす。汚れが残ると熱で固まり、中の菌を守ってしまう。 | 第3章 |
| 85〜90℃で 90 秒以上 | ノロウイルスの感染力をなくす加熱の基準(中心の温度)。【基準】 | ノロウイルスは手ごわいので、「75℃で 1 分」より高い温度と長い時間が要る。 | 第2章 |
| 100℃(沸騰) | 多くの菌と寄生虫は死ぬ。しかし、黄色ブドウ球菌の毒素、ヒスタミン、フグ毒などの自然毒は壊れず、セレウス菌などの芽胞は生き残る。【知見】 | 「煮ても焼いても消えないものは、最初から作らせない」。手洗い・10℃以下・時間の管理で防ぐ。 | 第1章・第2章 |
A.2 時間
菌は時間とともに増え、魚もシャリも時間とともに変わります。温度と時間は、いつも組にして考えます。
| 数字 | 意味 | 覚え方のコツ | 本書の章 |
|---|---|---|---|
| 約 30 秒 | 手洗い 1 回の時間。トイレの後や生の魚を触った後など、汚れの多い場面では二度洗いにする。【基準】 | 1 回目で皮脂と汚れを落とし、2 回目でしわや爪の奥まで石けんを届ける。 | 第3章 |
| 8〜10 分 | 腸炎ビブリオが倍に増える時間(いちばん増えやすい条件で)。【知見】 | 1 時間で数十倍になりうる。まな板の上にネタを出しっぱなしにしない。 | 第2章 |
| 夏 30 分〜1 時間・冬 1〜2 時間 | 米の浸水時間の目安(夏は水温 25℃前後、冬は 5〜10℃)。古米はさらに 30 分ほど長くとる。【目安】 | 水が冷たいほど、米が水を吸うのは遅い。芯まで水が入らないと、芯が残る。 | 第6章 |
| 2〜4 時間 | シャリの保温時間の上限の目安。この範囲で店ごとに上限を決め、酢を合わせた時刻を記録し、過ぎたシャリは握りに使わず捨てる。【目安】 | 酢飯でも、時間がたてばセレウス菌が増える余地がある。室温が 30℃を超える調理場や屋外では 2 時間を目安にする。 | 第5章・第7章 |
| 3〜5 分 | わさびの辛味がいちばん強くなる、すりおろしてからの時間。【目安】 | その後は辛味が抜けて苦味が残る。まとめておろし置きしない。 | 第15章 |
| 白身 2〜5 日、ブリ類 2〜4 日、青魚・イカは当日〜翌日 | 熟成の目安(0〜4℃、できれば 0〜2℃。活け締め・血抜きをした魚を、丸か皮付きのサクで保存した場合)。白身はマダイ・ヒラメ・スズキなど、ブリ類はブリ・カンパチ・シマアジ。貝は生きたまま保存し、開けたら当日。【目安】 | 脂が多く傷みやすい魚ほど短い。アンモニアのようなにおいが出たら腐敗。魚の種類と個体で大きく変わる。 | 第8章 |
| 2 時間・1 時間 | 持ち帰りの寿司の目安。10℃以下を保ち、作ってから「○時間以内」と書いて渡す。冷蔵を保てないなら 2 時間以内、気温が 32℃を超えるなら 1 時間以内に食べてもらう。【基準】 | 「冷やせないなら 2 時間、真夏は 1 時間」。 | 第4章・第19章 |
| 1 週間〜1 か月 | ノロウイルスにかかった人が、症状がなくなった後もウイルスを出し続ける期間(ふつう 1 週間、長いと 1 か月)。【知見】 | 治っても終わりではない。検便でウイルスがないと確認できるまで、食品に直接触れない。 | 第2章・第19章 |
A.3 濃さ・量
| 数字 | 意味 | 覚え方のコツ | 本書の章 |
|---|---|---|---|
| 約 3%(水 1 L に塩 30 g) | 立て塩。海水(約 3.4%)に近い濃さの塩水。真水と違って身に水を吸わせずに、汚れや血を洗い落とせる。【目安】 | 「海水と同じくらい」と覚える。魚の体液と同じ濃さではない(魚の体液は海水の約 3 分の 1)。 | 第9章 |
| 約 70%(効くのは 60〜90%) | 消毒用アルコール(エタノール)の濃さ。【知見】 | 濃いほど効くわけではない。菌のタンパク質を壊すには水が少し要る。ノロウイルスには効きにくい。 | 第3章 |
| 200 ppm(0.02%)/1,000 ppm(0.1%) | 次亜塩素酸ナトリウムの濃さ。まな板・ダスターの浸け置きや調理台は 200 ppm、嘔吐物や便の処理は 1,000 ppm。【基準】 | 「器具は 200、嘔吐物は 1,000」。金属をさびさせるので、後で水で流す。酸性の洗剤と混ぜない。 | 第2章・第3章 |
| pH 4.6 以下(実際の酢飯はおおむね 4.0〜4.5) | 酢飯の酸の強さの目安。【知見】 | 4.6 はボツリヌス菌の線。黄色ブドウ球菌などはもっと低い pH でも増えうるので、酸だけに頼らず、時間と温度も管理する。 | 第5章 |
| 米 1 升(約 1.5 kg)に酢 180〜220 mL | 合わせ酢の配合の出発点。関東の白酢(米酢 180 mL)なら塩 30〜35 g・砂糖 30〜60 g、江戸前の赤酢(180〜220 mL)なら塩 35〜45 g で砂糖なし、関西の押し寿司(米酢 180〜200 mL)なら塩 30〜40 g・砂糖 80〜120 g。【目安】 | 「米 1 升に、酢およそ 1 合(180 mL)」から始める。砂糖は関西ほど多く、赤酢では入れないこともある。店の流儀で大きく変わる。 | 第7章 |
| 10〜100 個 | ノロウイルスがうつるのに十分な数。【知見】 | 目に見えない量でうつる。手洗い・加熱・次亜塩素酸ナトリウムで防ぐ。 | 第2章 |
| 1 回約 80 g・週 1 回まで | 妊娠中の人がクロマグロ・メバチ・キンメダイ・メカジキなどを食べる量の目安。メチル水銀(水銀の一種)への注意として、厚生労働省が示している。【基準】 | 「80 g を週 1 回まで」。食べてはいけないのではなく、量の上限。 | 第10章 |
A.4 海外で働くときに
海外の温度計や基準書は、華氏(°F)で書かれていることがあります。華氏は「摂氏 × 1.8 + 32」で求められます。本書のおもな数字を華氏に直すと、次のようになります(計算した値。小数点以下は四捨五入)。
| 摂氏 | 華氏 | 本書での意味 |
|---|---|---|
| −35℃ | −31°F | 海外の寄生虫対策の冷凍(下の「海外の現場で」を参照) |
| −20℃ | −4°F | アニサキス対策の冷凍 |
| −18℃ | 0°F | ふつうの冷凍庫の標準 |
| 4℃ | 39°F | 腸炎ビブリオが増えない |
| 5℃ | 41°F | ネタケース・冷蔵庫の運用の目安 |
| 10℃ | 50°F | 生食用の魚介の保存の上限 |
| 32℃ | 90°F | 持ち帰りを 1 時間以内にする気温 |
| 60℃ | 140°F | 危険温度帯の上の端 |
| 75℃ | 167°F | 中心温度の加熱基準 |
| 85〜90℃ | 185〜194°F | ノロウイルスの加熱基準 |

